上 下
11 / 93

山を越えた先の町

しおりを挟む

 山を下った先の町は学園で同級生の子爵家の領地だった。

「長閑で空気が澄んでいて良いところねぇ」

 牧場がある様だった。特産はミルクやチーズなど。

「宿をとらなければなりませんね。先ほど聞いた話によりますと宿場で長距離の馬車を予約できるそうです……っと最短で取れれば良いのだが」

 アリスがチラッと睨んだ事により敬語はなしになった。ショーンは執事の癖が抜けないようだ。

「ショーン兄さんお願いしますね」


 ショーンが宿を取りに行ってくれたので、子爵領の町を散策する事になった。こじんまりした感は否めないが綺麗に整備されている。朝市では新鮮なミルクなども販売しているそうだ。お洒落なカフェなどはないが、露店でヨーグルトドリンクが販売されていた。

 まずはミリーが試飲してみて、問題なければ口にしても良い様だ。ここでも過保護っぷりは健在だ。今はお嬢様ではないのだから普通に生活をしたいと思うのだが、私の身を案じてのことで無理強いは出来ない。


 宿が取れたとショーンが呼びにきた。ここでは高級宿などはなく一般的な宿しかない様でショーンが確認したところ、女主人が経営している清潔な宿だという事だ。

 宿へ向かう道中に長距離馬車のことも聞いたが、早くてもニ日後の予約になるという。その間はこの子爵領でのんびりしようという事になった。



 宿で食事をとったのだが、見たことのない料理で驚いた。パンの上にチーズが沢山載っていてトマトソースやバジルがトッピングされていて、伸びるチーズで口が火傷しそうだった。
 しかもフォークやナイフを使わずに手で掴んで口に入れるスタイルだった。

 サラダやスープも一緒に出て来て、忙しい。


「悪い事をしているみたいだわ」

 笑顔で食事をするアリスフィアを見てホッとする二人。


「アリス、外の世界とはこう言う感じですよ、早く戻りたいですか?」


 ミリーに言われたが、知らない世界を見るだけではなく体験できることが楽しい。


「家族に会いたいと言う気持ちはあるけれど、今までの生活とは違って物珍しいし、それに料理も美味しいわね。山登りも初めての経験よ」


 平民の服を着ていても分かる優雅で高貴な存在感のアリスフィアに宿の女将は不思議に思い、これは貴族様に違いない。と思った。貴族が子爵領にくる時は領主の家に滞在することが多く町の宿に泊まるなんて有り得ない。

 不審に思い領主へと連絡を入れた。平民とは思えない高貴そうな方が宿に泊まっている。お忍びという感じでもない。


 すると次の日の朝、視察がてら領主が顔を出して確認しに来た様だ。領主は特に見られて困ることはない領地だが、宿に泊まるという行為が理解できなかった。

 長閑な場所とはいえ子爵家での滞在はそれなりに満足してくれるはずだと言う自負がある。貴族が子爵家に滞在する事により情報交換が出来るし、宿泊をして領地の良さを知ってほしいとの思いもある。



「あちらで朝食をとっています」

 女将が領主に言った。

「どれどれ? 私が知っている顔か、な……なっ!」


「領主様? どうかされましたか?」



「ブラック伯爵家のお嬢様じゃないか!」
 

 驚く領主と女将。


 子爵は王宮のパーティーに顔を出すこともあり、王族の席にいるアリスフィアの事を知っているし、自分の息子の同級生。


「なぜ、にいるんだっ」

「こんなところとは失礼ですわ。これでもこの町では清潔で美味しい食事を出す宿で有名なんですからねっ!」


「いや、そうではなく、なぜこんな田舎にそぐわないお方がいるのかと言う事だ。女将の宿を貶したわけではない」


 この会話を聞く限り、子爵は悪い人ではなさそうだ。



「とにかく、食事を終えたら声をかけさせていただく」



 食事を終えたアリス達。

「美味しかったわね。このヨーグルトも美味しいけれど、フルーツのソースも甘酸っぱくて癖になりそうね」

 三人で食後のお茶を楽しんでいるときに声をかけられた。


「失礼します。ブラック伯爵家のご令嬢ではないですか? 私はここの領主でウォーカーと申すものです」


 子爵家の当主であるウォーカーだが、第五王子の婚約者で伯爵家の令嬢に敬意を表す礼をした。


 アリスはここはどうするべきか……と思いショーンを見た。


「ウォーカー子爵、ここは人目につきますので……」

 やんわりとここでする話ではないぞ。とショーンは言った。人目につくと言っても、宿泊客は皆慌ただしく旅立つ準備をしている。こちらに目を止めるものは皆無だ。


「申し訳ない。それでは場所を設けたいと思いますので、どうか我が家までお越しいただけませんでしょうか?」


 ささやかではあるが息子の同級生で、王子殿下の婚約者をもてなししなければいけないと言う気持ちからの事だった。



 アリスは正直言って面倒だと思っているが、正体を知られているから行く。としか言えなかった。ショーンはアリスの気持ちを察して答える。


「いつ頃向かえばよろしいですか? 私たちはニ日後にこの町を出ますので、時間はあまりありません」


「おぉ、そうでしたか。それでは迎えを寄越しますので、ランチは是非我が家でお召し上がりください。準備をしてお待ちしております」


 そう言ってウォーカー子爵は出て行った。





しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

またね。次ね。今度ね。聞き飽きました。お断りです。

朝山みどり
ファンタジー
ミシガン伯爵家のリリーは、いつも後回しにされていた。転んで怪我をしても、熱を出しても誰もなにもしてくれない。わたしは家族じゃないんだとリリーは思っていた。 婚約者こそいるけど、相手も自分と同じ境遇の侯爵家の二男。だから、リリーは彼と家族を作りたいと願っていた。 だけど、彼は妹のアナベルとの結婚を望み、婚約は解消された。 リリーは失望に負けずに自身の才能を武器に道を切り開いて行った。 「なろう」「カクヨム」に投稿しています。

記憶喪失の令嬢は無自覚のうちに周囲をタラシ込む。

ゆらゆらぎ
恋愛
王国の筆頭公爵家であるヴェルガム家の長女であるティアルーナは食事に混ぜられていた遅延性の毒に苦しめられ、生死を彷徨い…そして目覚めた時には何もかもをキレイさっぱり忘れていた。 毒によって記憶を失った令嬢が使用人や両親、婚約者や兄を無自覚のうちにタラシ込むお話です。

実家から絶縁されたので好きに生きたいと思います

榎夜
ファンタジー
婚約者が妹に奪われた挙句、家から絶縁されました。 なので、これからは自分自身の為に生きてもいいですよね? 【ご報告】 書籍化のお話を頂きまして、31日で非公開とさせていただきますm(_ _)m 発売日等は現在調整中です。

【完結済】平凡令嬢はぼんやり令息の世話をしたくない

天知 カナイ
恋愛
【完結済 全24話】ヘイデン侯爵の嫡男ロレアントは容姿端麗、頭脳明晰、魔法力に満ちた超優良物件だ。周りの貴族子女はこぞって彼に近づきたがる。だが、ロレアントの傍でいつも世話を焼いているのは、見た目も地味でとりたてて特長もないリオ―チェだ。ロレアントは全てにおいて秀でているが、少し生活能力が薄く、いつもぼんやりとしている。国都にあるタウンハウスが隣だった縁で幼馴染として育ったのだが、ロレアントの母が亡くなる時「ロレンはぼんやりしているから、リオが面倒見てあげてね」と頼んだので、律義にリオ―チェはそれを守り何くれとなくロレアントの世話をしていた。 だが、それが気にくわない人々はたくさんいて様々にリオ―チェに対し嫌がらせをしてくる。だんだんそれに疲れてきたリオーチェは‥。

生まれたときから今日まで無かったことにしてください。

はゆりか
恋愛
産まれた時からこの国の王太子の婚約者でした。 物心がついた頃から毎日自宅での王妃教育。 週に一回王城にいき社交を学び人脈作り。 当たり前のように生活してしていき気づいた時には私は1人だった。 家族からも婚約者である王太子からも愛されていないわけではない。 でも、わたしがいなくてもなんら変わりのない。 家族の中心は姉だから。 決して虐げられているわけではないけどパーティーに着て行くドレスがなくても誰も気づかれないそんな境遇のわたしが本当の愛を知り溺愛されて行くストーリー。 ………… 処女作品の為、色々問題があるかとおもいますが、温かく見守っていただけたらとおもいます。 本編完結。 番外編数話続きます。 続編(2章) 『婚約破棄されましたが、婚約解消された隣国王太子に恋しました』連載スタートしました。 そちらもよろしくお願いします。

婚約破棄をされた悪役令嬢は、すべてを見捨てることにした

アルト
ファンタジー
今から七年前。 婚約者である王太子の都合により、ありもしない罪を着せられ、国外追放に処された一人の令嬢がいた。偽りの悪業の経歴を押し付けられ、人里に彼女の居場所はどこにもなかった。 そして彼女は、『魔の森』と呼ばれる魔窟へと足を踏み入れる。 そして現在。 『魔の森』に住まうとある女性を訪ねてとある集団が彼女の勧誘にと向かっていた。 彼らの正体は女神からの神託を受け、結成された魔王討伐パーティー。神託により指名された最後の一人の勧誘にと足を運んでいたのだが——。

【完】ある日、俺様公爵令息からの婚約破棄を受け入れたら、私にだけ冷たかった皇太子殿下が激甘に!?  今更復縁要請&好きだと言ってももう遅い!

黒塔真実
恋愛
【2月18日(夕方から)〜なろうに転載する間(「なろう版」一部違い有り)5話以降をいったん公開中止にします。転載完了後、また再公開いたします】伯爵令嬢エリスは憂鬱な日々を過ごしていた。いつも「婚約破棄」を盾に自分の言うことを聞かせようとする婚約者の俺様公爵令息。その親友のなぜか彼女にだけ異様に冷たい態度の皇太子殿下。二人の男性の存在に悩まされていたのだ。 そうして帝立学院で最終学年を迎え、卒業&結婚を意識してきた秋のある日。エリスはとうとう我慢の限界を迎え、婚約者に反抗。勢いで婚約破棄を受け入れてしまう。すると、皇太子殿下が言葉だけでは駄目だと正式な手続きを進めだす。そして無事に婚約破棄が成立したあと、急に手の平返ししてエリスに接近してきて……。※完結後に感想欄を解放しました。※

婚約者のいる側近と婚約させられた私は悪の聖女と呼ばれています。

鈴木べにこ
恋愛
 幼い頃から一緒に育ってきた婚約者の王子ギルフォードから婚約破棄を言い渡された聖女マリーベル。  突然の出来事に困惑するマリーベルをよそに、王子は自身の代わりに側近である宰相の息子ロイドとマリーベルを王命で強制的に婚約させたと言い出したのであった。  ロイドに愛する婚約者がいるの事を知っていたマリーベルはギルフォードに王命を取り下げるように訴えるが聞いてもらえず・・・。 カクヨム、小説家になろうでも連載中。 ※最初の数話はイジメ表現のようなキツイ描写が出てくるので注意。 初投稿です。 勢いで書いてるので誤字脱字や変な表現が多いし、余裕で気付かないの時があるのでお気軽に教えてくださるとありがたいです٩( 'ω' )و 気分転換もかねて、他の作品と同時連載をしています。 【書庫の幽霊王妃は、貴方を愛することができない。】 という作品も同時に書いているので、この作品が気に入りましたら是非読んでみてください。

処理中です...