上 下
19 / 74

センスがいい3

しおりを挟む

「今日は楽しかった。エルマン、ありがとう」
「俺も楽しかった。エマ、これ」

 なんだろ。キレイにラッピングしてある。

「なに?」
「受け取ってほしい。今日の記念に」
「開けても良い?」

 どうぞ。とゼスチャーで返された。なんだろ? と思いながら丁寧に開いていく。

「ネコちゃんの髪留め? 可愛い」

 って目が宝石じゃない! もらえないよこんな高価なもの! ばっとエルマンの顔を見ると貸して。と言われて髪に留めてくれた。

「うん、似合う」
「貰えないよ、絶対高いよね、これ」
「俺の手持ちで買えるくらいだ。この髪留めは脚立を持ってきてネコを助けようとした、少しおっちょこちょいで勇敢なエマに。名誉の負傷だろ? なくなったら寂しいと思ってさ、ここにつけといて」

「たんこぶの代わりにつけておくの? いつの間に買ったの?」

 買う暇あった? あるとしたらサクラのおもちゃを買ったあの時? 自然すぎてわからなかった! エルマン恐るべし。

「エマ、今日は楽しかった。また一緒に出掛けないか?」 
「……うん」
「約束な。そろそろ馬車を降りなきゃな」

 思っていたよりも早く帰ってきた。まだ街にいたかったけれど初めてのお出掛けで遅くなるわけにはいかないとエルマンが言った。真面目なんだよね。

 御者に合図をして扉を開けてもらった……。

「お嬢! 婚約もしていない男と2人で馬車で何してるんだ? 屋敷に着いたらとっとと降りてこい。もう少しで扉をこじ開けるところだったぞ」

 出迎え方! って! あれ、もしかして?

「ルシアンっ!? びっくりしたぁ」
「びっくりするのは俺の方だ! お嬢はいつからそんなふしだらな女になった? 昔は俺の後ろをちょこちょこ歩いてついてきて可愛かったのにな!」
「やめてよ、恥ずかしいじゃない」
「俺が恥ずかしいのか? 相手を紹介しないのはやましい事でもあるのか?」

 庭師は体力勝負ってルシアンは鍛えていたからムキムキでぱっと見怖い感じがするんだよね。エルマンどん引きしてないかな? うちは使用人との距離が近いからこんな感じなんだよ。

「失礼しました。私はエルマン・デルクールと申します。エマとは親しくさせていただいています。街歩きが楽しく別れるのが名残惜しくて引き止めてしまいました。申し訳ない」

 エルマンが馬車から降りて挨拶をしてくれたり使用人に対して態度を変えないところはいいかも。

「丁寧な挨拶痛み入ります。私はこの家の庭師兼お嬢の世話役をしております。ルシアン・オージェと言います」

 ルシアンは王宮で働いていただけあって所作は完璧だ。口は悪いしエルマンがいるのに態度もどうかと思うけど。

「ルシアンはね、サムエルのお兄さんでこの前まで王宮の庭師をしていて、辞めて戻ってきたの。奥様はいないけれど双子のパパなの!」

 なんか言わなきゃと思って余計なこともいっちゃった!

「そうですか。よろしくお願いします」
「こちらこそ」

 ルシアンが頭を下げた。

「エマの周り男が多くないか?」
「え、だって私友達いないもん」
「そうだった……」
「サムエルもルシアンも家族みたいな感じたよ」
「そうだな、すまない、変なことを言った」
「なんで私、こんなことを言ってるのか分かんないけど、元気出して!」

 ぽんとエルマンの肩を叩いた。

「お嬢、いつのまにか子息を翻弄する悪い女になっちまったんだな……」

 変なこと言わないでよね! サムエルはルシアンが戻ってきたことにより庭師の仕事の時間が増えたと喜んでいる。サムエルとルシアンのどっちかが送り迎えしてくれることになったの。ルシアンが子供を連れ帰ってきたから離れの家は賑やかなんだって。サクラも子供達が遊んでくれるから寂しくない。エルマンは一連の話を聞いて、帰って行った。


 そしてお兄様の顔を見ると元気がない。どうやら私とエルマンの楽しそうな姿を街で見かけたらしくショックを受けたんだって。

「お兄様、変なことを言わないでくださいね。私はお兄様が大好きなんですからね。お兄様がいなかったら学園にも通えてなかったと思いますし、すごく感謝してるんです」

「エマ! 僕が悪かった。エルマン殿は悪いやつではなさそうだがまだ馴染まないんだ!」

 お兄様に抱きつかれてしまった。落ち着くまでそのままにしておこう。よしよし、とお兄様の頭を撫でてみた。

「お嬢、やるな。坊ちゃんまで虜にして」

 ルシアンてばいつまで私を悪い女扱いするのよ! でもみんな笑っているしそれでいっか。

 部屋に戻り鏡を見てみる。このネコちゃんの髪留めすごくステキ。ネコちゃんのモチーフとなると可愛すぎるかと思うけれど目が大きくて本物の宝石だから子供っぽく見えない。今日の街歩きのためにエルマンはいろんなプランを立ててくれてんだと思う。
 そして色々調べていたみたいで何を聞いても詳しかったし、なんと言ってもランチは最高に美味しかった! おコメを食べるのが久しぶりだったし記憶が頭に入ってきてからおコメが恋しかったの。そしてこのネコちゃんの髪留め。

 悔しいけれどエルマンはセンスがいい。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

次こそは平和な世でのんびり気楽に生きていくつもりだったのに何でか悪役令嬢として生きていくことになってしまった!

asamurasaki
恋愛
ウォーマン王国の第四王女として生まれたのにある事情で生まれた時から第二王子として生きていくことになった。 一部の人間しか俺が女性であることを知らず、隠し病弱で馬鹿な第二王子の振りをして一切表に出ず、日影で生きてきたのに国王になってしまった。 国王として国を民を守る為に戦に明け暮れついに大陸を統一して国に戻る時に落馬して打ちどころが悪かったのか呆気なく死んだ。 次は平和な世でのんびり気楽に生きていきたいと思ったのに乙女ゲームの世界の悪役令嬢になってくれと言われて… 前世と前々世の記憶を持つ主人公がいざ、悪役令嬢として生きていく。 女主人公ですが、前世ずっと男として生きてきたので心の中では俺と言います。 恋愛もののつもりですが、前半主人公の恋愛らしきものはほとんど出てきませんw ユルユル設定です!ご容赦下さい。

婚約破棄されたら魔法が解けました

かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」 それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、王太子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。 「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」 あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。 「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」 死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー! ※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です

影の王宮

朱里 麗華(reika2854)
恋愛
王立学園の卒業式で公爵令嬢のシェリルは、王太子であり婚約者であるギデオンに婚約破棄を言い渡される。 ギデオンには学園で知り合った恋人の男爵令嬢ミーシャがいるのだ。 幼い頃からギデオンを想っていたシェリルだったが、ギデオンの覚悟を知って身を引こうと考える。 両親の愛情を受けられずに育ったギデオンは、人一倍愛情を求めているのだ。 だけどミーシャはシェリルが思っていたような人物ではないようで……。 タグにも入れましたが、主人公カップル(本当に主人公かも怪しい)は元サヤです。 すっごく暗い話になりそうなので、プロローグに救いを入れました。 一章からの話でなぜそうなったのか過程を書いていきます。 メインになるのは親世代かと。 ※子どもに関するセンシティブな内容が含まれます。 苦手な方はご自衛ください。 ※タイトルが途中で変わる可能性があります<(_ _)>

私と一緒にいることが苦痛だったと言われ、その日から夫は家に帰らなくなりました。

田太 優
恋愛
結婚して1年も経っていないというのに朝帰りを繰り返す夫。 結婚すれば変わってくれると信じていた私が間違っていた。 だからもう離婚を考えてもいいと思う。 夫に離婚の意思を告げたところ、返ってきたのは私を深く傷つける言葉だった。

処刑直前ですが得意の転移魔法で離脱します~私に罪を被せた公爵令嬢は絶対許しませんので~

インバーターエアコン
恋愛
 王宮で働く少女ナナ。王様の誕生日パーティーに普段通りに給仕をしていた彼女だったが、突然第一王子の暗殺未遂事件が起きる。   ナナは最初、それを他人事のように見ていたが……。 「この女よ! 王子を殺そうと毒を盛ったのは!」 「はい?」  叫んだのは第二王子の婚約者であるビリアだった。  王位を巡る争いに巻き込まれ、王子暗殺未遂の罪を着せられるナナだったが、相手が貴族でも、彼女はやられたままで終わる女ではなかった。  (私をドロドロした内争に巻き込んだ罪は贖ってもらいますので……)  得意の転移魔法でその場を離脱し反撃を始める。  相手が悪かったことに、ビリアは間もなく気付くこととなる。

婚約者のいる側近と婚約させられた私は悪の聖女と呼ばれています。

鈴木べにこ
恋愛
 幼い頃から一緒に育ってきた婚約者の王子ギルフォードから婚約破棄を言い渡された聖女マリーベル。  突然の出来事に困惑するマリーベルをよそに、王子は自身の代わりに側近である宰相の息子ロイドとマリーベルを王命で強制的に婚約させたと言い出したのであった。  ロイドに愛する婚約者がいるの事を知っていたマリーベルはギルフォードに王命を取り下げるように訴えるが聞いてもらえず・・・。 カクヨム、小説家になろうでも連載中。 ※最初の数話はイジメ表現のようなキツイ描写が出てくるので注意。 初投稿です。 勢いで書いてるので誤字脱字や変な表現が多いし、余裕で気付かないの時があるのでお気軽に教えてくださるとありがたいです٩( 'ω' )و 気分転換もかねて、他の作品と同時連載をしています。 【書庫の幽霊王妃は、貴方を愛することができない。】 という作品も同時に書いているので、この作品が気に入りましたら是非読んでみてください。

平凡地味子ですが『魔性の女』と呼ばれています。

ねがえり太郎
恋愛
江島七海はごく平凡な普通のOL。取り立てて目立つ美貌でも無く、さりとて不細工でも無い。仕事もバリバリ出来るという言う訳でも無いがさりとて愚鈍と言う訳でも無い。しかし陰で彼女は『魔性の女』と噂されるようになって――― 生まれてこのかた四半世紀モテた事が無い、男性と付き合ったのも高一の二週間だけ―――という彼女にモテ期が来た、とか来ないとかそんなお話 ※2018.1.27~別作として掲載していたこのお話の前日譚『太っちょのポンちゃん』も合わせて収録しました。 ※本編は全年齢対象ですが『平凡~』後日談以降はR15指定内容が含まれております。 ※なろうにも掲載中ですが、なろう版と少し表現を変更しています(変更のある話は★表示とします)

妹は謝らない

青葉めいこ
恋愛
物心つく頃から、わたくし、ウィスタリア・アーテル公爵令嬢の物を奪ってきた双子の妹エレクトラは、当然のように、わたくしの婚約者である第二王子さえも奪い取った。 手に入れた途端、興味を失くして放り出すのはいつもの事だが、妹の態度に怒った第二王子は口論の末、妹の首を絞めた。 気絶し、目覚めた妹は、今までの妹とは真逆な人間になっていた。 「彼女」曰く、自分は妹の前世の人格だというのだ。 わたくしが恋する義兄シオンにも前世の記憶があり、「彼女」とシオンは前世で因縁があるようで――。 「彼女」と会った時、シオンは、どうなるのだろう? 小説家になろうにも投稿しています。

処理中です...