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番外編

リュカの決意

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「春頃に家族が増える事になる。リュカはお兄さんだ」


 アイリスが安定期入りお腹も目立ち始めた。エヴァンがリュカと話をしている。


「ぼく、おにいさん?」

 首を傾げるリュカ。

「そうだ、リュカに弟か妹が出来るぞ」


「弟がいいな! でも妹もいいな!」

 
 リュカの目が嬉しさのあまりぱぁ~と光る。

「いつどうやって出来るの!」


 子がどの様に産まれるかリュカは分からない。

「アイリスのお腹が大きくなってきているのは、リュカの弟か妹が育ってきているからだぞ」

「え! ママのおなかの中にいるの?」

 不思議そうな顔をするリュカ。隣に座っていたリュカを膝の上に乗せ目を合わすエヴァン。


「アイリスは今大事な時なんだ。無理をしない様にリュカもアイリスを見張っていてくれ。リュカはママが大好きだろう?」


「うんっ! わかった。毎日ママをみる!」


「流石私の息子だ。飲み込みが早い。パパがママと一緒にいない時はリュカがママを守るんだぞ」

 エヴァンはリュカの頭を撫でる。

「うん!」


 ******

 それからというもの、エヴァンとリュカはアイリスに付き纏っていた。


「アイリス、肩が冷えるだろう」

 エヴァンがストールを持ってきて、アイリスに巻き付ける。触り心地の良い暖かいストールだった。

「こんなストール持っていましたっけ?」

 ブルーの花柄が可愛らしい。初めて見るわよね? 

「私からのプレゼントだよ」

 エヴァンの瞳と同じブルーの花が刺繍されていた。

「まぁ。嬉しいですわ、大事にしますね。肌触りがとても良いですね」


「ママ」

「リュカどうしたの?」

 何かを後ろに隠している様だった。靴に泥が少し付いている。


「はい、これママに!」

 渡してきたのはブルーの花。良い香りがした。

「良い香りね。リュカが摘んで来てくれたの?」

 屈んで花を受け取るアイリス。

「うん。ママにはかわいいものを見てもらいたいの」

 ギュッとアイリスにしがみつくリュカ。


「まぁ。嬉しいわ。ありがとうリュカ」

 リュカの頬にキスをする。


「アイリス、リュカにばかりご褒美をあげて私にはくれないのか?」


 よいしょとアイリスがリュカを抱っこすると慌ててエヴァンがリュカを抱く。

「リュカは重たくなってきたから、アイリスは抱っこしなくて良い。アイリスは体を大事にしなきゃならないんだ。抱っこは禁止だ」



 それを聞きリュカが泣きそうな顔をした。アイリスも残念そうな顔をする。


「リュカはまだ軽いわよ」

 頭を撫でるアイリス。


「がまんする。でもぎゅってして欲しい時は言っても良い?」

 涙を潤ませながらアイリスに言う。

「リュカ……」

 アイリスも涙ぐんでいた。


「リュカ、安心しろ。ママの代わりにこのパパが抱っこしてやろうじゃないか。いつでもいうが良い」


「ママが良い」


「諦めるんだな。そろそろアイリスは衣装合わせだったな」


 王宮で新年のパーティーが開催される。王族の入場と挨拶にだけアイリスは参加する予定。身体のことを考えてゆったりしたドレスを新調することになる。


「リュカ、アイリスの邪魔になるから私と剣術の練習をしよう」


 剣術といってもリュカは軽い子供用の木刀を振るくらいだが、ママを守る為。と幼いながらに頑張っている。エヴァンはといえば、騎士団長相手に負けていないほどの実力だ。


 木刀の撃ち合う低い音が周りに響く。木刀が耐えられなくなりエヴァンの木刀が折れて、打ち合いは終わった。



「殿下、また腕を上げましたな」


「まだまだだな。家族に何かあった時にはこれくらいでは守れないかもしれない。子供が傷付けばアイリスが悲しむ」


 騎士団員達は思った。いやいや……十分強いでしょう。それに言い方はどうかとは思うが、王太子妃殿下が悲しむと言いつつ、貴方が悲しい思いをしたくないのでしょう。

 誰も何も言わないが、エヴァンはアイリス以外の気持ちに不器用なのだった。


「ははっ。そうですね。鍛錬あるのみです。リュカ殿下も王太子殿下に似て剣術のセンスがありますね! 将来が楽しみです」


「そうだな。リュカには己を守れるくらいになってもらわなきゃ困るからな」

 といいつつ、リュカが木刀を振る姿を嬉しそうに見るエヴァンだった。


「リュカ、今日はもう終わりだ。私は執務に戻るからリュカはアイリスを見張っていてくれ。ちゃんと報告するんだぞ」


「うん」


 エヴァンとリュカは手を繋ぎながらアイリスの元へ戻る。



「なんだかんだと王太子殿下はリュカ殿下と仲がいいですよね? 王太子妃の為とか言って……」


「あの人は何を考えているか分からない時があるからなぁ」

 騎士団員の問いかけに団長が答えた。


 エヴァンは不器用ながらリュカとは通じるものがあるようだ。 




「あら、まぁ。ふふっ」


 エヴァンとリュカが手を繋いで歩いている様子を見てアイリスは嬉しそうに笑った。


「アイリス、楽しそうだね」

 エヴァンがアイリスの頬にキスをする。

「えぇ。最高の気分ね」


「そうか、それは良かった。アイリスが笑っているのが一番だ」



 エヴァンはアイリスが喜んでくれるのならなんでもする。それは幼心にリュカも同じだった。


「ママ!」


「リュカ、パパと仲良しなのね」


「  うん。」


 少し間があったように思ったのはエヴァンだけだった。




 




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