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第5章 告白
告白(1)
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いざ藤越に連絡しようと思ったら、連絡先を知らないことに気付く。今まであえて聞かないようにしていた。番号を知ってしまうと意識してしまうから。
あまり気乗りはしなかったが、とりあえず中島にあいつの番号を聞くことにした。
中島に聞いたら、「まさかまだ知らなかったのか?」と言われる始末だし。ラインとかなんとかうるさかったけど、俺はまだガラケーだったので番号だけ聞いた。
部屋であいつの番号を眺めながらため息をつく。ふと、携帯を投げつけたい衝動にかられた。番号を知ったからなんだというのだろう。
俺は本当にあいつに言う必要があるのか。次第に消極的な考えに支配されていく。一分と経たずに落ち着かなくなる自分がどうしようもなかった。
だから嫌だったのだ。女々しい自分に吐き気がする。
携帯を持つ手が震えた。電話をするだけでこれだから、本当に自分は直接言えるのかと思った。
俺は意を決して通話ボタンを押す。コール音2回ほどで「もしもし」と声が聞こえ、そのレスポンスの速さに危うく携帯を落としそうになった。
「あ、えーと」と言っただけなのに、「高橋っちどうしたの?」と聞いてくる。名乗ってもいないのに何で俺だとわかるのだろう。声だけで人を認識しているのか意味がわからない。
俺はもう強引に話を進めることにした。
「明日仕事だろ? 夜遅くならあいてるよな?」
「うん。八時以降なら多分」
「じゃあ、明日渋谷のハチ公前で9時に待ってるから」
「え?」
「必ず来いよ。一人で」
俺はそれだけ言って電話を切った。
いちいち説明する気になれなかった。それで来なかったらその時考えようと思った。とにかくこうでもしないと決心が鈍る。
それから次の日まで一日中落ち着かなかった。仕事中もため息をつくことが多くなり、同僚にも心配されるぐらいだった。仕事でミスをしそうにもなった。自分がどうしようもなく呆れる。
俺は仕事が終わってすぐにハチ公前に移動した。まだ約束の一時間前だったが、どこにいても落ち着かないなら、待ってる方がいくらかましだった。
着いてから十分も経たないうちに後ろから肩をたたかれた。
振り向いたらほっぺたを指で押された。くだらないことしやがって。いつも心臓に悪い。
「まだ時間じゃねえだろ」
と、かろうじて言葉を発すると、
「高橋っちだってきてるじゃん」
と言われた。
「たまたま早く着いたんだって」
待つのは慣れている。
そしたら、愛良ちゃんと一緒に帰った時も、浅木が死んだ直後も待っていたということを指摘された。そんなことは関係ない。
「で、どうすんの?」
そういう風に真顔で聞くのはやめてほしい。
「カラオケとか?」
「俺ボックスあんま好きじゃないんだよね」
個室というとそこしか思いつかなかっただけなのだが、否定されてしまった。前に一度行った気がするけども。
「どこでもいいよ。もう」
「じゃあ大将の店行く?」
「それは絶対やだ」
藤越はわざとやってるんじゃないだろうか。
「じゃあ、ついて来て」
何でお前が先導するんだと思いながら、俺は黙ってついて行く。
藤越が連れてきたのは以前入ったことがあるビジネスホテルだった。こういう演出は正直やめてほしいと思う。
「入らないの?」
「わざわざ泊まるのかよ」
明日も仕事だというのに。
「別に金払っちゃえばどっちでもいいんじゃないの?」
「じゃあ俺が出す」
「いいよ別に割り勘で」
藤越はそういう所がいちいち律儀で気に入らない。それぐらい甘えればいいのにと思う。そもそも最初の時出してくれたじゃないか。後で無理矢理返したけど。
あまり気乗りはしなかったが、とりあえず中島にあいつの番号を聞くことにした。
中島に聞いたら、「まさかまだ知らなかったのか?」と言われる始末だし。ラインとかなんとかうるさかったけど、俺はまだガラケーだったので番号だけ聞いた。
部屋であいつの番号を眺めながらため息をつく。ふと、携帯を投げつけたい衝動にかられた。番号を知ったからなんだというのだろう。
俺は本当にあいつに言う必要があるのか。次第に消極的な考えに支配されていく。一分と経たずに落ち着かなくなる自分がどうしようもなかった。
だから嫌だったのだ。女々しい自分に吐き気がする。
携帯を持つ手が震えた。電話をするだけでこれだから、本当に自分は直接言えるのかと思った。
俺は意を決して通話ボタンを押す。コール音2回ほどで「もしもし」と声が聞こえ、そのレスポンスの速さに危うく携帯を落としそうになった。
「あ、えーと」と言っただけなのに、「高橋っちどうしたの?」と聞いてくる。名乗ってもいないのに何で俺だとわかるのだろう。声だけで人を認識しているのか意味がわからない。
俺はもう強引に話を進めることにした。
「明日仕事だろ? 夜遅くならあいてるよな?」
「うん。八時以降なら多分」
「じゃあ、明日渋谷のハチ公前で9時に待ってるから」
「え?」
「必ず来いよ。一人で」
俺はそれだけ言って電話を切った。
いちいち説明する気になれなかった。それで来なかったらその時考えようと思った。とにかくこうでもしないと決心が鈍る。
それから次の日まで一日中落ち着かなかった。仕事中もため息をつくことが多くなり、同僚にも心配されるぐらいだった。仕事でミスをしそうにもなった。自分がどうしようもなく呆れる。
俺は仕事が終わってすぐにハチ公前に移動した。まだ約束の一時間前だったが、どこにいても落ち着かないなら、待ってる方がいくらかましだった。
着いてから十分も経たないうちに後ろから肩をたたかれた。
振り向いたらほっぺたを指で押された。くだらないことしやがって。いつも心臓に悪い。
「まだ時間じゃねえだろ」
と、かろうじて言葉を発すると、
「高橋っちだってきてるじゃん」
と言われた。
「たまたま早く着いたんだって」
待つのは慣れている。
そしたら、愛良ちゃんと一緒に帰った時も、浅木が死んだ直後も待っていたということを指摘された。そんなことは関係ない。
「で、どうすんの?」
そういう風に真顔で聞くのはやめてほしい。
「カラオケとか?」
「俺ボックスあんま好きじゃないんだよね」
個室というとそこしか思いつかなかっただけなのだが、否定されてしまった。前に一度行った気がするけども。
「どこでもいいよ。もう」
「じゃあ大将の店行く?」
「それは絶対やだ」
藤越はわざとやってるんじゃないだろうか。
「じゃあ、ついて来て」
何でお前が先導するんだと思いながら、俺は黙ってついて行く。
藤越が連れてきたのは以前入ったことがあるビジネスホテルだった。こういう演出は正直やめてほしいと思う。
「入らないの?」
「わざわざ泊まるのかよ」
明日も仕事だというのに。
「別に金払っちゃえばどっちでもいいんじゃないの?」
「じゃあ俺が出す」
「いいよ別に割り勘で」
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