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私はだれ?
しおりを挟む「お兄様……」
「うん。言いにくいのなら僕から質問してもいい?」
「うん」
「エマはどうして庶民の生活を知っている? エマは貴族の娘だよ。僕も全て知っているわけではないけれど庶民の生活と僕たちの生活はまったくの別物だし、エマは庶民の生活をおくったことないよね?」
「うん」
「エマは頭を打って意識が戻ったときから……様子が変わったよね?」
「……お兄様、気がついていたの?」
「そりゃ……少し変わったところで大事な家族であることに変わりない」
「お兄様、私この家の子じゃないの。騙していてごめんなさい」
お兄様はショックを受けていた。そりゃそうよね。妹と思っていた子に他人だって言われたんだもの。
「なぜそんな悲しいことを言うんだい。理由を聞いてもいい?」
「私は、頭を打ってから前世の記憶が蘇ってきたの。でもこの体のエマの記憶も残っていて、だからエマのふりをして騙していたの。だから私はこの家の子じゃない」
お兄様はなにかを考えているようで無言だった。
「お兄様、ごめんなさい、もうお兄様って呼べませんから、モンフォール子息、」
「やめろ! いい加減にしないと怒るぞ。エマはエマだ! 僕の妹でエマ・モンフォールだ。おまえの父親も母親もお前が心配だから怒っているんだ! エマがうちの子じゃない? おまえが一人で言っているだけだろうが! 悲劇のヒロイン気取りなら迷惑だからやめろ!」
「でも、」
「確かに変わったところはある。でもな、僕に甘えてくるところは昔から変わらない。エマはおとなしい子だった。今はこんな騒動を起こすほどお転婆だけど、それでいいじゃないか。今のエマがあるから学園で問題が起きても戦えたんだろ。それなら僕は感謝しかない」
「でも、」
「……頭を打って意識をなくしてその間に別の誰かがエマに入ってきたのならエマはどこに行ったんだ? 考えたくないけど……死んだのか?」
それを考えたこともある。でも怖くて怖くて……
「ごめんなさい、わかりません」
エマは頭を打ってからはじめて僕にあったとき、お兄様と呼んだし父上や母上の顔も知っていた。エマの記憶がしっかりある。もしかして死んでしまったのは、エマの体に入ってきたのは前世? のエマなんじゃないか?」
多分そうだと思う。マンガを読んでワインを飲んで何かのきっかけで死んだんだと思う。名前も一緒だし。
「……そうかもしれません」
「エマ、前世の名前は?」
「……エマ。同じ名前です。スペルは違います」
私の名前は漢字表記だったけどこの世界に漢字はない。だからスペルで間違いないと思う。
「何かの本で読んだことがある。神話的な話だと思っていたけれど、魂が同調とか入れ替わったとか……僕は入れ替わったと思いたいな。入れ替わったならエマは別の世界で生きていることになるからね」
そっか。入れ替わった可能性があるのか。それならエマはきっと驚いているだろうな。この世界は漫画の中でニホン人が書いた物語だから街中は清潔で下水道もきちんとしているから違和感なく生活できるけれど、あっちの世界はエマからしたら驚きの連続だろうな。私がこの世界で家族に支えられているみたいにエマもあっちの世界で楽しく生活していればいいな。
「複雑な心境ですよね」
「そうでもない。エマはエマだし。それに頭を打つ前のエマは僕と当たり前に手を繋いでなんてくれなかった。学園だって別々に行っていた可能性もある。父上も母上もうちの皆だって何か異変は感じていると思うけれど今のエマが好きなんだ。複雑なのはエマに元気がないこと、よそよそしいところだね。僕はもっとエマのことを知りたいと思った。元いた世界はどんな世界だったかとか、こっちの世界との違いとか……あっちの世界でエマが楽しく生活できていればいいなとか、そんな感じだね」
「……またお兄様と呼んでもいいのですか」
「当たり前だろ。エマはバカだな。おいで」
そっと立ち上がりお兄様の隣に座ったらぎゅっと抱きしめられた。
「今まで異変に気付きながら黙っていてごめん
。辛かったな、これからは僕もエマの秘密を知っている一人だ。変わらず愛しているよ」
「お兄様……私も大好きです」
わぁぁん。と声をあげて泣いた。そしてお兄様が婚約するって聞いて寂しかったのだと打ち明けたら、さらに抱きしめられた。
「エマが妹じゃなかったらお嫁さんにしたかったけどね。残念ながら血のつながった兄妹だからね。本当に残念だけどエルマンに任せることにしたんだ……エルマンの執着は凄まじいんだ。エマのことを気持ちが悪いくらいに好きなんだよ? エマが逃げたとしても絶対に捕まっちゃうから、平民になる必要はない。父上も今頃言い過ぎたと後悔しているだろうね。明日一緒に謝ろうな」
「はい」
「エマはいい子だね。次はそこにいる顔面蒼白にしているエルマンと話だな。エマに捨てられそうになって廃人化している」
そうだった……エルマンのことすっかり忘れていた。いつもなら口出ししてくるのに。
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