上 下
60 / 61
番外編

ハリー

しおりを挟む
 騎士団に入団した。決してあの男の勧めがあったからではない!    


「ハリー・グレイヴス! ノロノロするなっ!」
「はいっ」

 騎士団に入団したまではいいが、何が近衛だ! 入団後はどの隊に入るかで将来が決まる……まさか鬼軍曹の隊に入ることになるとは……

 はぁっ、はぁっ。吐きそうだ。

「なんだ! もう根を上げたのか。体力の無いやつだな! おまえ学生だったな! うちの隊は文武両道をモットーにしているから赤点なんて取ったら訓練は倍に増やしてやるからな!」

 ……マジか。寝る間を惜しんで勉強する羽目になる。

 なんとかBクラスの真ん中に滑り込めた。今までお茶会だなんだと無駄に遊んでばかりだった。と思った。こんなにマジメに勉強したのは初めてだった(訓練が倍なんて死んでしまう)

 令嬢に声をかけられれば、いい顔をしていた俺だが今、声をかけられてもそんな余裕も時間も無い! 新人騎士の俺は学園が終わり次第練習場にまっしぐらだ! 

「ハリー・グレイヴス遅いぞ! 罰として二十周走り込み!」
「はいっ!」

 これでも真っ直ぐ来たんだけどな! なんて言ったら四十周になりそうだから口答えはしない。

 走り込みの次は木刀を持ち素振り千回。腕がパンパンになった。

 やっと休憩時間になり、汗を拭き水を飲む。

「ハリー・グレイヴス。ようやく顔が締まってきたな」

「ありがとうございます!」

 何か言われたらとにかく“ありがとうございます!”これが挨拶だ。

「入ってきた時は単なる顔だけで近衛志望の坊ちゃんかと思っていたが、思ったより根性がある」

「ありがとうございます!」

 上官に褒められた。

「追加で素振り百本だ!」

「……ありがとうございます」

「不服か? 追加で五十!」

「っありがとうございますっ!」

 走ってこの場を去った。上官が見ているから素振りでも力を抜けない! 


 その後訓練を終え、ヘトヘトになりシャワー室へと向かっていると俺の名前が聞こえてきたのでこっそり近くへ行き聞き耳を立てる。


「ハリー・グレイヴス頑張っていますね」
「そうだな。自信をなくすほど鍛えてやってくれと坊ちゃんから言われている」

「あれ? 私は小公爵様からこの部隊に入れ鍛えてやってくれ。と言われましたが……」

 坊ちゃん? って誰だ。それに俺は小公爵様と面識などないのだが……


「坊ちゃんの婚約者に手を出そうとしたんだろう? ロワール領の大事な方に手を出そうとした罪は深い。私は引退後ロワール領に戻るつもりだ。亡くなられた奥様の様に優しい方だと聞く。あぁ早く引退したい」

「え! ずるいですよ。私もロワール領に戻りたいんですよ。早く息子が変わってくれないかな……」

「おい、おい。子供に無理させるなよ。世襲制じゃないからな」

「息子が騎士になりたいと言って騎士団に入ったのですから良いんですよ! あっ、そうだこれ、休みの届けです。花まつりがあるので休みますから!」

「それはいかんぞ! 私も休暇予定だ! 坊ちゃんの婚約者のご家族を招くんだから周辺警備の確認をしたい! 何かあってはロワール領の名に傷がつく!」

「それは他の騎士たちを信じていないということになりますよ、素直に祭りを楽しまないと!」



 ん? 坊ちゃんの婚約者、ロワール領……あいつか! この辛い訓練もあいつのせいか! くそぉ……絶対に弱音を吐くものか! 見てろよ!!



「ハリー・グレイヴスどうした? 今日は気合いがちがうな」

 今日は学園が休みで朝一番に練習場にやってきて一人で準備を整えた!

「ありがとうございます!」

「褒美に私が手合わせをしてやる」

 鬼軍曹と手合わせか! どれだけ強いんだ?

 結果はボロ負け。呼吸をするのもしんどい。俺は遊ばれて体力だけを失った。

「ふむ。体力は付いてきたな。新人の中でもそこそこ使えるんじゃ無いかな。おまえが強くなってくれたら私の引退も早まるかもな。その頃には坊ちゃんに子供ができて稽古をつける指南役になりたいものだ。言っておくが坊ちゃんは強いぞ? 私でも勝てる。とは言い切れないな」

 聞き耳を立てていたのがバレている!

「騎士団長ってのは家柄がよく、そこそこ強くて頭が切れないとなれんのだが、おまえが本気で強くなりたいという気持ちがあれば騎士団長に勝てるくらいになるかもな。センスは悪く無いがもっと頭と体を使え。騎士団長に認められれば近衛も近づくぞ。今のうちに身辺は綺麗にしておけよ」

「っありがとうございます!」


「聞き耳を立てた罰として体力が回復次第、十周走ってこいよ」

「あ、ありがとうございます……」


 地獄だ……だが負けないからな! ジルベルト・ロワール!! おまえより強くなってやろうじゃないかっ!



 その後強くはなりはしたが、結局鬼軍曹の跡を引き継ぐことになった。近衛から声も掛かったんだが、この部隊も悪くないと思う俺は洗脳されてしまったのだろうか。


 婚期がますます遅れたのはいうまでも無い。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

目が覚めました 〜奪われた婚約者はきっぱりと捨てました〜

鬱沢色素
恋愛
侯爵令嬢のディアナは学園でのパーティーで、婚約者フリッツの浮気現場を目撃してしまう。 今まで「他の男が君に寄りつかないように」とフリッツに言われ、地味な格好をしてきた。でも、もう目が覚めた。 さようなら。かつて好きだった人。よりを戻そうと言われても今更もう遅い。 ディアナはフリッツと婚約破棄し、好き勝手に生きることにした。 するとアロイス第一王子から婚約の申し出が舞い込み……。

国王陛下、私のことは忘れて幸せになって下さい。

ひかり芽衣
恋愛
同じ年で幼馴染のシュイルツとアンウェイは、小さい頃から将来は国王・王妃となり国を治め、国民の幸せを守り続ける誓いを立て教育を受けて来た。 即位後、穏やかな生活を送っていた2人だったが、婚姻5年が経っても子宝に恵まれなかった。 そこで、跡継ぎを作る為に側室を迎え入れることとなるが、この側室ができた人間だったのだ。 国の未来と皆の幸せを願い、王妃は身を引くことを決意する。 ⭐︎2人の恋の行く末をどうぞ一緒に見守って下さいませ⭐︎ ※初執筆&投稿で拙い点があるとは思いますが頑張ります!

婚約者が他の女性に興味がある様なので旅に出たら彼が豹変しました

Karamimi
恋愛
9歳の時お互いの両親が仲良しという理由から、幼馴染で同じ年の侯爵令息、オスカーと婚約した伯爵令嬢のアメリア。容姿端麗、強くて優しいオスカーが大好きなアメリアは、この婚約を心から喜んだ。 順風満帆に見えた2人だったが、婚約から5年後、貴族学院に入学してから状況は少しずつ変化する。元々容姿端麗、騎士団でも一目置かれ勉学にも優れたオスカーを他の令嬢たちが放っておく訳もなく、毎日たくさんの令嬢に囲まれるオスカー。 特に最近は、侯爵令嬢のミアと一緒に居る事も多くなった。自分より身分が高く美しいミアと幸せそうに微笑むオスカーの姿を見たアメリアは、ある決意をする。 そんなアメリアに対し、オスカーは… とても残念なヒーローと、行動派だが周りに流されやすいヒロインのお話です。

今さら後悔しても知りません 婚約者は浮気相手に夢中なようなので消えてさしあげます

神崎 ルナ
恋愛
旧題:長年の婚約者は政略結婚の私より、恋愛結婚をしたい相手がいるようなので、消えてあげようと思います。 【奨励賞頂きましたっ( ゚Д゚) ありがとうございます(人''▽`)】 コッペリア・マドルーク公爵令嬢は、王太子アレンの婚約者として良好な関係を維持してきたと思っていた。  だが、ある時アレンとマリアの会話を聞いてしまう。 「あんな堅苦しい女性は苦手だ。もし許されるのであれば、君を王太子妃にしたかった」  マリア・ダグラス男爵令嬢は下級貴族であり、王太子と婚約などできるはずもない。 (そう。そんなに彼女が良かったの)  長年に渡る王太子妃教育を耐えてきた彼女がそう決意を固めるのも早かった。  何故なら、彼らは将来自分達の子を王に据え、更にはコッペリアに公務を押し付け、自分達だけ遊び惚けていようとしているようだったから。 (私は都合のいい道具なの?)  絶望したコッペリアは毒薬を入手しようと、お忍びでとある店を探す。  侍女達が話していたのはここだろうか?  店に入ると老婆が迎えてくれ、コッペリアに何が入用か、と尋ねてきた。  コッペリアが正直に全て話すと、 「今のあんたにぴったりの物がある」  渡されたのは、小瓶に入った液状の薬。 「体を休める薬だよ。ん? 毒じゃないのかって? まあ、似たようなものだね。これを飲んだらあんたは眠る。ただし」  そこで老婆は言葉を切った。 「目覚めるには条件がある。それを満たすのは並大抵のことじゃ出来ないよ。下手をすれば永遠に眠ることになる。それでもいいのかい?」  コッペリアは深く頷いた。  薬を飲んだコッペリアは眠りについた。  そして――。  アレン王子と向かい合うコッペリア(?)がいた。 「は? 書類の整理を手伝え? お断り致しますわ」 ※お読み頂きありがとうございます(人''▽`) hotランキング、全ての小説、恋愛小説ランキングにて1位をいただきました( ゚Д゚)  (2023.2.3)  ありがとうございますっm(__)m ジャンピング土下座×1000000 ※お読みくださり有難うございました(人''▽`) 完結しました(^▽^)

お飾りの側妃ですね?わかりました。どうぞ私のことは放っといてください!

水川サキ
恋愛
クオーツ伯爵家の長女アクアは17歳のとき、王宮に側妃として迎えられる。 シルバークリス王国の新しい王シエルは戦闘能力がずば抜けており、戦の神(野蛮な王)と呼ばれている男。 緊張しながら迎えた謁見の日。 シエルから言われた。 「俺がお前を愛することはない」 ああ、そうですか。 結構です。 白い結婚大歓迎! 私もあなたを愛するつもりなど毛頭ありません。 私はただ王宮でひっそり楽しく過ごしたいだけなのです。

【完結】婚姻無効になったので新しい人生始めます~前世の記憶を思い出して家を出たら、愛も仕事も手に入れて幸せになりました~

Na20
恋愛
セレーナは嫁いで三年が経ってもいまだに旦那様と使用人達に受け入れられないでいた。 そんな時頭をぶつけたことで前世の記憶を思い出し、家を出ていくことを決意する。 「…そうだ、この結婚はなかったことにしよう」 ※ご都合主義、ふんわり設定です ※小説家になろう様にも掲載しています

【完結】婚約破棄されたので、引き継ぎをいたしましょうか?

碧桜 汐香
恋愛
第一王子に婚約破棄された公爵令嬢は、事前に引き継ぎの準備を進めていた。 まっすぐ領地に帰るために、その場で引き継ぎを始めることに。 様々な調査結果を暴露され、婚約破棄に関わった人たちは阿鼻叫喚へ。 第二王子?いりませんわ。 第一王子?もっといりませんわ。 第一王子を慕っていたのに婚約破棄された少女を演じる、彼女の本音は? 彼女の存在意義とは? 別サイト様にも掲載しております

愛されない花嫁は初夜を一人で過ごす

リオール
恋愛
「俺はお前を妻と思わないし愛する事もない」  夫となったバジルはそう言って部屋を出て行った。妻となったアルビナは、初夜を一人で過ごすこととなる。  後に夫から聞かされた衝撃の事実。  アルビナは夫への復讐に、静かに心を燃やすのだった。 ※シリアスです。 ※ざまあが行き過ぎ・過剰だといったご意見を頂戴しております。年齢制限は設定しておりませんが、お読みになる場合は自己責任でお願い致します。

処理中です...