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フランツ謹慎となる

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「兄上失礼します」

 翌日兄から呼び出され王太子の執務室へと行った。兄が言っていた通りクレイグ殿もいた。

「クレイグ殿も居たのですね」

 するとクレイグは、にこりと美しい笑顔を見せた。アリスフィアもそうだがその笑みに隙はない。


「昨日レイラから話を聞きましたがあの子の言っている事が理解出来ずに、フランツ殿下から直接話を聞いた方が早いと思い馳せ参じました」


 兄を見ると無言で茶を飲んでいる。自分で話せと言う感じだろう。


「私はアリスと婚約破棄をしました」

 返事がないのでチラッとクレイグ殿と兄を見るとクレイグ殿が静かに言った。


「……どうぞ続けてください」


 まずは二人ともフランツの話を聞く事にしたようだ。


「アリスは生意気なんですよ。それにレイラを虐めて家で孤立するように仕向けていたんですよ。なぜそれを誰も気が付かず注意もせずにいたかと思うと胸糞悪い気持ちになりました。伯爵家の使用人の教育はどうなっているのでしょうか!」

 ドンっとテーブルを叩きクレイグの返事を待つ。


「……続けてください」


「アリスのご機嫌を伺いにいった時にはレイラが私の相手をしてくれた。さんざん待たされた挙句にのうのうとアリスが出てきて、私とレイラの話を遮り部屋から出ていったこともあったのだ」


「……続けてください」


「パーティーがあるからと伯爵家に呼び出された後、このチーフはおかしいだと言い、別のチーフに替えさせられた事もある。失礼な態度を取られた」


「……続けてください」


「その後アリスは客との話に夢中になり私を放っておいた。それを見かねたレイラが私の元に来たからレイラをエスコートする事になった」


「……続けてください」


「それを見たアリスが文句を言ってきた。貴方は王子としての職務を放棄するのかと! 私に恥をかかせたんだ!」


「……続けてください」


「学園でもそうだ! 伯爵家でのパーティーの後に口論してから私を馬鹿にしたように顔を見せないし、学年でトップの成績を取りレイラを小バカにしたようだ! 勉強だけが全てではないとレイラを宥めたんだ。そしてマナーを身につける様にと笑った」


「……続けてください」


「アリスといたら息が詰まる! レイラのような心の綺麗な令嬢といるのが私の望みだ!  どうせアリスは今頃クレマン子爵領に入って助けを求めているだろう! しかし身分剥奪をしたからアリスは単なる平民。クレマンの嫡男がアリスに対して少々手荒いことをしても許される」


「……なるほど分かりました」


「アリスがレイラと同じ家にいたら更にレイラに嫌がらせをするだろう。だから伯爵家から追放した。私とレイラから100キロ以内は立ち入り禁止とした。王都から100キロと言った感じで捉えてくれて構わないぞ」



「ふむ……続けてください」


「アリスと婚約破棄をし、レイラと婚約をするつもりで皆の前で宣言した! フェリクス兄さんも居たから、これに関しても翻る事はない」


「そうでしたか。分かりました」


 クレイグ殿がそう言うと兄は大きな大きなため息を吐いた。


「……私の弟がここまで愚かだったとは知らなかったし思わなかった。クレイグすまない。よくこんなバカの話を落ち着いて聞いてくれたな。私の周りは優れた者が多いようで私の将来は皆が居てくれたら安泰だな。フェリクスも騒ぎを大きくしない様に動いていたようだし、妃達もみな頑張っていた」


「そのようですね。それは感謝します」


 私がバカで愚か?


「フランツの言う通り婚約破棄は覆らないだろうから私が責任を持って婚約をさせてやるよ。しかしこちらの有責になるだろうな」

「いえ殿下、相手はレイラですし、こちらにも責任は有ります」

 なぜ責任を取りたがるんだろうか? 悪いのはアリスだろう。


「このことが周囲にバレるのは時間の問題だ。人の口に戸は立てられない。特に令嬢の口には……な」

 長期休暇に入ったところを見ると学園の生徒は領地に帰り、パーティーであったことを“ここだけの話”と言って話をするだろう。しかしそれを咎める事は出来ない。


「王家の信頼を一気に失う事になる。そしておまえの名も傷つく事になる。おまえのした事は単なる浮気だ。それを正当化しようとしている。相手の令嬢も略奪だな」


「う、浮気ですって? 失礼な……私はレイラと、」

「そうか。それならこれから起こるであろう苦難に耐えるんだぞ。いいな? のりこえられるな?」


「はい。勿論です!」


 父や母からは怒られるだろう。でも兄は呆れてはいるが怒っては居ない様子。隣にいるクレイグ殿もそうだ。きっと話せば分かってくれる。


「それでは王太子として命令を下す。フランツ・エル・シーバ! おまえを謹慎とする。期間は国王陛下が国へ帰ってくるまでだ。その後、沙汰を言い渡す。衛兵後は頼んだ」



「「「「「はっ」」」」」


「え?」



「それでは私も家に帰りレイラに謹慎するよう命じて来ます」

 すっと席を立つクレイグ。


「あぁ。私は少し調べことがあるから、そちらの事はおまえに任せた」



「あ、兄上っ!」


 衛兵に両腕を掴まれたフランツは情けない声を上げる。


「大人しくしろ。おまえの自分勝手さには呆れてものが言えぬ。婚約解消のことは私に任せておけ。きちんと対応する」


 さっと手を上げると衛兵達は頭を下げてフランツを連れ去っていった。




 フランツの部屋の前には部屋から出られぬように一日中衛兵が交代して見張っている。






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