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お酒は遠慮します

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「フェルマンがいたとはな」

「ライオンさんだよ。名前は言っちゃダメなんだよね?」

 身バレしてはいけない。というわけではないみたいだけどそれでは面白くないから、分かっていても知らないふりをするのだそう。見るからに分かる人も中にいる。

「ウサギの仮面が似合うな。ドレスにも合っている」
「黒豹さんは獲物を狙っていそうで危険な感じがするよ? 似合っているけどね」
「獲物は既に捕らえたから問題ない」
「獲物って私?」
「もちろん。他の肉食獣に渡すなんて無理だろ」

 腰をがしっと掴まれた。

「ちょっと、誰に見られているか分からないのに!」
「いいんじゃないか? 誰も見てやしない。黒豹に捉えられたウサギとしか見てないだろう。ウサギが嫌がらなければ咎められない。こんな可愛いウサギが一匹でいるとすぐに捕獲されてしまうかも。顔が見えないと大胆になる者もいるだろう。それともウサギは誰か知らない別のオスに捕獲されたいのか?」

 なんだろう、今日のエルマンは髪型とか衣装が違うからかとっても色っぽい。いつもと違うから私も少し大胆になってしまったのかも。

「私は黒豹さんに捉えられていたい」

 なんて言って黒豹エルマンの胸に頭を埋めた。

「なんだそれ! 可愛いんだけど!」
「場の雰囲気に酔っちゃったみたい」
「困ったウサギだな」

「心臓音が聞こえる。どきどきしてる?」
「そりゃするだろう。俺のウサギが可愛すぎてこのまま連れ去りたいくらいだ」
「ふふっ、それも悪くないね」

 いつもだと口が裂けても言わないけど、仮面の力ってスゴイ。黒豹さんを手のひらで転がしている小悪魔ウサギだ。

「降参!」

 黒豹は私から離れて降参と両手を上げた。

「もう終わり?」
「残念だけど、このままじゃいろんな意味で俺の身体が持たない」
「これからだったのに?」
「あんなに人目を気にしていたのにどんな大胆なことをしてくれるんだ?」

 私たちのことなんて誰も見てない。って言ったのにね。

「ちゅっ」

 背伸びして黒豹さんの鼻にキスをした。

「なっ、」
「ふふっ。これくらいで勘弁してあげるね」

 黒豹さんは仮面を付けていても分かるくらい顔が真っ赤になっていた。

「喉が渇いたなぁ。なんか取ってこよ」

 ドリンクが並んでいるカウンターはすぐそこだった。黒豹さんの姿は見えるから一人でも大丈夫だと思った。



「可愛いウサギさん。こんばんは、今宵はいい夜ですね?」

 ドリンクを頼もうとした時だった。オオカミの仮面を被った紳士に声をかけられる。

「こんばんは。オオカミ様。幻想的な夜です」

 このパーティーに参加している人は伯爵家以上の家柄だから失礼のないようにしなきゃ。いくら仮面をして身バレがしないとはいえ失礼な態度であのウサギはどこの家の者だ! なんて展開は避けたい。

「どこのご令嬢か聞きたいのだけどルール違反だね。可愛いウサギさん」
「そのようですね。皆さんルールを守って楽しんでおられますもの。主催者様に締め出されてしまいますね」
「それは物騒だね。無粋なマネはやめておこう。良かったら一曲踊っていただくことは?」

 知らない人とダンスを踊るのはちょっと。エルマンが怒りそうだし。ってそういえばエルマンは……囲まれてる! リスのような小動物から肉食のヒョウにまで! なんかムカつく。

「申し訳ありません。恥かしながら慣れないヒールを履いていて靴擦れをしてしまいましたのでダンスはお断りさせてください」

 いつもより高いヒールを履いているから足も痛いし女性は大変だ。それに靴擦れが痛いなんて女性はイヤでしょう。違いない。

「それはお困りでしょう。それならば飲み物を一緒に」
「いえ、」
「ここで今ウサギさんを逃してしまうとウサギさんが困ることになるよ? ほら周りを見て」

 周り? チラチラと見られている? なんで?

「ウサギさんに声をかけたい男どもが今か今かと待っている。今日の集いは交流会だよ? あれだけの男を相手にするのは面倒だよね? さぁ何を飲む?」

 知らない人と話をするのは疲れるけれど、仮面を被っているといつもよりも話をしやすいからついガードが緩んでしまった。一杯だけ。と思いますカウンターにあったジュースを手に取った。

「甘くて美味しいですね」
「オレンジとマンゴーがベースになっている飲みものだね」

 コクがあって果物が感じられる。美味しい。




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