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殿下が侯爵家にやってきた!

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 先触れもあり、お母様と共に殿下を迎える準備をした。(お父様と兄様は仕事に行ってて不在)

「リリー準備はできた?」

「はい」


 好きなだけ買っても良い(?)と言われた時に家用のドレスもついでだからと購入したグリーンのドレスを侍女のマリーに薦められて着た。裾のレース部分が密かにお気に入り。


 悪役令嬢に憧れて購入したドレスはすべて没収されて、今はどこにあるのやら……。
 マリーに聞いても、さぁ? 旦那様と奥様にお渡ししました。と言われるともう聞けない。


 もうすぐ到着予定と聞きエントランスでお母様と殿下の到着を待つ。

 優雅に馬車を降りられお母様と挨拶をされた後は、侯爵家自慢の庭が見えるテラスへ移動して殿下とお茶を飲む。


「相変わらず見事な庭だね」

 庭師が丹精込めていますから、褒められるとさらにやる気につながるでしょうね!

「庭師が聞くと喜びます」


「今週から週に2回王宮に来てくれると聞いたよ」

「はい」


「婚約に同意をしてくれたと取っても構わないと言うことかな?」

「……あの、その件なんですけども」

 言っても良いのかな……

「婚約は家と家との繋がりだよね。でも私はリリが好きだしいつかはリリにも好きになって貰いたいと思っているよ。もちろん無理強いはしないけれど、お互いに思い合っている方が上手くいくと信じている。私が至らぬばかりにリリが誤解をしてしまったようだから、そこは何度詫びても詫びきれない」


「ハイ」


「まずは、デートをしよう。夫人から外出許可を得ている。数年間会っていなかったのだからその間にお互いのことを話そう」


 お茶をそこそこに切り上げて、家から出た。どこへ行くのかと思ったら王都の街だった。

「はぐれては困るから手を繋ごう」

 と言われて、躊躇う前に手を繋がれてしまった。この前も思ったけれど大きな手だ。包み込まれるような温かい手。

「リリ? どうした?」

 顔を覗き込まれて目が合った!

「な、なんでもありません」

 ふいっと視線を逸らしたけれど、なんかドキドキする……殿下の口からリリと呼ばれると……


 困ったわ……なんか変な感じ


「あっちの屋台にリリの好きそうなものがあるんだ、行こう」

 手を引かれて歩き出した。兄様と街に来た以来だけど屋台? ワクワクしてきた。

 しばらく歩くと、数件の屋台が出ていてそのうちの1つのお店の前で足を止めた。

「1つください」

 店員さんにお金を支払っていた。

 卵の甘い香りがする。何だろう? 一口サイズの楕円形のものが袋に入っていた。カステラみたいなものかな?


「はい、あーんして」


「え! 立ったままで食べるのですか!」

「そうだよ。屋台だからね、ほら口開ける」

「えっ、えっ、でもっ」

 周りをきょろきょろと見る。立ったままで物を食べるなん、て……周りを見ると皆立ったままで食べていたり、歩きながら食べている人もいる!

 私の様子を見て殿下は、パクッと自分の口に入れた。


「うん。甘くて柔らかくて美味しい。今なら焼き立てでより甘みを感じるのに」

 またパクッと口に入れた。

「リリがいらないのなら全部食べてしまうよ。美味しいのに残念だね」


 ズルいわ! 仮にも? 王族なのに自分だけ楽しむなんて! 

「ほら、変に意地を張らないで口開けな」

 カステラのような物を私の口に押し付けてきた。
 

 むぐっ……もぐもぐ……ごくん。





「……おいしい」

「ほらもう一つ」

 口の近くにカステラを持ってきてくれたので口を開けたら食べさせてくれた。

「ハチミツの甘さが優しくて卵の味がして……優しい味ですね!」

「気に行った?」

「うん!」

 屋台グルメなんてはじめてだわ! それに立って物を食べるなんてお母様が知ったら怒られるわね! 背徳感……


「あ! 殿下は毒味もなしに召し上がってはいけません!」


 王族の方々が召し上がる物に毒が混入されていて毒殺をされるなんてこともあったもの! 王都の街で、しかも屋台の物を毒味なしで食べるなんて!

「まぁ、そうだよね。それなら先にリリが味見する?」

「そうしましょう!」


 臣下として王族を守るのは一貴族として、当然の務めです。私は社交界デビューもした成人ですもの!


「この果実水も美味しそうだね」

 桃ですって! 美味しそう!

 いつのまにか殿下は桃の果実水を買っていて、私に先に飲ませた。

「美味しいです! っじゃなくて大丈夫です」

 毒味だった。味の感想は聞かれていない。


「そう? それなら安心していただくよ」

 ってそのストローは今私が口を付けた……

「美味しいね。思ったよりさっぱりしている」

 間接キス……ってそんな事私だけが思っているのかな。暑くなってきたわ。


 顔を手でパタパタしていると、

「どうしたの?」

 と言ってまた顔を覗き込まれた。

「な、なんでもありません」

 調子が狂うわ……こういう時悪役令嬢ってどうするんだろう?


 その後は大道芸を見て楽しんだり、街を散策したりと、とても楽しく過ごすことができた。


「日が暮れる前に帰ろうか? 遅くなると夫人が心配する」

 気がつけば夕方だった。

「はい」

「楽しかったね。リリはどうだった?」


「……楽しかった、です」

「良かった! また出掛けよう」

「うん」

 ちっちゃい声だったけど、殿下は嬉しそうに笑っていた。こんな顔もするんだなって思った。



 それから屋敷まで送ってもらって、お母様に挨拶をして殿下は帰るそうだ。

「リリ、明後日は王宮に来るよね?」

 週に2回の、例のアレ……その前にまず王妃様とお会いするのだそうだ。

「ハイ」

「そんな顔しないで、気軽に来てくれたら良いよ」

 困った顔をしてしまった。

「待ってるよ、それじゃ」

 にこっと優しく笑い頬にチュッとリップ音を立てられキスされた。

「きゃぁ!」

 頬に手を当て殿下から離れた

「これは嫌がらせではなく愛情表現だよ。私はリリのことを好きだからね。ちゃんと私と婚約のことも考えてくれると嬉しい」




******



「王都の街に行く。散策をして屋台にも行きたい」


 フレデリックが側近に言う


「分かりました。事前に確認(毒味と安全確認)しておきます」


「すまないが頼んだよ」


「我々の目の届く範囲で行動願います。何か有れば今後は殿下の真後ろに護衛を付けますからね」


 護衛には離れて様子を見るように頼んだ。せっかく出かけるのなら2人でデートをしたい。それが叶わないのは知っているからこそ言われた事は厳守しなければならない。護衛の邪魔をするつもりはない。


「王太子になったら自由な時間は減るだろうね。今のうちに出来るだけ出掛けておきたいんだ」


 側近は頷き答える。


「今後出かける際は護衛も増えますし、リリアン嬢と少しでも息抜きをして下さい」


 王太子になると執務も増えるし、王の名代として他国へ行くこともある。

 今とは立場も変わってくるので少しでも気楽なうちに出かけておきたいとフレデリックは思った。















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