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エルマンの事は好き
しおりを挟む「エマ、帰ろうか」
「……うん」
とうとう返事をする日が来た。
「どこで話そうか迷ったんだけどうちに来る?」
「エルマンの家?」
「帰りは送って行く」
エルマンの家の従者が送ってくれるのならいいのかも。
「おかえりなさいませ。モンフォール令嬢が来られると聞きお菓子を用意しましたよ。坊ちゃん、どちらに運びますか?」
「今日は俺の部屋に運んでくれ」
エルマンの部屋!? それは良くないよね! ギョッとしてエルマンを見る。
「エマ、そんな心配そうな顔をするな。扉は開けておくから」
執事さんたちも、頷いている。なのでエルマンの後をついて行く。なんだかどきどきしてきた。お兄様の部屋に入った記憶もいつか覚えてないくらいだし、男の人の部屋に入るなんて悪いことをしている気分になる。前世だと普通に遊びに行ったりしていたけれど、今は気軽に遊びに行く場所ではない……
「エマ、入って」
「あ、うん。お邪魔します」
シンプル! 本が多い。ここにベッドはなくて、奥がプライベートゾーンになっているみたい。ホッとしたのは内緒にしとこ。もちろん変な事は考えていないから!
すぐにお菓子とお茶が用意された。メイドさん達は扉の奥で控えているって言って出ていってしまった。
「エマが来ると言ったから色々用意されたみたいだ」
机の上にはスイーツやフルーツが用意されていた。美味しそうなんだけど、緊張して食べる気になれない。でも緊張で喉が渇いたからお茶を口にした。
「エマ、返事を聞かせてくれるんだろう? 俺はエマが好きだ」
「返事の前に話を聞いてくれる?」
「もちろん」
「私は前世の記憶があってエルマンのことを知っていたの。ここはマンガの世界でエルマンが令嬢に冷たくしていたのも知っているの。なぜ冷たくしていたかまではエルマンに聞くまで知らなかったけど、知っているからこそ、フェルマン様にもその、靡かなかったし、お見合いも断ろうとしてたの」
「その話はエマから聞いている。何か問題が?」
エルマンはこの世界がマンガの世界で、前世でエルマンを知っていた。と言ったら面白い偶然だ。って言った。普通は変に思う。
「だからエルマンは私のことを他の令嬢と違うって思っているんじゃないかと思って」
「ないな。俺が好きになったのは前世のエマも含めて今のエマだから」
「あの、ね、フェルマン様やアルロー様も私のことを気にかけてくれたのに、その、諦めたじゃない。私には人を惹きつけたり、魅力がないからすぐに飽きられたんだと思うの。だからエルマンも私のことを知って行くうちに飽きちゃうかもしれないし、」
「ないな。フェルマンもアルロー殿も真面目に言ってたんだと思う。でも俺が牽制したから諦めざるを得なかったんだろ。それくらいで諦めるような男はエマに不釣り合いだ」
「前のエルマンならアレだけど今のエルマンなら私なんかよりもっと素直で可愛い子が似合うんじゃないかって思って……私問題児だし、侯爵家に迷惑かけてしまうかもだし」
「今の俺か……こうしたのはエマだな。問題児か……うちの母上からは暴力は許せないけれどエマにはヒロインの素質があると太鼓判を押されていたけどな」
ヒロインの素質? なにそれ。
「いやいや、私モブでしょう? マンガに一コマも出てきてないよ」
「モブがなんだか知らんがエマという女の子の物語のヒロインだろ。人生には紆余曲折があって然りで、エマは人よりその経験が多いと思う。俺はエマのように知識も経験もないけれどエマを助けられる男になりたいと思う」
エルマンは本気で言っているんだよね。私がヒロインでエルマンがヒーローって。思わず笑ってしまった。
「ふふっ。エルマンがヒーロー?」
「笑うな。俺は真剣だぞ」
「うん、ありがとう。エルマンとの関係が心地良すぎて壊したくないのが本音。エルマンが離れて行くのが不安で一歩踏み出せなかった。だから言い訳ばかりを考えちゃって」
そしてまた言い訳をする。好きだ。って言えれば良いのに……
「なるほどな。それはこれからの俺の行動で示そう。俺がエマをどれだけ好きか伝えて行くし、悪巧みする奴らには一切手を抜かない。それと……」
エルマンが立ち上がり何かの書類を取り出し私の隣に座った。
「何これ?」
「左は婚約のための書類、右は結婚のための書類だな」
「結婚?」
「あぁ、俺がどれだけの覚悟で婚約を申しこんでいるか知って欲しい。婚約の先には結婚がある。何があっても婚約解消などしない。よくある? 婚約破棄イベントとやらには付き合わないからな」
どれだけロマンス小説を読んだんだろうか……この世界でも流行っているのか。恐るべし異世界。などと感心してしまった。
「それとこれも」
お次は契約書のようなものが出てきた。
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