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捨てられたのに
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「皆アリスフィアお嬢様がお好きだったからだろう。趣味の悪さは王都一って第五王子は噂されているぞ」
「え……そのアリスフィアってそんなに?」
「おい! 呼び捨てになんてするんじゃない! アリスフィアお嬢様は末端使用人にも声をかけてくださるような方だ。悪い事に手を染めた使用人はきちんと罰するし、人の上に立つ人はあぁでなくちゃいけないと思う。ご自分にも厳しいところがあったが優しくてな。ご自分が言ったら気に触るような者には敢えて優しさなど見せなくてな……でもそうするうちに分かっていくんだよ。自分がどうすれば良いかって。自分で学んでいくんだ。学べないような奴はそこで終わりだ」
優しいって言ってるのに、優しさを見せない? ってなに。意味わからない。
「例えば? どういう事」
「あぁ……そうだなぁ、そこの茶髪の男いるだろ? ベリスっていうんだが元孤児でな。手先が器用で料理人になったんだ。料理人になりたい気持ちはあったんだが素直じゃなくてな……色んな職業を見せた結果、やっぱり料理人だ、一番良い顔をしていたってさ。それでベリス自ら料理人になりたい。と言ってここに修行に来たわけだ。王宮と言っても厨房はここだけじゃない。ここは王宮の中にある一つに過ぎないし、出世すりゃ王子達の食事当番になれるかもしれん。そうすりゃ一流だ」
王子達の当番は一流なの? それならこのおじさんは一流じゃない!
「で、でもおじさんだって王子と婚約者の食事当番だったんでしょう……」
「ん? 俺は予算内で作るのが得意な節約料理人だ。他の王宮料理人はそんなケチなことしねぇよ。俺は限られた予算内でそれなりに見えて美味い料理を作る事を課せられたんだ。皆嫌がるからな」
知らなかった……
「で、でも王子様ってお金持ちでしょう? なんで節約なんか」
「ん? そりゃ仕事が激減したからだろう? アリスフィア様と仕事していた時はそれなりにしていたが、ミスが続き重要な仕事を任せられなくなったと聞いた。蓄えはあるだろうが、贅沢したら赤字になるだろ? なんでも王子の客がドレスやら宝飾品やらをバカみたいに買ったとか? 金銭感覚がないのかねぇ」
え? 赤字って……
「王子の婚約者に充てられている予算ってあるんじゃ……」
「婚約者じゃなく“客”だからそんな予算は出ねぇから王子が私費で賄っている。だから“お客様”と呼ばれているんだ。王宮に居場所がないし王族と肩を並べられないから離れに住んでいるが、もうすぐ引っ越しだろ?」
私費? 引っ越し? 知らないけれど! 私はどうなるの?!
「えっと、私来たばかりで知らなくて……」
変な汗が出てきた……
「俺も話に聞いただけだけど、今離れにゃ誰も住んでない。王子の客がなにやら色んな罪で取り調べを受けているんだそうだ。窃盗・横領・住居侵入・虚偽・不敬・脅迫・強要・侮辱の罪に問われているんだそうだ。アリスフィアお嬢様の婚約者を奪い挙句に王子を北の大地に追放させるような悪魔のようなオンナだな」
窃盗・横領・住居侵入・虚偽・不敬・脅迫・強要・侮辱?! そんなことしてないってば! 誰かと間違えているのに!
「ん、北の大地って……」
「引っ越しが決まってんだろー。離れを掃除しに行ったメイド達がそう言っていたから間違いないだろ」
そんな! 北の大地って寒くて人間の住むところじゃないじゃない!
「そ、そうなんだ、ありがとう、ございます。私そろそろ……」
「おぅ、そうだな」
マズイわ! 私どうなるの! とにかく離れに戻って考えよう。そう思い離れに戻ると人の気配がした。メイド達が戻ってきたのかもしれないわね。
「レイラ、今戻ってきたのか。話があるんだ良いか?」
フランツだった。
「フランツ、久しぶりだね……元気にしてた?」
「あぁ久しぶりだな。元気そうに見えるかい? レイラこそ……相変わらずだな。その場にそぐわないドレスを着ているところ」
え? フランツの口から私に対する嫌味が聞こえたような? 場にそぐわないですって? これしかないのよ! 頼んだドレスの中でこれでも地味なんだから! 何も知らないくせに何よ! 自分がシンプルな衣装を着ているからってなんで責められなきゃいけないのよ! それなら普段着もちゃんと買ってくれればよかったのに!
「話ってなに?」
「立ち話もなんだから座ろうか?」
「良いわよ。どうせお茶も出ないんでしょ。用件だけ聞くわ」
「ははっ。私は馬鹿だな。なんでレイラがあんなに良く見えたのかさっぱり分からない。自分の人生を捨ててまでレイラと人生を歩もうとしていたのにこんな仕打ちか。まぁ良いか。明後日ここを出て北の大地へと引っ越すことになった。持っていくものを纏めておくように。と言ってもそんなに荷物はないだろうから準備はすぐに出来るだろう。話は以上だ。私は一人になって考えたい事があるから、出て行ってくれ」
「あ、そう。分かった」
本気で北の大地へ行くつもりなんだ! 早く逃げなきゃ! 大きな鞄が用意されていた。その鞄にフランツからもらったドレスや宝飾品を詰めた。このドレスじゃ目立っちゃうから何か他の服……
そうだ! 使用人の控え室に! ロッカーがありお仕着せが置いてあった。これに着替えて夜半過ぎにここを出よう。
「え……そのアリスフィアってそんなに?」
「おい! 呼び捨てになんてするんじゃない! アリスフィアお嬢様は末端使用人にも声をかけてくださるような方だ。悪い事に手を染めた使用人はきちんと罰するし、人の上に立つ人はあぁでなくちゃいけないと思う。ご自分にも厳しいところがあったが優しくてな。ご自分が言ったら気に触るような者には敢えて優しさなど見せなくてな……でもそうするうちに分かっていくんだよ。自分がどうすれば良いかって。自分で学んでいくんだ。学べないような奴はそこで終わりだ」
優しいって言ってるのに、優しさを見せない? ってなに。意味わからない。
「例えば? どういう事」
「あぁ……そうだなぁ、そこの茶髪の男いるだろ? ベリスっていうんだが元孤児でな。手先が器用で料理人になったんだ。料理人になりたい気持ちはあったんだが素直じゃなくてな……色んな職業を見せた結果、やっぱり料理人だ、一番良い顔をしていたってさ。それでベリス自ら料理人になりたい。と言ってここに修行に来たわけだ。王宮と言っても厨房はここだけじゃない。ここは王宮の中にある一つに過ぎないし、出世すりゃ王子達の食事当番になれるかもしれん。そうすりゃ一流だ」
王子達の当番は一流なの? それならこのおじさんは一流じゃない!
「で、でもおじさんだって王子と婚約者の食事当番だったんでしょう……」
「ん? 俺は予算内で作るのが得意な節約料理人だ。他の王宮料理人はそんなケチなことしねぇよ。俺は限られた予算内でそれなりに見えて美味い料理を作る事を課せられたんだ。皆嫌がるからな」
知らなかった……
「で、でも王子様ってお金持ちでしょう? なんで節約なんか」
「ん? そりゃ仕事が激減したからだろう? アリスフィア様と仕事していた時はそれなりにしていたが、ミスが続き重要な仕事を任せられなくなったと聞いた。蓄えはあるだろうが、贅沢したら赤字になるだろ? なんでも王子の客がドレスやら宝飾品やらをバカみたいに買ったとか? 金銭感覚がないのかねぇ」
え? 赤字って……
「王子の婚約者に充てられている予算ってあるんじゃ……」
「婚約者じゃなく“客”だからそんな予算は出ねぇから王子が私費で賄っている。だから“お客様”と呼ばれているんだ。王宮に居場所がないし王族と肩を並べられないから離れに住んでいるが、もうすぐ引っ越しだろ?」
私費? 引っ越し? 知らないけれど! 私はどうなるの?!
「えっと、私来たばかりで知らなくて……」
変な汗が出てきた……
「俺も話に聞いただけだけど、今離れにゃ誰も住んでない。王子の客がなにやら色んな罪で取り調べを受けているんだそうだ。窃盗・横領・住居侵入・虚偽・不敬・脅迫・強要・侮辱の罪に問われているんだそうだ。アリスフィアお嬢様の婚約者を奪い挙句に王子を北の大地に追放させるような悪魔のようなオンナだな」
窃盗・横領・住居侵入・虚偽・不敬・脅迫・強要・侮辱?! そんなことしてないってば! 誰かと間違えているのに!
「ん、北の大地って……」
「引っ越しが決まってんだろー。離れを掃除しに行ったメイド達がそう言っていたから間違いないだろ」
そんな! 北の大地って寒くて人間の住むところじゃないじゃない!
「そ、そうなんだ、ありがとう、ございます。私そろそろ……」
「おぅ、そうだな」
マズイわ! 私どうなるの! とにかく離れに戻って考えよう。そう思い離れに戻ると人の気配がした。メイド達が戻ってきたのかもしれないわね。
「レイラ、今戻ってきたのか。話があるんだ良いか?」
フランツだった。
「フランツ、久しぶりだね……元気にしてた?」
「あぁ久しぶりだな。元気そうに見えるかい? レイラこそ……相変わらずだな。その場にそぐわないドレスを着ているところ」
え? フランツの口から私に対する嫌味が聞こえたような? 場にそぐわないですって? これしかないのよ! 頼んだドレスの中でこれでも地味なんだから! 何も知らないくせに何よ! 自分がシンプルな衣装を着ているからってなんで責められなきゃいけないのよ! それなら普段着もちゃんと買ってくれればよかったのに!
「話ってなに?」
「立ち話もなんだから座ろうか?」
「良いわよ。どうせお茶も出ないんでしょ。用件だけ聞くわ」
「ははっ。私は馬鹿だな。なんでレイラがあんなに良く見えたのかさっぱり分からない。自分の人生を捨ててまでレイラと人生を歩もうとしていたのにこんな仕打ちか。まぁ良いか。明後日ここを出て北の大地へと引っ越すことになった。持っていくものを纏めておくように。と言ってもそんなに荷物はないだろうから準備はすぐに出来るだろう。話は以上だ。私は一人になって考えたい事があるから、出て行ってくれ」
「あ、そう。分かった」
本気で北の大地へ行くつもりなんだ! 早く逃げなきゃ! 大きな鞄が用意されていた。その鞄にフランツからもらったドレスや宝飾品を詰めた。このドレスじゃ目立っちゃうから何か他の服……
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