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エマちゃん!

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「あなたがエマちゃんね! 会いたかったのよ」

 エルマンの家のお茶会に誘われて、挨拶をすると夫人が歓迎してくれた。

「母上、エマがびっくりするからやめてください」

 エルマンのお母様って若いんだ。そして可愛い。大人の既婚者に例える言葉ではないけれど、ふわん。としていて可愛いらしいの!

「エマちゃん、どうぞ座ってね」
「ありがとうございます」

 夫人はにこにこと笑顔を絶やさない。

「エルマンを昔のエルマンに戻してくれてありがとう。この子ったら急に素っ気なくなって何にも興味を示さなくなって、面白みがないったらなかったのよ。エマちゃんと婚約したくて必死になっている姿は僥倖だわ、」
「母上っ! いい加減にしないと怒りますよ! エマ話半分に聞いてくれ。この人は話を盛るのが悪い癖なんだ」

 エルマンは愛されて育ってるんだわ。と思った。

「学園はどう? 騒動に巻き込まれたと聞いたわ。エマちゃんには悪いことをしたと思って謝りたかったのよ」
「いいえ、とんでもございません。夫人もエルマン、様も悪くありません。もう気にしていませんので、お気になさらずに」

 夫人の前でエルマンを呼び捨てにするところだった! エルマンは親しくしているといえ侯爵家の人間で、お茶会は侯爵家からの招待で格上の家だという事を忘れてはならない。

「ダメよ、これが社交場だったらお互いに再起不能になるかもしれない、それくらいの事件だったのよ。私はこの話を聞いた時に耳を疑ったわ。社交界では泣き寝入りと捉えられるかから気を付けた方が良いわね。うちとしてもエルマンの名前が使われたから抗議をしておいたわ」

 エルマンからはそんな話は聞いていなかった。バツが悪そうな顔をしているのはきっとそのせいだろう。

「相手も私もまだ学生で一度の過ちなのでやり直しが出来るなどと思っていたのですが、16歳といえば既に成人です。自分の行動ひとつで家族や周りに迷惑がかかると改めて感じました。夫人にもご心配をおかけしたこと心よりお詫び申し上げます」

 立ち上がって頭を下げた。

「ほらエマ、座って。母上、そろそろこの話題は避けてほしい」
「エマちゃんがどう思っているか聞きたかっただけよ。話せば済む事なのに手を出して野蛮じゃないの。女の子の顔を打ったり髪を引っ張るなんて。あんな事をされたのに相手を庇って……。エマちゃんは優しい子なのね。でももっと自分を大事にしなさいね?」

 夫人の目を見ると本当に心配をしているからこうして注意をしてくれるのだと思った。自分を大事に。そうだよね、慣れちゃダメだ。

「夫人、ありがとうございます」
「これから社交界でこの話が出てくる事があると思うのだけど、エマちゃんは悪くないのだから堂々としてなさいね」
「はい」

 社交界の先輩のアドバイスだと思って聞いていた。

「母上、この話はおしまいにして下さい! エマに会いたいというから招待したのに説教から始めるなんて、もう来たくないと思われたらどうするんですか!」
「だってぇ、こんな可愛いエマちゃんに暴力は似合わないわよ。エルマンが好きになるのが分かるわ。見てエマちゃんの目! 本当に綺麗よね」
「それは同意します。母上、エマは美味しいものを食べている時に瞳がキラキラしてすごく可愛いんですよ。うちのシェフたちが張り切って作っていたティーフードの用意をしましょう」
「そうね」

 夫人が手を叩くと、メイドさん達が机の上いっぱいにティーフードを並べてくれた。

「わぁ、美味しそう……」
「どれでも好きなものを好きなだけ取ってね。エマちゃんのために用意したのだから」

 その後夫人による社交界のお話をたくさん聞かせてもらっていた。するとそこに……。

「叔母さま、エルマン!」
「あらあなた、ノエルと一緒だったの」
「ノエル姉さんがなぜ!」

 あなたと呼ばれた紳士は侯爵様! エルマンにお姉様はいないはず。となればどちら?

「叔母さまご招待いただきありがとうございます。そこで叔父さまにお会いしたから案内していただいたの」

「ノエル、こちらはエマちゃんよ。エマちゃんこの子は私の姪なのよ」

 姪。近しい親戚筋の方ということ?

「初めまして私はエマ・モンフォールと申します。よろしくお願いいたします」
「初めまして。私はノエル・アルダンです」

 とても美しい方で大人っぽい。年齢は21歳でアルダン伯爵家に嫁いでいるそう。アルダン伯爵家は確かお父様と縁のある家の方。

「エマちゃんこちら私の旦那さまよ」
「やぁ、いらっしゃい。いつもエルマンが世話になっているようだね」

 侯爵様まで登場してどうしたら良いのか分からない! 助けを求めるようにエルマンを見た。ま、まずは自己紹介が先よね!

「いえ、お世話になっているのは私の方です。侯爵様には初めてお目にかかります。エマ・モンフォールと申します」

 私は今とても緊張している。

「エマ、緊張する必要はないからな」
「そんな事を言われても、私お茶会に慣れてないから失礼なことしないかな」

 あわわわ……! 変な事を口走ってしまいそう!




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