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デビューは大変
しおりを挟む「苦しい、苦しいからその辺でやめて、お願い。息ができない」
ぎゅぅぅぅぅぅぅぅー。コルセットを締める音ってこんなに大きかった? この世界にもブラとショーツがある! ワイヤーの代わりに動物の骨を使っているし、ゴムを下着に使うなんて発想はまだないから、ショーツは紐パン。履き慣れないから恥ずかしかったけど、この世界では常識で慣れるしかないと諦めた。でもドレスの時は美しいシルエットを作るためにもコルセットで締め上げる。
「このくらいにしておきましょうか。少しは食事できるように空けておきますね」
「おに! こんなに締めて何が胃に入るのよ! 苦しくて戻してしまうかもしれないわ」
文句を言いながらも……! 何この細いウエスト! そしてこれでもかと底上げしたバスト。小さくはないけれど大きくもないサイズのはずなのに。バストが大きく見えてさらにこのウエストのくびれ! おしゃれは我慢が必要というから苦しくても仕方がないのね。くしゅん。コルセットとショーツだけだから少し肌寒い。
「早くドレスを着てください。そんな格好では風邪をひきますよ」
そんな格好をさせているのは誰よ! と思いながらドレスに袖を通す。デビューする時はライトブルーのドレスと決まっていて、王宮で陛下に声をかけてもらえる。そして成人として認められるのがこの国のしきたりだ。私の緊張をほぐすためにこんな感じなんだと思うけれどね、本当にしんどい。
ドレスは飾りのないシンプルな物と決まっていて初々しい感じがして悪くない。
だってこのドレスを着れるのは一生に一度だけだもの。中には親が着ていた物を取っておいて着る家もあるみたい。それは前世と同じでほっこりするエピソードだけど、お母様のドレスは既に処分した。との事。
「次は髪型をセットしますが、編み込みで可愛らしくとの奥様からのリクエストです。その後ヘッドアクセサリーをつけますから大人しく座っていてください」
既に疲れて抵抗する気力などない。ヘッドアクセサリーはパールでこれだけは自分でデザインをしてデザイナーさんに作ってもらった。この世界ではあまり見かけないデザインのようで斬新で美しい! とデザイナーさんからの太鼓判をもらった。編み込みに馴染むデザインで、私の髪の色には映える! そして可憐。
「次はお化粧をします。初々しいイメージで! と旦那様からのリクエストなのでフェイスパウダーとチーク、リップ、で軽くて仕上げます」
ささっと仕上げてくれた。おぉっー。これは可愛い! どっちかというと私の顔は綺麗系かな? なんて思っていたけれど姿見にうつっていたのは初々しく可愛らしい女の子だった!
「完璧ですね! 今回のデビュー組の中でも上位に入ると思います!」
1番可愛いです! と言わないところがうちのメイド達よね。うちのお嬢様が1番! って今頃各家では息巻いていると思うのよね。
「可愛くしてくれてありがとう。みんなお待ちかねよね。早く行かなきゃ」
扉を開けるとルシアンとサムエルが待っていた。
「おぉっ! 可愛い!」
「今日のお嬢は可憐に見える!」
この2人の感想を聞くと肩の力が抜けた。もっとあるでしょうに……
「うちのお嬢様が1番って誰も言わないんだね」
張り切り方もいつもと同じだし、緊張感がないなぁ。
「そりゃ当然だから言わないだけだろ、なぁサムエル」
「わかりきっているから口にしないんだろ。さぁ皆さんお待ちかねだ」
2人に手を出されたので2人の手を取る。
「2人にエスコートされたらお姫様になった気分だ」
いつも通りの2人に緊張もどこかに飛んでいった。
「お嬢の準備が出来ましたのでお連れしました」
お父様、お母様、お兄様が一斉に私を見る。
「これは可愛いな!」
「素敵よ! エマ」
「うん、可愛い!」
「ありがとうございます。みんなが頑張ってくれたの。どう?」
くるっと回って見せた。
「本当に似合っているよ」
みんなにキスをされた。前世では考えられない愛情表現だ。でも嬉しい。
「エマのデザインしたヘッドアクセサリーも美しいわ。私も作ろうかしら?」
「お母様とお揃いなんて素敵ですね」
お母様の髪色は私と同じだから絶対に似合う! お母様の雰囲気だと違う宝石を使っても良いかも! デザインしたい!
「エマのエスコートが出来るなんて嬉しいよ」
そっとお兄様の腕に手をかける。お兄様はエルマンと同じ日にデビューだった。お兄様はエルマンと違って嫡男として社交活動をしているから安心出来る。気遣いが繊細で妹じゃなかったら惚れていた!
「ん? どうしたエマ」
「お兄様、私が妹だから良いものの他の令嬢をエスコートする時は気をつけてくださいね。絶対お兄様に堕ちちゃうから。一瞬好きになってしまったもの!」
「ははっ。エマは大好きな妹だからねぇ。特別だよ。僕も今日エマの姿を見て惚れ惚れしたんだよ。こんなに可愛いエマの相手が僕で良かったと、神に感謝したよ」
お兄様も凄く素敵で、自慢の兄だと大きな声で言いふらしたい! 器が大きくて、いつも背中を押してくれる。
「私のお兄様は世界一素敵です!」
ギュッとお兄様の腕にしがみついた。
「なんだい、エマ甘えてきているのかい? 嬉しいね」
お母様はあらあら。と苦笑いしていた。お父様は気を引き締めろよ。と言った。顔は相変わらず怖い。
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