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センスがいい3

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「今日は楽しかった。エルマン、ありがとう」
「俺も楽しかった。エマ、これ」

 なんだろ。キレイにラッピングしてある。

「なに?」
「受け取ってほしい。今日の記念に」
「開けても良い?」

 どうぞ。とゼスチャーで返された。なんだろ? と思いながら丁寧に開いていく。

「ネコちゃんの髪留め? 可愛い」

 って目が宝石じゃない! もらえないよこんな高価なもの! ばっとエルマンの顔を見ると貸して。と言われて髪に留めてくれた。

「うん、似合う」
「貰えないよ、絶対高いよね、これ」
「俺の手持ちで買えるくらいだ。この髪留めは脚立を持ってきてネコを助けようとした、少しおっちょこちょいで勇敢なエマに。名誉の負傷だろ? なくなったら寂しいと思ってさ、ここにつけといて」

「たんこぶの代わりにつけておくの? いつの間に買ったの?」

 買う暇あった? あるとしたらサクラのおもちゃを買ったあの時? 自然すぎてわからなかった! エルマン恐るべし。

「エマ、今日は楽しかった。また一緒に出掛けないか?」 
「……うん」
「約束な。そろそろ馬車を降りなきゃな」

 思っていたよりも早く帰ってきた。まだ街にいたかったけれど初めてのお出掛けで遅くなるわけにはいかないとエルマンが言った。真面目なんだよね。

 御者に合図をして扉を開けてもらった……。

「お嬢! 婚約もしていない男と2人で馬車で何してるんだ? 屋敷に着いたらとっとと降りてこい。もう少しで扉をこじ開けるところだったぞ」

 出迎え方! って! あれ、もしかして?

「ルシアンっ!? びっくりしたぁ」
「びっくりするのは俺の方だ! お嬢はいつからそんなふしだらな女になった? 昔は俺の後ろをちょこちょこ歩いてついてきて可愛かったのにな!」
「やめてよ、恥ずかしいじゃない」
「俺が恥ずかしいのか? 相手を紹介しないのはやましい事でもあるのか?」

 庭師は体力勝負ってルシアンは鍛えていたからムキムキでぱっと見怖い感じがするんだよね。エルマンどん引きしてないかな? うちは使用人との距離が近いからこんな感じなんだよ。

「失礼しました。私はエルマン・デルクールと申します。エマとは親しくさせていただいています。街歩きが楽しく別れるのが名残惜しくて引き止めてしまいました。申し訳ない」

 エルマンが馬車から降りて挨拶をしてくれたり使用人に対して態度を変えないところはいいかも。

「丁寧な挨拶痛み入ります。私はこの家の庭師兼お嬢の世話役をしております。ルシアン・オージェと言います」

 ルシアンは王宮で働いていただけあって所作は完璧だ。口は悪いしエルマンがいるのに態度もどうかと思うけど。

「ルシアンはね、サムエルのお兄さんでこの前まで王宮の庭師をしていて、辞めて戻ってきたの。奥様はいないけれど双子のパパなの!」

 なんか言わなきゃと思って余計なこともいっちゃった!

「そうですか。よろしくお願いします」
「こちらこそ」

 ルシアンが頭を下げた。

「エマの周り男が多くないか?」
「え、だって私友達いないもん」
「そうだった……」
「サムエルもルシアンも家族みたいな感じたよ」
「そうだな、すまない、変なことを言った」
「なんで私、こんなことを言ってるのか分かんないけど、元気出して!」

 ぽんとエルマンの肩を叩いた。

「お嬢、いつのまにか子息を翻弄する悪い女になっちまったんだな……」

 変なこと言わないでよね! サムエルはルシアンが戻ってきたことにより庭師の仕事の時間が増えたと喜んでいる。サムエルとルシアンのどっちかが送り迎えしてくれることになったの。ルシアンが子供を連れ帰ってきたから離れの家は賑やかなんだって。サクラも子供達が遊んでくれるから寂しくない。エルマンは一連の話を聞いて、帰って行った。


 そしてお兄様の顔を見ると元気がない。どうやら私とエルマンの楽しそうな姿を街で見かけたらしくショックを受けたんだって。

「お兄様、変なことを言わないでくださいね。私はお兄様が大好きなんですからね。お兄様がいなかったら学園にも通えてなかったと思いますし、すごく感謝してるんです」

「エマ! 僕が悪かった。エルマン殿は悪いやつではなさそうだがまだ馴染まないんだ!」

 お兄様に抱きつかれてしまった。落ち着くまでそのままにしておこう。よしよし、とお兄様の頭を撫でてみた。

「お嬢、やるな。坊ちゃんまで虜にして」

 ルシアンてばいつまで私を悪い女扱いするのよ! でもみんな笑っているしそれでいっか。

 部屋に戻り鏡を見てみる。このネコちゃんの髪留めすごくステキ。ネコちゃんのモチーフとなると可愛すぎるかと思うけれど目が大きくて本物の宝石だから子供っぽく見えない。今日の街歩きのためにエルマンはいろんなプランを立ててくれてんだと思う。
 そして色々調べていたみたいで何を聞いても詳しかったし、なんと言ってもランチは最高に美味しかった! おコメを食べるのが久しぶりだったし記憶が頭に入ってきてからおコメが恋しかったの。そしてこのネコちゃんの髪留め。

 悔しいけれどエルマンはセンスがいい。




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