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急接近

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「エマ疲れているな。俺が選んでくるからそこで座って待っていてくれ」
「うん。助かる」

 スイーツがたくさん並んでいる。ここは夢の中のよう。フルーツも美味しそう。

「エマ? どうした、なんで泣きそうな顔をしているんだ。どこか痛いのか?」

 どこも痛くない。でも悲しいの。

「エルマン……あのね、」

 エルマンが隣に座って来た。

「どうした? なんでも言ってくれ」

 悲しくて涙目になり訴える。

「こんなに美味しそうなのに……食べたいのに……コルセットが苦しくて辛いの」

 うっ。うっ……。せっかくの王宮スイーツなのに。エルマンがハンカチで涙を拭ってくれた。

「そうだよな。エマはスイーツが好きなのにな。でも少しは食べられるかい?」
「ゔんっ」
「よし。それなら待ってろ。俺に任せとけ」
「エルマン?」

 エルマンはハンカチを私の手に握らせ、席を立ち真剣な顔でスイーツと対峙していた。それからお皿にフルーツを盛って戻ってきた。

「エマ、口開けて」

 口を開けろと? なぜそうなる。

「疲れているだろう? 今日デビューを迎えたエマを甘やかせたくなった。ほら」

 エルマンはブドウを持っていた。それを食べろと言っている。そのブドウは見るからに瑞々しくてつい口を開けてしまった。

「んー。美味しい! 口の中にブドウの甘さが広がる」

 これは前世でいうシャインマスカット的なやつだ! この世界にもあるなんて! 

「エマが美味しいものを食べている時の顔は可愛いね。もっと食べさせたくなるけれど、たくさんは食べられないだろうから、厳選してきた。次はこれ。ほら、口開けて」

 エルマンに従った方が美味しいものを食べられる。次はイチゴだった。

「んー。美味しい。こんなに美味しいイチゴ初めて食べる」
「良かったな。次はコレだな」
「はぁー。とろける甘さがたまんない……」

 マンゴーまで! 高級そう。

「良かったね。最後はジェラートにしよう」

 濃厚なのにサッパリしていて満足度がたかい。

「ありがとうエルマン」
「どういたしまして。これくらいにしとかないと気持ち悪くなると困る。あとは果実水で喉を潤すといい」
「うん、ありがとう」
 
 グラスを渡され口にすると口の端から果実水が溢れた。グラスの飲み口が変わっていて思ったよりたくさん口に含んでしまった。

「あっ」

 すかさずエルマンがハンカチで拭いてくれたんだけど……

「ご、ごめん」
「あ、全然大丈夫……ありがとう。ドレスが汚れないですんだ」

 エルマンと私、2人とも顔が赤くなっている原因は、そのエルマンの手が胸元に触れたから。今日は盛りに盛った胸元で、エルマンはふっと顔を背けた。耳まで赤いので私まで恥ずかしくなった。

「エマちゃん、デビューおめでとう」

 ん、この雰囲気を壊してくれる人は誰?

「フェルマン様、来てたんですか」
「そりゃ来るよ。エマちゃんのデビューだし、ダンスに誘いたかったんだけどね、キリアン殿に言ったら今日は締め切ったらしくて残念だけど今度にするよ。隣にいるヘタレ男は幸運だったね。それじゃあ良い夜を」

 ウィンクをして会場に戻ろうとすると、すぐに令嬢に捕まってダンスフロアへと行った。さすがモテ男だ。

「誰がヘタレだ……エマの気持ちが追いつくまで待っているだけだ」

 エルマンは純情なんだと思う。17歳の令息だよ? ちょっと胸に触れたくらいでこんなに赤くなるなんて……前世の記憶があるから少し触れたくらいではあら、事故ね。くらいにしか思わない。エルマンにつられて赤くなったけど、エルマンならいっか。と思えた。

「気持ちか……今はドキッとしたけど、嫌じゃなかったよ。エルマンだからだよ。ねぇエルマンも食べる? これが1番おいしかったよ。はい、あーん」

 エルマンに食べさせてもらったブドウをエルマンの口に入れた。これは照れ隠しなのである。

「うまいな」
「でしょ? エルマンが真剣に選んだブドウだからね。なんでこんなにたくさん並んでいるのに、スイーツじゃなくてフルーツにしたの?」

 美味しそうなスイーツはたくさんある。それなのにフルーツを選んだ理由。

「旬だったし、並んでいる物で高価な物を選んだ。少ししか口にできないのだから、良いものを口にしたいだろう? 満足感が得られると思って」

 あの短時間でそこまで考えるとはすごい!

「あははっ。エルマンっぽいね! 満足感あったよ」
「だろう? 俺の目にかかればそんなもんだ。まさかスイーツが食べられないからと泣くとは思ってなかったから驚いた」
「やめて、忘れて! 一生言われそう」
「まぁな。この時期が来るたびに思い出すだろうな。そしてその時隣にはエマがいてくれたら良いな。俺はそんなエマの為にスイーツを選んでやるよ」

 それは一生続くんだよね……悪くない、かも。そう考えると急に顔が赤くなり両手で顔を隠した。

「どうした、急に」

 私の顔を覗き込むエルマン。さっきと逆なんだけど……

「だって、ずっと続くんでしょ、スイーツ選び」
「そうだな、ずっと、永遠に。エマこれプレゼント」
「え、なに、急に」

 猫のブローチ? 可愛い。

髪留め一匹だけじゃ可哀想だからな。エマはアクセサリーとかあまり付けてないし、邪魔にならないものを選んだ」
「ねぇ、これ高いんじゃ、」

 むごっ。

「値段のことは気にするな。俺がエマにつけて欲しいから少しはカッコつけさせろ」

 手で口を塞がれたのでそれ以上何も言えなかった。


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