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え! 2日も……
しおりを挟む「リリー!」
「リリアン嬢!」
叫んだまでは良かった。リリアンが池に続く緩やかな坂を転がってそのまま池に落ちた!
上着を脱ぎ助けに行こうとしたら、すでにフレデリックは上着を脱ぎながら坂を下り池に飛び込んだ!
俺も急いで坂を降りるとフレデリックがリリアンを抱えて泳いで戻ってきた。
ドレスが水を含み重みで体ごと沈み込んだようでリリアンがぐったりとしている!
池からリリアンを上げる時に手を貸した。ドレスの重みで陸に上げるのに少し時間がかかったがなんとか陸に上げることができた。フレデリックも池から上がり
「リリ! リリ!」
フレデリックが声をかけた。リリアンは目を開けずにぐったりしているし、苦しそうだ。
「水を飲んだのでは?!」
するとフレデリックは、躊躇なく唇を奪った。人命救助と言え令嬢の唇を許可なく奪うとは……
するとごほっ、ごほっと。と咳をするリリアン。苦しそうだが先ほどより顔色が良くなったような気がする。
「リリ、良かった」
愛おしそうに抱きしめるフレデリック
すぐに護衛とメイドがタオルを持って来た。
護衛がリリアンを連れて行こうとするとそれを止めて
「私が連れて行く」
とフレデリックが言った。
「それでは殿下が体調を崩してしまいます! いけません」
護衛が言う。それでも諦めきれないようだがリリアンから離されたようだ。こいつは昔から体が弱い! 今は良くなったが心配なんだろう。
俺が来ていた上着はすぐそこで崩れ落ちているジャド嬢の肩にかけた。
「フレデリックお前の上着を貸りるぞ」
そう言ってリリアンに上着をかけて、リリアンを抱えた。
「行くぞ、水を含んでいるから思っているより……重い」
早足で王宮の医務室へ向かった。以前抱えた時は軽かったのだが、水が含むとこれまでに重くなるものか……そりゃ沈むよなぁ……
「キリアン頼む」
毛布にくるまり歩き出すフレデリック。自分で運びたいだろうが周りがそうはさせないだろう。出来れば俺が助けたかったのだがフレデリックの方が早かった。
リリアンの唇をあんな大勢の前で奪われるとは思わなかった。それに躊躇なく池へ飛び込む姿を見て、負けた。そう思った。
そのあと医師に見せるとリリアンは呼吸も安定して目が醒めるだけと言われた。
風邪をひかないように暖めるように言われて解散となった。
フレデリックはすぐに風呂へ直行しリリアンの元で目が醒めるのを待っているようだ。
******
……う、ん。
「リリ!」
うーーん、眩しい。眠たいしお腹減ったしなんだかだるい……
「リリ!」
だれ? 私のことを呼ぶのは……うっすら目を開けるとフレデリック殿下のアップ!
「リリ! 目が醒めたのか!」
と言って抱きしめられた。
「な、なんですかっ、一体!」
なんで手が震えているの?
「覚えてないの? リリが池に落ちて沈んでいった……良かった目が醒めて」
あーーそうだ。落ちたわ。だから体があちらこちら痛いのね。坂を転がってから池ぽちゃしたのね。途中で意識を手放したから……
「リリ……」
え! 泣いてるの? なんで?!
「殿下……体が痛むので少し離れて、」
ぶつけた腕とか少し痛むわ。
「ごめん。嬉しくて、つい」
身体を起こして貰った。
……ケドなんで私を後ろから抱き抱えているの!
「あの、ひとりで大丈夫だから、離れて、」
「ダメだよ。まだ体が冷えているんだ。こうして私の体温を分けているんだから大人しくしていて」
離れてほしいと言っても力では敵わない。そのあとすぐに医師が来て診察をされた。
「転がった時にぶつけたところが青くなっていますが、それ以外は大丈夫ですな。頭を打たなくて良かった。普通は熱でも出てもおかしくないが見た目によらず健康そのもの! これは将来が楽しみですな」
と言って帰っていった。
それからすぐ家族が来て、殿下に抱き抱えられているものだから驚いていた。
「殿下娘を助けてくださってありがとうございました。健康だけが取り柄なもので家に連れて帰って療養したいと思います」
お父様が申し訳なさそうに言った。
「リリー、殿下から離れなさい。殿下をクッションがわりにするとはいただけない行為だよ!」
兄様が呆れた様子で言った。お母様は頭を押さえているわ。今家に帰ったらもう外出禁止は間違いないわ。
「侯爵、医師が言うには外傷があるから安静だそうです。馬車に揺られて家に帰るよりここにいた方がリリの体に負担をかけません。まだ体が痛むと言っていますし、リリはどうしたい?」
家に帰るより王宮にいる方が小言は少ないはず。
「まだ動きたくないわ。お父様」
「……分かった。数日後に迎えを寄越す」
渋々帰って行く家族達。
「リリお腹は減ってない? 2日も寝込んでいたんだよ」
フレデリックのギュッと抱きしめる手に力がこもった。
「……2日も! そういえば喉が渇きました」
チリンチリンとベルを鳴らすとメイドが来て飲み物を用意してくれた。
そろそろ椅子に座りたい……
「殿下、飲み物はあちらのテーブルに……」
そもそも未婚の女性のベッドに腰掛けるなんて! なんで誰も注意しないのよ。
「うん。行こう」
「きゃぁぁっ」
抱き抱えられ、ソファに座った。
「飲みにくいです、離れて下さいっ! こぼしますよ」
「こぼしても良いよ。リリに触れていないと心配なんだ。池に沈んで陸に上がった時呼吸が……顔も白くて。リリが生きててくれて良かった」
「あ……助けてくださったのは殿下なのですね。ありがとうございました」
そういえば幼い時ボートから落ちた時も助けてくれたのは殿下だった。
「もう水の近くには立ち寄らないでおこう……心臓が何個あっても足りない」
「すみませんでした」
「いや、悪いのはいつもリリじゃない」
リリって昔の呼び方だわ。懐かしいわね。
「そういえばジャド嬢は……」
「あぁ、彼女からは聞き込みをした、とても反省していたよ。それと婚約者候補は辞退すると連絡があった」
「少し話しが違いますわ、私が勝手によろけて体制を崩して池に落ちたんです。本当ですよ。ジャド嬢は悪くありませんわ」
そんな話をしているとメイドが軽食を持って来てくれた。そして殿下は食べさせてくれた。面倒だからされるがままにしておいた。どうせ断ってもダメなんだろうと諦めた。
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