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結婚式前日ですわ
しおりを挟むいよいよ明日は結婚式。ある意味待ちに待ったというべきかしら?
「お嬢様、用意は出来ていますね?」
デビスがこっそりと部屋に入ってきた。時間通りね!
「えぇ。デビス迷惑を掛けるわね……」
眉を落とすヴィクトリア
「お嬢様……大変申し上げにくいのですが、お嬢様の髪はとても目立ちます」
ピンクブラウンの腰まで伸びた髪の毛は貴族女性の証。それが今から家出する身としては邪魔になるようだ。
「そうね。分かったわ」
ベッドサイドの鏡台の引き出しに隠してあった小刀を出してきて、長い髪の毛を一纏めにして肩の下辺りで思いっきりバサッと切って、テーブルに置いた……
「! お嬢様っ!!!」
「ん? どうかして? この髪の毛が邪魔だから切った方が良かったのでしょう?」
顔面蒼白とはきっと今のデビスの表情を言うのかもしれませんわね。
「……なんて言うことを……お嬢様の美しい髪の毛が……」
テーブルに置いたわたくしの髪の毛を握りしめるデビス
「もしかして、この髪の毛も売れるのかしら? 綺麗に整えて切った方が良かったわね。持っていって売れば、」
「そんなことはさせません! 誰の手に渡るかも分からないのに!!」
ワナワナと体を震わせるデビス。何か興奮しているようですわ。今から家出をするのに落ち着かせないと……
「そうね。この髪の毛を置いておけば屋敷のものは悪用しないと思いますの。そうですわ! 髪を置いて行って修道女になるためには邪魔だったと見せかけるのはどうかしら?」
「……切らなくても、髪の毛を纏めてフードの中にでも隠してくれれば良かったんだ……なんでまたこうもバッサリと躊躇なく……髪は女性にとって命のような物なのに」
髪を切ったわたくしを恨めしい表情で見てきましたわ。
「でもさっぱりしましたわ! 頭が軽くなったみたいですもの。似合わないかしら?」
「お嬢様は何をしても何を着てもお似合いですよ……」
珍しくデビスの言葉に力がありませんわね。今から家出を手伝ってもらうのですから気を確かに持ってもらわないといけませんわね。
髪は女性にとって命と言うけれど、この肩下程の長さでも十分ロングですわ!
小市民だった頃はもっと短かったと思いますもの。いつかはショートカットもしたいと思うのだけれど全力で止められそうですわ。
「さぁ、行きましょうか。置き手紙の準備も万端ですもの。今回は一人ではない分寂しくありませんしデビスが手伝ってくれると言うのなら安心ですもの」
「……お嬢様にお願いがあります。これから勝手な行動は慎んでください。せっかく立てた計画が台無しになりますから……貴女が良かれと思ってした行動が逆に悪い方へ行きそうな気がして来ました……この髪だってそうだ」
わたくしの切った髪の毛をきれいに整えながらデビスが言うのですから少し、すこーしだけですけれど、気持ちが悪いですわよ。だってもう切ってしまったものは仕方がありませんもの。
捨てて貰うか、将来的にお父様のカツラに使っていただくとか? いえ。お父様はふさふさですわよ! まだ若いですし、でもおじいさまを見ていると将来は……なんて思ってしまいますのよ。
そんなことを考えているとデビスの視線を感じましたわ。これは返事待ちですわね。
「はい、分かりました。全面的にデビスの指示に従いますわ」
片手を上げてそう宣言するとようやく納得したようで、部屋から出ることになりました。手持ちの荷物は既に運んであるようで、わたくしは手持ち無沙汰でした。
デビスと静まり返る屋敷をそっと出ようとしたら、そこにはお母様が……
「ヴィクトリア……婚約を解消させてあげられなくてごめんなさいね。全てはわたくし達が無力なせいで愛する貴女を……」
「お母様……わたくしが我慢すれば良かったのです」
お母様は涙ぐんでいましたの。わたくしもつられて涙目になりました。大好きなお母様にこんな顔をさせるなんて……
「ヴィクトリアは悪くないわ。あとはわたくし達に任せてちょうだい、デビス。ヴィクトリアをどうかお願いします」
お母様がデビスに頭を下げました。わたくしはなんて親不孝なのでしょうか。少し心が揺らいだところ
「奥様、お嬢様の事は私にお任せください。私の命に賭けてしっかりとお守りいたしますから」
お母様は笑いながら今度はわたくしの手を取ってそっと何かを渡してきました。少し冷たい感じがして手の中で重みを感じた。
「この懐中時計を持っていきなさい」
金細工が施され、小さな宝石が散りばめられている上品な懐中時計はお母様のお気に入りのものでした。
「これはおばあさまから譲られたと聞きましたわ。家を出る身にとって不相応な品物ですわ。どうかジュリアに、」
「貴女に持っていて欲しいの。さぁ、行きなさい。時間をとらせて悪かったわね。デビス後のことは頼みましたよ」
「はい。お嬢様お別れは辛うございましょうが急ぎましょう!」
「お母様……」
「行きなさい!」
背中を押されて振り向いた
これ以上お母様といると揺らいでいた気持ちが……そうよね後は振り返りません。
「お母様! お許しください」
そう言って別れを告げ、デビスの後を付いていきました。お母様にはわたくしが家を出ると言う事がお見通しだったようです。
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