記憶を持ったままどこかの国の令嬢になった

さこの

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お茶会2

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「エマ遅かったな」
「エマ様、何か不手際がありましたか!」

 エルマンとヴァネッサ様が立ち上がって迎えてくれた。そんなに待たせたちゃった?

「いえ、お手洗いの帰りに廊下にあった絵画や美術品が目に入って見させていただきました」

「廊下の? そうなのですか? それなら今度我が家の美術収蔵部屋を案内しますわね! 古いものが多くて飾りきれないものもありますけど見応えはありますわ」
「よろしいのですか! エルマンも興味あるよね?」
「あぁ、公爵家にあると言われている絵画を見たいと思っていた」


 昔々ある画家がいました。旅行中に体調を崩してうずくまっていたところ、ヴァネッサ様のご先祖がたまたま画家を助けて公爵家で面倒を見たんだそうです。
 画家はお礼に公爵家から見える風景を描きプレゼントしました。その絵を気に入ったご先祖様が画家のパトロンをすることに! 

 その画家はようやく絵で食べていけるほどになったけれど、死後に人気が出て今では手が出ないほどの金額で取引されている。公爵家はその画家の絵を何点も保有しているけれど門外不出として保存されているんですって! でもなぜ知られているか? それは数年に一度鑑賞会という名のお茶会が開かれるから。

「ご存知でしたか。お父様に許可を得られたらいつでもご覧いただます。その時は少し厳戒態勢になりますけどお二人は悪いことをされないと信じておりますから警備は気になさらずにゆっくりご覧くださいね」

 なんでも絵画が盗まれそうになった時、犯人は返り討ちに遭い、今でも公爵家の地下牢にいる。救出しようとした仲間たちがさらに捕まり国内で一番大きな犯罪グループだと判明。犯罪グループはその時の公爵により取り押さえられ解散させられた。“解散”の一言ですませられているけれど、その後の犯人達の行方はどうなったんだろ。怖くて聞けない。

 見せていただけるのはすごく嬉しいし私たちは絶対に悪さをしない(する勇気がない)と心に決め鑑賞させてもらえることになった。そして公爵家を出た。ヴァネッサ様に食事に誘われたけれど、緊張して食事が喉を通らないと思うし、ぐったり疲れてしまったからあの時出会った人をすっかり忘れていた。


 週明けに学園へ行くとコリンナさんに会った。

「エマさん、週末お時間ありますか?」
「週末ですか? 大丈夫だと思います」
「それなら美術館に行きませんか? 近隣国から歴代国王に献上された品が展示されるのだそうです。見応えありそうですよね。こんな機会中々ありませんもの」
「それはステキですね! 今からチケット取れるかしら」
「ジャーン! 招待券です。お父様宛に届いたそうですが仕事で行けないので譲ってもらいました」
「すごい! 私で良かったのですか?」
「はい! エマさんと行きたいのです」

 週末はこれ! という用事はなかったはず。そういう時はエルマンと過ごしているし週末はお義母さまとの勉強は休み。
 行きます。と返事をして昼休憩時、エルマンに話をした。

「あぁ、アレな。俺もチケットを取ってあるんだ。何回見てもいいだろうから週末はコリンナ嬢と行ってくるといい。翌週にでもまた美術館へ行こう」
「いいの?」
「たまにはコリンナ嬢に譲るよ」
「ありがとうエルマン」
「感謝の気持ちを示してくれ」

 感謝の気持ち……あぁ、アレか。ここで? 今日はテラスでランチを摂っていて生徒がそこそこいるんだけど……

「エルマン、ここではちょっと」
「誰も見てないさ。食事に夢中だろう」

 自意識過剰は良くないってことね。それなら。エルマンに近寄り頬にキスをした。

「頬か……」
「今はこれが限界だよ。こんなところで口づけしたら生活態度でマイナスになっちゃうかも」
「そうか? 婚約しているんだから問題ないと思うけどな。誰も見てないだろ」

 周りを見渡すとヴァネッサ様と目があった! そのお顔はにまにまとしていて嬉しそうだった。こんなの恥ずかしすぎるでしょ! もう何を言われても学園ではしないと決めた。

 そして今話すことではなかった。と反省して週末を迎えた。招待券は初日でセレモニーなどもあるのでドレスを着て行った。

 コリンナ様はプリンセスラインのドレス、私はベルラインのドレスを着用した。美術館でのセレモニーなんてステキだわね。と話をしていた。そこにはもちろんアルロー様がいてご挨拶をさせていただいた。

「あれ、今日はエマさんとコリンナさんの二人なんだ? 彼はどうしたんだい?」

「招待券はコリンナさんの家に届いたので二人で来たんですよ」
「招待すれば良かったね……ごめん」
「いえ、お気持ちだけいただきます。エルマンがチケットを取っているのでまた来ますね」

 挨拶をするとアルロー様は他のゲストの元へと行った。忙しそうだね。とコリンナさんと話をして美術品を見ることにした。

 パーティー会場はお偉い方などがたくさんいるから今なら展覧場は空いていそうだ。

「あと一時間ほどで展覧場は閉まるみたいだよ」
「もっと早く抜け出せば良かったね」

 これはまた来るしかなさそうだわ。ゆっくりと見られない。そして足を止める。

「これ、ヴァネッサ様の家にあった物と似ているんだけど……」
「……さすが公爵家だね」

 王家の秘蔵品と同じようなものがあるなんて!

「エマ嬢はこの品が気になるのかな? この前も公爵家で見てたよね?」
「え?」

 って! ヴァネッサ様の家で会ったゲストの方だわ。確か名前は……。



 
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