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センスがいい
しおりを挟むあの件があってから学園に初めて登校した。私がまずすべき事はコリンナ・ディオ子爵令嬢を探す事だった。
「エマ、あの令嬢だよ」
茶色の小柄な令嬢でメガネをかけている。今はちょうど1人だった。
「コリンナ・ディオ子爵令嬢、おはよう」
お兄様が声を掛けた。
「モンフォール伯爵子息とエマ嬢ですね。おはようございます」
「おはようございます、コリンナ嬢。朝から不躾に申し訳ございません。先日は貴重なものを譲っていただきありがとうございました」
あまり長話すると、コリンナ嬢に悪いわね、私は札付きの嫌われ者だもの。
「お役に立ててよかったですわ! きちんと作動した事も確認できました」
「何かお礼をさせてもらえませんか?」
「先日デルクール子息にお伝えしたのですが……あ、もしよければ今度お茶でもしませんか!」
お茶……。私の夢だった学園生活のひとつ。
「喜んで。そんな事でよろしいのですか?」
「はい。お手紙を出しても良いですか?」
「もちろんです」
手紙をくれる約束をして教室に入った。私を見てひそひそしてくる人はいるけれど、私は前をしっかり見て授業を受けた。そして昼休憩の時間になった。今日はどこで食べようかな。
「エマ嬢」
「エルマン様、どうしたの?」
「昼休憩は長いから、話し相手になってもらおうと思って」
「私はお弁当持参ですよ、エルマン様は?」
「持ってきた。そして先生からこれを借りてきた」
「鍵ですか?」
こそっと耳元でエルマン様が囁く。
「屋上の鍵なんだ。先生もエマ嬢のことを気にしてくれて、落ち着いて食事が取れるならって貸してくれた」
ちょっと、距離が近いし、直接耳元で話さないでよ! くすぐったい。耳を押さえてすぐに離れた。
「荷物これだけ?」
「えぇ」
「持つよ。行こうか。片手空いているけれど手を繋がなくて良い?」
!!
「なっ、なんて事を! どこでそんな事覚えてきたんですか!」
「毎日いろんな書物を目にしていて、昨日はロマンス小説を読んだからその影響かも。キュンって感情の勉強をした」
「私で試さないでください!」
「じゃぁ誰で試せば良い? 浮気な男は嫌いだろう?」
と言って私の髪の毛を一筋取った。片手が空いているとそんな事をするの!
「調子に乗りすぎです!」
「ははっ。まだ早いか、勉強が足りなかった」
そしてその日の学園の話題は私たちだった。エルマンが笑った。とか、お似合いだった。とか……。この前とは言っている事が全然違うじゃないの!
そしてエルマンと約束した日が来た。エルマンが我が家に迎えにくると両親が出迎えた。こんな事なら待ち合わせにすればよかった。両親はエルマンを質問攻めにした。エルマンは真摯に答えている。
例の件でエルマンは令嬢達の家に抗議をしていた。もちろん我が家からもしたし、謝罪やら慰謝料やらの話し合いは続いているそうだ。令嬢達の教育が悪かったのは勿論だけど、学園で暴力を振るうなど子供でもわかるあってはならない事で、各方面から非難されている。その中で婚約者がいた令嬢は破談となったり、本人ではなくとも兄妹が破談になったパターンもあるとかで、大変な騒ぎになっている。もう十分罰を受けたのではないかな。
私は暴力を振るわれた訳あり嫌われ令嬢になっている。どうせ嫌われるなら人に迷惑をかけない程度で好きに行動しよう。と決めた。エルマンは悪い人じゃなかったし、過去を反省しているしお互いひみつを暴露してからは友達として楽しいかも。
「エルマン殿、遅くならないうちに帰してください」
「はいお約束します」
エルマンってこうやって見るといい人だ。両親にきちんと挨拶してくれるし、面倒な質問にも嫌な顔せず答えていた。お父様の顔の怖さにもびびってなかった。
「さて、行こうか」
「どこに行くんですか?」
「まずは街歩きだな。新しい店もたくさん出来ている。今回の都市計画で貴族街が延長されて、輸入品の店なんかもあるみたいだ」
「調べてくれたのですね?」
「誘ったからには調べるだろう? それよりももっと気軽に話してくれ。この前(前世)話をしていた時のように」
「いいのですか?」
「もちろん。それと名前は呼び捨てで構わない。私もエマと呼んでいいか? 堅苦しいのは苦手だろう?」
「え、なんで知っているの?」
「エマが使用人達と話をしているのを聞いていると、皆気軽に話をしているし、伯爵夫妻も許しているようだから、そのように育ったのだろうと思った」
「よく見てるね!」
「前は気にならなかった。エマだから気になるし知りたいんだろうな」
むず痒い。エルマンが素直だ。
「あ、エルマン顔が赤くなった!」
「いちいち言うな、ほら着いたぞ。今日は歩くからな」
今日は街歩きだと言われていた。ワンピースとストラップがついたローヒールの靴と楽な格好だ。エルマンはスラックスと同じ生地のベストと白いシャツにネクタイをしていた。ラフな格好も似合っちゃうんだね。
「この辺まで来たことないから新鮮」
「街に来る時は誰と?」
「お兄様か、サムエルとエミリー。街歩きはこれで3回目」
「私も街歩きは必要なかったから来る事はなかったが、悪くないな」
エルマンの家となると商人が家に来るんだよね。だからわざわざ街の店舗に足を運ぶ事はしない。
「あ、いい匂いがする。甘い香りだ」
バターとか砂糖とかお菓子の香り。
「大行列だ! すごい、って、あのお店!」
あの有名なお店のサブレをエルマンに貰ったよね……、まさか。
「エルマンあの行列に並んだりしてないよね?」
「何がまさかだよ。並んだに決まってるだろ」
「嘘でしょ」
「くだらん嘘はつかん」
エルマンって素直な人なんだよね。ちょっと弱って決断力が鈍っていたから厨二病になっただけで。
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