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第2章 手掛かりを追って
カラオケと遊園地
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ぼたんさんの家は渋谷にあったから、あいつの家までは少し遠いけど歩いて行けた。すれ違ったら嫌だから、四時過ぎにはあいつの家の前にいた。
秋の初めの空は、まだだいぶ暗い。
アパートの前であいつが来るのをひらすら待っていた。途中何度もあくびが出る。少しずつ明るくなっていくも、気付いたらうとうとしていた。パッと目が覚めたら、目の前にあいつがいた。
「あれ、高橋っち?」
「あっ……とその」
目が合って少し気まずい空気が流れた。
「もしかしてずっと待ってた?」
いいわけするように、少し前からだと答える。
「ぼたんさんの店に行ってて」
「へ?」
言わなきゃばれないことをつい言ってしまい、それをごまかすために慌てて別の言葉を重ねた。
「お前のことが気になって。ああもう」
そんなこと口にするつもりはなかったのに、立て続けに出る自分の言葉に吐き気がする。自分があまりにも馬鹿で呆れた。
「ねえ、どっか行こう?」
「は?」
藤越は何故か俺を引っ張っていく。一体こいつが何をしたいのかわからない。
渋谷の方まで行くも、まだ明け方でほとんどの店は閉まってる。藤越は24時間営業のカラオケに入った。
「何でもいいから歌ってよ」
俺歌知らないんだけどなと思いながら、適当に昔聞いた長渕剛の有名なあの曲を入れる。藤越には「渋いね」と言われた。
「最近の歌知らねえんだよ」
とちょっとぶっきらぼうに言うと、藤越は「いいじゃん」と言う。
適当に歌って時間をつぶした。
藤越はあんまりカラオケが好きじゃないと言う。じゃあ何で来たんだと思った。
「今の時間開いてる店ないじゃん」
と言うけど、そもそも藤越が何がしたいのかわからなかった。
カラオケを出たら、藤越が遊園地に行こうと言い出す。都内の遊園地なんてとしまえんぐらいしか知らない。花屋敷は行ったことないし、よみうりランドは実家からは近いけど、ここからじゃ面倒くさい。
池袋から乗り換えて、遊園地と同じ名前の駅に着く。今日だけは藤越のやりたいようにやらせようと思った。
「昔家族で来た事あったな」とぼそっと言うと、藤越も「俺も」と答えた。俺は少し驚いた。共働きだと言っていたから。
「愛良が生まれる前、うんとちっちゃい時にね」
「愛良?」
「妹」
そういえば、ぼたんさんが何か言ってた。
「愛良って妹の名前?」
「そうだよ」
何度も聞くなと言われたが、俺はただ確認したかっただけだ。
「ぼたんさんが源氏名にするぐらいだから、何かあんのかって」
「ああ。妹を一人にした罪悪感かな」
そういえば家に来た時に言っていた。家を出た理由のことを。何だ。妹だったのかと思う。ぼたんさんよりも前に好きな奴でもいたのかと思った。
藤越にあちこち振り回されて、俺はふらふらになってしまった。絶叫系ばかりわざわざ乗るせいもあるかもしれない。
「ちょっとマジでたんま」
「体力ないね」
「ほとんど寝てないんだって」
と言うと、ぼたんさんのところにずっといたのかと聞かれた。昨日藤越に会ってからそのまま店に行った話をすると、「どうしてぼたんさん?」と聞かれたので、口ごもる。
藤越のことを愚痴ってたなんて言えるわけない。俺は「なんとなく」と言ってごまかす。
俺はその話を無理矢理終わらせた。
「浅木とも遊園地来たのか?」
「来るわけないじゃん」
「え?」
「そもそも普通男となんて行かないでしょ」
「じゃあ何で俺」と口にしようとしたが、やめた。
「気はすんだのか?」
「さあ」
さあって何だよと思った。
「あの時もいたよね」
と藤越が急に言い出す。
「あの時?」
「ぼたんさんに振られた時」
俺は何も言えなくなる。
「何でそういう時に現れるの?」
俺は、今日のことをごまかすために、「たまたまだろ」と言った。今日はともかく、あの時は本当にたまたま。ただの偶然だ。
「そうだね。そういうことにしとく」
藤越はそれ以上何も言わなかったし、俺も何も言えなかった。
結局、浅木のことを吹っ切れたのかよくわからなかった。本当は時間が解決するしかないのかもしれない。それでも、この時間を共有できたことが、ただ俺の中に残った。
「そういえば学校は?」
藤越が俺が学校行っていると言ったのを覚えているのが意外だったが、
「一日ぐらいさぼってもさ。母ちゃんには怒られるだろうけど」
と答える。
そしたら藤越は「母ちゃんいいね」と言う。この前家に連れて来た時から何かうちの母親を神聖視している気がする。そんないいもんじゃないと思うけど。
「親父の呼び方が移っただけだって」
「高橋っちの家族って面白いね」
それはこの前うちに来た時に会ったからなのか。
「別に普通だよ。普通」
そう答えながらも、普通じゃない家庭もあるのだということまで頭が回らなかった。藤越が何でそんな話をしたのかわからなかった。
秋の初めの空は、まだだいぶ暗い。
アパートの前であいつが来るのをひらすら待っていた。途中何度もあくびが出る。少しずつ明るくなっていくも、気付いたらうとうとしていた。パッと目が覚めたら、目の前にあいつがいた。
「あれ、高橋っち?」
「あっ……とその」
目が合って少し気まずい空気が流れた。
「もしかしてずっと待ってた?」
いいわけするように、少し前からだと答える。
「ぼたんさんの店に行ってて」
「へ?」
言わなきゃばれないことをつい言ってしまい、それをごまかすために慌てて別の言葉を重ねた。
「お前のことが気になって。ああもう」
そんなこと口にするつもりはなかったのに、立て続けに出る自分の言葉に吐き気がする。自分があまりにも馬鹿で呆れた。
「ねえ、どっか行こう?」
「は?」
藤越は何故か俺を引っ張っていく。一体こいつが何をしたいのかわからない。
渋谷の方まで行くも、まだ明け方でほとんどの店は閉まってる。藤越は24時間営業のカラオケに入った。
「何でもいいから歌ってよ」
俺歌知らないんだけどなと思いながら、適当に昔聞いた長渕剛の有名なあの曲を入れる。藤越には「渋いね」と言われた。
「最近の歌知らねえんだよ」
とちょっとぶっきらぼうに言うと、藤越は「いいじゃん」と言う。
適当に歌って時間をつぶした。
藤越はあんまりカラオケが好きじゃないと言う。じゃあ何で来たんだと思った。
「今の時間開いてる店ないじゃん」
と言うけど、そもそも藤越が何がしたいのかわからなかった。
カラオケを出たら、藤越が遊園地に行こうと言い出す。都内の遊園地なんてとしまえんぐらいしか知らない。花屋敷は行ったことないし、よみうりランドは実家からは近いけど、ここからじゃ面倒くさい。
池袋から乗り換えて、遊園地と同じ名前の駅に着く。今日だけは藤越のやりたいようにやらせようと思った。
「昔家族で来た事あったな」とぼそっと言うと、藤越も「俺も」と答えた。俺は少し驚いた。共働きだと言っていたから。
「愛良が生まれる前、うんとちっちゃい時にね」
「愛良?」
「妹」
そういえば、ぼたんさんが何か言ってた。
「愛良って妹の名前?」
「そうだよ」
何度も聞くなと言われたが、俺はただ確認したかっただけだ。
「ぼたんさんが源氏名にするぐらいだから、何かあんのかって」
「ああ。妹を一人にした罪悪感かな」
そういえば家に来た時に言っていた。家を出た理由のことを。何だ。妹だったのかと思う。ぼたんさんよりも前に好きな奴でもいたのかと思った。
藤越にあちこち振り回されて、俺はふらふらになってしまった。絶叫系ばかりわざわざ乗るせいもあるかもしれない。
「ちょっとマジでたんま」
「体力ないね」
「ほとんど寝てないんだって」
と言うと、ぼたんさんのところにずっといたのかと聞かれた。昨日藤越に会ってからそのまま店に行った話をすると、「どうしてぼたんさん?」と聞かれたので、口ごもる。
藤越のことを愚痴ってたなんて言えるわけない。俺は「なんとなく」と言ってごまかす。
俺はその話を無理矢理終わらせた。
「浅木とも遊園地来たのか?」
「来るわけないじゃん」
「え?」
「そもそも普通男となんて行かないでしょ」
「じゃあ何で俺」と口にしようとしたが、やめた。
「気はすんだのか?」
「さあ」
さあって何だよと思った。
「あの時もいたよね」
と藤越が急に言い出す。
「あの時?」
「ぼたんさんに振られた時」
俺は何も言えなくなる。
「何でそういう時に現れるの?」
俺は、今日のことをごまかすために、「たまたまだろ」と言った。今日はともかく、あの時は本当にたまたま。ただの偶然だ。
「そうだね。そういうことにしとく」
藤越はそれ以上何も言わなかったし、俺も何も言えなかった。
結局、浅木のことを吹っ切れたのかよくわからなかった。本当は時間が解決するしかないのかもしれない。それでも、この時間を共有できたことが、ただ俺の中に残った。
「そういえば学校は?」
藤越が俺が学校行っていると言ったのを覚えているのが意外だったが、
「一日ぐらいさぼってもさ。母ちゃんには怒られるだろうけど」
と答える。
そしたら藤越は「母ちゃんいいね」と言う。この前家に連れて来た時から何かうちの母親を神聖視している気がする。そんないいもんじゃないと思うけど。
「親父の呼び方が移っただけだって」
「高橋っちの家族って面白いね」
それはこの前うちに来た時に会ったからなのか。
「別に普通だよ。普通」
そう答えながらも、普通じゃない家庭もあるのだということまで頭が回らなかった。藤越が何でそんな話をしたのかわからなかった。
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