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誰だあの男は!
しおりを挟む「薄暗くて良く見えん」
「キャンドルで照らされていてカップルだと最高の雰囲気だよね」
ところどころにベンチがあるのだが、カップルがイチャイチャしている。そんなところで名前を呼ぶわけにもいかず、走り回るわけにもいかず手間取っている。
「フェルマンどうだ?」
「いや、もしかしたらここにいないのか」
くそっ。庭は一周したよな! 休憩室は母が探してくれている。一度合流して話を聞きに……と振り返り邸を見る。テラスに人の姿が見えた。
「あそこもカップルの溜まり場になっているのかな? マナー違反だけどそっと覗いてみるか?」
姿は見えないが足元が見えた。
「あのドレスの裾は……」
顔が見えん!
「どれ?」
「左から数えて3番目のテラスだ。黒とピンクのフリル! 間違いない、エマだ! フェルマンは母と合流してくれ」
「オッケー。エルマンは?」
「決まってるだろ! よじ登って顔を見てやる!」
エマのドレスと、磨かれた男物の靴! 俺というものがありながら一体誰といるんだ! 浮気しようなんて思うなよ!
「あ、おい!」
フェルマンが何か言っているが知らん。まずは木に登った。そして本当にエマかどうかを確認する。
「なっ! うそだろ!」
エマが男にしだれかかっているではないか! エマの肩を抱く男はオオカミの仮面をしていた。だれだよ! 着地面を確認して木の上からテラスにジャンプした。
「エマ!」
つい名前を呼んでしまった。
「なんだい、君は! 急に現れてびっくりするじゃないか」
驚くオオカミの仮面の男。そりゃ急に人が現れればそうなる。
「その子の婚約者だ! その手を離してもらおうか」
エマは何も言わずに目を瞑っている。
「彼女に何をした?」
「何もしていない。エマさんは酒を飲んでしまって、眠たくなったんだろう。この状態で会場に一人で置いておけないから、酔い覚ましにテラスにいるんだ」
ぴくり。まゆが動く。いまエマの名前を言った。さっき俺が言ったとしても、正体を知っていたということか? もしかして知り合い?
「婚約者ならどうしてエマさんを一人にしたんだい? 私なら絶対そうはしないけど?」
いちいち癪に触るオオカミだ。
「事情があった。彼女をかえしてもらう」
「言っておくけど先に私の胸に飛び込んできたのはエマさんだからな」
は? ありえん。
「さっきから聞いていれば彼女のことを名前で呼んでいるな。あなたは誰だ? なぜ彼女を知っている」
エマはウサギの仮面を付けたまま。
「人の名前を尋ねるときは自分から名乗るのが礼儀だよね! デルクール殿?」
エマの婚約者と名乗ったのだから俺の名前は分かるよな。仮面を外して頭を下げた。
「失礼した。私はエルマン・デルクールと申します。彼女と離れてしまい探していたらテラスにいる彼女の姿が見えて急ぎ現れました。驚かすような前真似をして申し訳ありません」
するとオオカミの仮面の男も仮面を取った。なるほど……隣国との交流会を兼ねているからこの男がいても不思議ではない。
「ヘンリー・エバンス殿とお見受けします」
「正解。良くわかったね。君とは初対面だよね」
「えぇ。初めてお目にかかります」
隣国の公爵家。面倒だ。
「君とは初めて会ったけれどエマさんとは会うのは今日で三回目。ウサギの仮面をしていてもエマさんの可愛さは隠せなかったね」
は? 三回目? いつ会っていたんだ? 聞いてないぞ!
「あれ? 聞いてなかった? 内緒の関係も悪くないね」
ふざけるなよ!
「私は彼女を信じていますので、そのような冗談はやめていただきたいですね」
「ふむ。冗談は通じないタイプか。顔だけ見るとそうは思えないのに、まじめなんだね。デルクール殿」
いちいちムカつくな。
「えぇ。彼女とは真剣に付き合っていますので、誠実でありたいと思っています。エバンス殿はどちらに滞在されているのですか?」
寝ているエマを横抱きにした。エマを返してもらう。オオカミ男の香水がエマに移っている! 腹立つ。
「エマさんの友人ヴァネッサ嬢の家ですよ」
なるほど、謎は解けた。
「なるほど。わかりました。一度目はヴァネッサ嬢の家。二度目は……美術館のセレモニー。三度目は今日のパーティーで会ったってところですね」
驚いた顔をするオオカミ男。
「はははっ。正解、それならなぜエマさんは君に言わなかったのかな?」
ここまできたら答えはひとつ。
「忘れていたんでしょう。うっかりしているところも可愛いんですよ」
うっかりにも程がある。と後から言っておこう。
「君、性格悪いって言われない?」
「面と向かって言われたのははじめてですが、自覚はあります。介抱していただきありがとうございました。今日のところはこれで失礼します」
エマを抱えて目立たないように? 会場を出てフェルマンと母と合流した。
どういうこと! 母は驚いていた。面倒だから馬車で話す。と言うとフェルマンも乗り込んできた。
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