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長期休暇もあっという間だった

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「エマ、舞台はどうだった、楽しめたか?」

 今日はエルマンとお昼の部の舞台を見に来た。王侯貴族の純愛が題材でキュンとしたりハラハラしたり涙したりととても見せ方が上手い舞台だった。

「うん! 今日は連れて来てくれてありがとう。それとこのレストランも」

 めっちゃくちゃ高級店で外国帰りのシェフが作る料理、雰囲気最高そして魚が美味しい。もう毎日食べたいほどだ。周りを見ると夫婦やカップルばっかり。中にはお見合い的な人達もいた。なるほど貴族のお見合いは本来ならこういう場所でするのね。きちんとした場所を設けて……

「エマが今何を思っているかなんとなく想像できる。エマと初めて会ったレストランは見合いをするにはカジュアルすぎるよな。侯爵家の見合いの場にはふさわしくないし中にはそれが嫌で断ってくる家もあったんだ」

 おっと、顔に出てしまったのか!

「気にしてないよ。断るつもりだったし」

 エルマンの顔色が変わった。そして頭を抱えた!

「本当にすまない。どれだけ謝っても謝りきれない」
「いいってば。今のエルマンが素のエルマンだってわかってるから。あの時は席を立ってしまってごめん、私も失礼だったよね。断るつもりだったんだからフェルマン様に騙されれば良かったのか、ってやだ! なんて顔してるのよ、やめようよ。この話せっかく料理が美味しいのに台無しになっちゃう」

「そうだな……今日のメイン料理は海鮮だけど肉も評判なんだ。また来ような」
「うん。でももう一回あのレストランに行きたいかも。ちゃんと味わってないから」
「あそこか……まぁいいけど」
「私がご馳走するよ!いつもお世話になっているから」
「あそこで振られるのは勘弁だからな」



 トラウマなのか? そして早々にエルマンとお見合いしたレストランに行く事になった。高級店よりカジュアルレストランの方が居心地がいい私は庶民の心を捨てられないのだ。

「エルマン好きなもの食べていいよ。ほらこれとかおいしそう」

 前回はコース料理だったんだけど今回は一品料理を頼むことにした。

「私、ビーフシチューとバッケッドにしようかな」
「俺はパスタにする」

 その他サラダなども頼んだ。確かにお見合いをする雰囲気ではないけれど普通に食べに来るには美味しいし若向きだった。前世だと高校生のデートはファストフードが定番だったからカジュアルレストランなんて来たことない。このレベルなら社会人がたまに来るおしゃれランチをするようなレストラン? って感じ。デザートまでしっかり食べて支払いを済ませようとしたら、エルマンに手を繋がれてそのまま外に出る。

「エルマン! 私が払うって言ったのに!」

 支払いは済ませてしまっていたようだ。

「つい癖で支払ってしまった。美術館の帰りにカフェに寄ろう。そこはエマにご馳走になるから」
「それじゃあ、お礼にならないよ! エルマンにはいつも貰ってばかりだし」
「そうでもないんだけど……俺はエマといると楽しい時間を貰えるし」

 エルマンはこうして私を口説いてくるようになった。

「美術館まで歩こうか」
「うん、良いね。街並みを散策しながら行こう」

 そして歩き出したんだけど、エルマンと手繋ぎっぱなしだった!

「ねぇエルマン、恥ずかしい」

 恋人でも婚約者でもない私たちが手を繋いでいるってちょっと……。

「エマは手を繋いで歩いたことある?」
「お兄様とは繋ぐケド、」

 うちのお兄様は心配性だから手を繋いでくれるんだよ。思えば小さい頃からずっと繋いでいた。最近記憶が混ざって恥ずかしいと思ったけれど、今まででいう普通のことだったんだよね。外では繋いじゃダメってお父様から言われたけど。

「キリアン殿か……まぁそうか。兄妹だしな」
「お父様には外では禁止されているんだけどね。前世ではお兄ちゃんがいたけど手を繋ぐなんて絶対なかったから新鮮だったよ。お兄様は優しくて素敵だし頼りになるもの」

 お兄様はかっこいい。兄妹じゃなかったら絶対に好きになっていた。それくらい好き。でも妹だから優しくしてくれているのも理解している。
 
「そうか。俺も頑張るよ。キリアン殿よりエマに頼りにされたい」

「……エルマンって素直だよね。素直だからあんなに拗れちゃってたの?」
「なんだっけ、暗黒時代? 自信がなかったんだよ。でも今は違うな。自分を嫌いになると人に優しく出来ないからな」

 エルマンが成長している。そして良い顔をするもんだからどきどきしてきた。

「エマのおかげだよ。だからこれからも俺のダメなところは叱ってくれ」
「ふふっ。変なの、普通はそんなこと言わないよ? 叱ってくれだなんて」
「そうか? 実はフェルマンに言われたんだけど、俺は依存体質なんだそうだ。あの時はフェルマンに、今はエマにって。もしかしてそうなのかも、と落ち込んだが、違うんだ。あの時は自信のなさからフェルマンが羨ましかったから。エマの事は単純に惹かれたんだよ。俺は侯爵家の人間として地位もあるし、エマと婚約するにしても了承なくとも出来ると思っていたんだ。ほんとうバカだよな。エマにも気持ちがあるのに……こんな当たり前のことも分からなかったんだ、恥ずかしい。それでもエマに振り向いて欲しいと必死なんだ」

 にこり。と笑うエルマン。

「エルマン、自分がイケメンだってわかってる? そんな顔されたら大抵の女の子は堕ちちゃうよ」
「エマは俺の顔が好き? イケメンって何?」
「イケてるメンズって意味。かっこいいってこと。ごめん前世の言葉だ」
「エマ的には俺がイケてる?」
「それは、うん」
「エマの中で何番目くらい?」
「……お兄様の次! もう! 行こう!」

 エルマンの手を引っ張り無言で美術館に行ったのだった。なんなの今日のエルマン!



 
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