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対面です!2

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「……侯爵令嬢の貴女には信じられないことだと思います。伯爵令嬢だなんて名ばかりで、うちにお金がないわけではないのに教師もつけてくれず、古い本を見て自力で勉強したわたくしの気持ちが……ドレス1枚買ってもらえずに、お古のドレスをお針子のように直す気持ちが……贅沢な茶葉に贅沢なお菓子、何もかもわたくしには縁遠いものなのなのです」


「お気持ちはお察しいたします。わたくしはそう言ったことでは苦労をしたことがありませんもの。それは単なる僻みや逆恨みといったものですわ」


「……嫌な人なんですね」


「えぇ。そう取られても仕方がありませんわね。育ってきた環境がまったく違いますから価値観も違いますわね」


 ドレスを買ってもらったり教師をつけてもらったりは、一般貴族では当然の事で、親が子供に受けさせる義務のようなもの。

 子供が粗相をすると家自体が恥をかくことになるのだから。

 幼い頃から王宮へ遊びに行く事は普通では無い。許可されないと入ることができないのだから。


 口うるさくとも愛情を持って育ててくれた両親。優しい兄様(最近は小煩いけれど)屋敷の使用人もみんな良くしてくれるし、生きていく上で苦労なんてした事がない。

 勉強もマナーも全てにおいて、やって当たり前、やらずは恥だと教えられてきた。

 だからジャド伯爵は今更後悔しているのだと言ったらしい。



「王宮での優雅な生活を見てしまったから……少しでも長く見ていたいと思いました。私の育って来た環境とは違うから……」


「そう。高望みをしすぎた。そこがジャド嬢の欲深いところ。でしたわね。でもね引くべき瞬間って必ずあると思うの。それを間違えたからこう言った事が起きたのね」


「……そうですわね」


「ふふっ。目立たず大人しくが聞いて笑えるわ。本当は強欲だなんて。貴方のよう方は高位貴族としてはやっていけないわ」


「えぇ。身をもって……知りました」

「私たちの住む世界は華やかではあるけれど、それだけじゃないの。礼儀を重んじ、一つ間違えると引きずり下ろされるような場所なの。貴方が急に入ってきて慣れるような場所ではないの。たったあれくらいのことで怯むくらいならこの先やっていけないわよ?」


「……どのような罰が下ろうと甘んじて受け入れます」


「まぁ! まさかただのケチな伯爵令嬢に突き落とされた侯爵令嬢だなんて世間にでも広めるおつもり? そんなにわたくしを乏しめたいのかしら! 公子様や殿下に好意を持たれているわたくしが羨ましいからって」


「わたくしが突き落とした事には間違いがありませんもの」

「池に落としただけで飽き足らずわたくしの評判を落とし侯爵家を敵に回すおつもりかしら?」

「そう言うわけでは……」


 困った顔をしているジャド嬢。そりゃそうよね。



「貴女のようなずる賢い令嬢でも少しお勉強が出来るからと子爵家から縁談があるのだそうね」

(扇子で口元を隠す事を忘れずに……カンペがちょうど良い高さなのよね)


「断るつもりです、わたくしは罪人です」

「断ってどうなさるおつもり? 罪を償ってまた逆恨みで報復でもされたら困るわ。華やかな世界を知ってしまい、また戻ろうとするかもしれないわ! 恐ろしい」


「…………」


「あら、返事がないわね。屍と話しているのかしら? 貴女のような人は格下の子爵家へ嫁ぐのがお似合いよ! 子爵家に嫁いでわたくし達との違いを感じるといいわ」


「え。何をおっしゃって、」


「ケチなあなたの父親がの慰謝料を寄越してきたから少しは許して差し上げる事にしたの。父親に感謝をしなさいな。それでは失礼、もうこのような所でお会いする事はないでしょう」

「え、わたくしは罪を、」


 オホホホ……っと高笑いをして扉に向かう。扇子は持っているわね! ここ重要よ。

 パタンと侍女のマリーが扉を閉めた。何かを言っているようだけど振り向きはしませんわよ!





「お嬢さま! 悪くなかったですね。とっても悪役っぽかったですよ、驚きました」

 興奮するようにマリーが言った。


「そう? 良かったぁ! 少し心は痛んだけれどね」

 マリーから見て悪っぽく見えたのなら成功ね!


「さりげなく令嬢との差を見せつけるために、シンプルに見えて超高価なシルク生地をお選びになったのですね! 淡いピンクが上質且つ上品です! 殿下からいただいたルビーの指輪に、ピンクダイヤモンドのネックレス! さりげなく侯爵家の威信を見せつけるなんて、お嬢様、さすがです!」


「……それはたまたまよ……王妃様にお会いするから新品のドレスを出してきただけでルビーは殿下に付けて欲しいと言われたからで、ネックレスはただドレスに合うからよ……」

 そんな風に見えたの? それじゃやっぱり紫のドレスや露出は必要ないって事じゃないの……


「たまたまで嫌味な格好をするなんて流石です! お嬢様!」


「嫌な言い方ね!」


「お嬢さまは誰がなんと言おうとも、侯爵令嬢ですから当然です。あの令嬢にも伝わったと思いますよ。最後はポカンとした顔をしていましたもの、子爵家で幸せになれると良いですね」


 せっかくの縁談だものね。うまくいくといいと思う。相手の方もこの件に関して知っていてジャド嬢と婚約しても良いと言ったそうだ。誠実な人だと聞いたからジャド嬢と話は合うでしょう。ジャド嬢はまだデビューしてないのだから子供の喧嘩って事で治めてほしいわ。



「うん、そうねーー」



「リリ!」


 殿下が心配そうな顔をしていた。そして時計を見て


「28分も何を話していたんだ?」

「時間を測っていたんですか? ……細かいですわね」


「話の内容は聞かせてくれないの?」


「秘密です。それより喉が渇きました」

「はぐらかしているね……まぁ良い、行こうか」

 メイドに目配せしてお茶の準備を頼んだようだ。


「私の執務室でいい? 場所を覚えてほしいんだ」

 腕を出してきたので遠慮なく手をかける事にした。今の殿下の事を知らないとね。


「リリが素直だと嬉しいよ。何か裏とか無いよね……」

 
 うん。失礼だわ!



「殿下の良いところを探そうと思っています」

「え! 今のところなにかあった?」

 うーーーーん。考えた……


「あ! 腕を貸してくださるところ?」

「普通だね……」


 王妃様が良いところが普通(当たり前)になってしまうってこう言うことなのかな? 




「ふふっ……」

 そう思うと自然に笑みが漏れた。殿下は首を傾げていたけれど、当たり前に気遣いができる人? なのかもしれない。小さなことだけど良いところを見つけた。王妃様で言うところの欠片なのかもしれない。


「扇子……は持っているね。ぷっくっくっくっ……」

 みられていた!


「殿下はご存じないかもしれませんけれども、令嬢と言うのは殿方に隠しておきたいことも多々あるのです。扇子の内側にカンペがあるくらいお許しくださいますか!」

 ふんだ! 笑うなんて失礼ね。私なりに頑張ったんだから。

「許すもなにも、可愛くて仕方がないよ。そう言うところがリリの魅力だね。リリの良いところをまた見つけたよ」

 
「変わった趣味ですね!」








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