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長期休暇
しおりを挟むテストが終わると長期休暇がある。長期休暇の間に私は社交界デビューをするので、今回は領地行きを断念し王都で過ごすことになった。
「エマ、休暇の予定は?」
エルマンに聞かれた。
「コリンナ様に誘われたから美術館に行くの。あとは勉強と、デビューの支度とか?」
ドレスの準備はデビュー用だけではなく、その後の社交活動用ドレスも必要で、夜会用、ティーパーティー用などTPOに合わせなくてはならない。最終的にはデザインお任せで作ってもらった。靴とかバッグとかアクセサリーとか、大金が動いた! 恐るべし貴族の社交デビュー。前世の成人式は、美容院で髪を整えてもらって、着物を着せてもらって、会場のホテルで懐かしの学友と会い、頭が寂しくなった校長先生のありがたく、長い話を聞いてお酒とオードブルを楽しんだ。着物は姉と共有だったし前世ではレンタルを活用する人の方が多かった。保管も大変だし。
「美術館へはいつ? ノエル姉さんの茶会もあるよな」
「美術館は週末の予定。ノエル様のお茶会は来週だったよね」
「ノエル姉さんの茶会は迎えに行く」
まさか休みの日に友達と予定が入るなんて思わなかったし、少し浮かれている。
「遠回りになるから現地で集合で良いんじゃない? 申し訳ないよ」
「エマはお茶会に慣れてないし俺もそうだ。それにエスコート慣れしていないのは事実だけど、それに甘んじるつもりはない。ノエル姉さんは親戚だし大目に見てくれるだろう? 練習も兼ねて是非迎えに行かせてほしい」
エルマンも緊張しているんだわ。お互い様という事で快諾することにした。
「お言葉に甘えてお願いします」
「俺からも頼む。エマの当日のドレスの色は何色だ?」
「お昼のお茶会だから明るい色の方が良いかなと思って、ブルーにしようと思っているの」
「濃いブルーか、薄いブルーかどっちだ?」
「えっと、緑に近い青って感じかな。色の名前が……」
ど忘れした! なんせあの日はドレスを選び疲れていたから!
「ターコイズブルーだな?」
「そうそう、それ! あースッキリした」
「分かった。それと美術館に行く日だが声をかけられてもホイホイついて行くなよ。最近ナンパ目的で令嬢に近づく不届者がいるようだから」
「そうなの? 気をつけるね。私前世で美術館に行くのが好きだったんだ! 建物内にいるだけで特別な感じがしない? この世界での芸術品も気になるし凄い楽しみなの」
前世では美術館は各地にあって、展示だけではなく、建物や庭園を見るだけでも価値がある。美術館にはカフェがあってその地の物を食すのも醍醐味だったし今回、誘ってもらえて期待しかない!
「そんなに行きたかったのなら言ってくれよ。いつでも連れて行くのに」
「え、本当? エルマンはまだまだ私の事分かってないなぁ」
なんて冗談を言ったら、とても沈んだ顔をされたので揶揄うのはやめておこう。
「冗談だよ。エルマンはいつも素敵なところに連れて行ってくれるもの。私はまだ王都の事よく知らないから、何があるのか分からないし、つい浮かれちゃったの。でもねエルマンいつも私のことばっかだし、エルマンの行きたい所にも付き合うからね?」
エルマンはいつも私の好きそうな物や場所を調べてくれるからエルマンが何を好きかよく分かっていない。
「そうだな……エマが好きかわからないけれど、母から貰った舞台のチケットがある。社交界デビューの後で良いから付き合ってくれないか?」
舞台といえば大人の社交場!
「行きたいけど、」
なぜ悩むかというと、社交場にエルマンと出かけたら親しい仲である。と周囲に見られてしまうから。エルマンの告白に私はまだ答えていない保留中の身なのだ。
「あまり深く考える必要はない。母も誘う相手を知っていて昼の部のチケットを取ってくれたんだ。昼の部は若い2人がデートに来たと思われる程度だ」
私はまだデビュー前、エルマンはすでにデビューしている。エルマンは数年間の暗黒時代があったから社交活動はしていない。それでも人気の子息である事に間違いはないのだけど。
「俺は去年デビューしているのに、舞台など華やかな場所に顔を出して来なかったから、エマにエスコートが出来ないポンコツだと思われているのだろうか」
なんでそんな憂いを帯びた顔で言うのよ!
「そんなんじゃないけど、」
「エマが首を縦に振ってくれないのならこのチケットの意味はないんだ」
これ、今大人気俳優が勢揃いしている超人気の舞台! しかもバルコニー席……プラチナチケットになっているはず!
「あぁぁ、この舞台」
「この舞台がなんだい? エマが行かないと言うのならこんなチケット破り捨てて、」
エルマンがチケットを破ろうと……!
「きゃぁぁっ。行かせてください!」
「そう? 良かった。実はこのチケットはテストの成績が良かったご褒美にと母が舞台関係者に頼み込んで手に入れたみたいなんだ。舞台が終わったら食事をしよう。いつものようにカジュアルな雰囲気の店ではないけど、海鮮が美味しいと評判の店だ」
こうしてまたエルマンに流されるまま長期休暇も遊ぶ事になる。
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