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第8章 子育てと寄り道
寄り道(2)
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つぐみさんが連れて来たのは、おしゃれなイタリアンレストランだった。一人だったら絶対に入らないところ。藤越の子供が生まれる前にファミレスぐらいは何回か行ったが、普段からこんな店に入ることはない。
コース料理を注文した後、早速つぐみさんは、「好きな人ってどんな人?」と聞いてくる。めんどくさい。答えたくなかった。
「何でも一人で決めていってかっこいいんだけど、たまに見てられないぐらい寂しそうなときがあって」
って何を俺は正直に答えてるんだと思った。
「ふーん。要は片思いなんでしょ?」
「結婚してるんだ」
実際は二人は法律上結婚できないのだが、うまくごまかして養子制度などを使って家族として生活している。子供の出生届も片親にしかできないのが歯がゆいみたいだが、三親等以内の結婚は認められていないために仕方がないのだった。そんなことは絶対に口に出したりしないが。
「何それ。それでも諦められないの?」
諦められないとかじゃない。あいつが側にいてくれと言ったのだ。いや、違う。俺が側にいたいだけだ。
「最初から成就する気なんてなかったんだよ。でも、やめられない」
やめられるものならとっくにやめている。
「私が忘れさせてあげるんじゃ駄目?」
これは遠回しに告白されているんだろうか。俺は何かつぐみさんに好かれるようなことをしただろうか。
「何で俺?」
「最初はなんとなくかっこいいと思って。でも、そういう一途なとこいいなって」
別に一途なわけじゃない。他に誰もいなかっただけだ。つぐみさんは何もわかっていない。
「悪いけど、期待には応えられないよ」
「他の人思ってたっていいから」
どうしてそこまで食い下がるのだろう。正直めんどくさくなってきた。
「とりあえず、食べようぜ」
と言って運ばれてきた前菜に集中した。生ハムやカモ肉、野菜などが彩りよくきれいに並べられている。おしゃれな店はやっぱり違うと思った。
メイン料理を終え、デザートを待っている時につぐみさんから質問された。
「今まで付き合った人っている?」
俺は適当に数人と答えた。やっただけの女も含めたらそれぐらいだろう。続けてどんな人とも聞かれたが、ほとんど覚えていなかった。
「ほとんどすぐ別れたし、別に好きじゃなかったから覚えてない」
「何それ」
不信な目で見られたため、このまま嫌われてしまおうかと俺は余計なことまで口にした。
「やり目的だったし」
「最低」
藤越と同じことを言われてちょっとへこんだ。最低だと嫌われても良かったのだが、ついいいわけがましく言ってしまった。
「十代の男子なんてそんなもんだろ。わかってない女子だって悪いと思うけどな」
と言うと、「確かに」と同意された。
「付き合うってことがどういうことかわかってない子供だったのかもね」
「まあ、ラッキーと思って付き合った俺も俺だけどさ」
俺は頭をかいた。癖になってしまってる。
「私たちは大人の付き合いをしましょうよ」
とつぐみさんは言う。
「このあとホテル取ってあるの」
俺は嫌な予感がした。
「へ?」
「っていってもビジネスホテルだけど。ねえ、こう言えばわかるでしょ?」
わかりたくない。
「まじで無理だから」
「別にいいから。やるだけでも。その後好きになってもらう予定」
どうしてそんなに前向きでいられるんだろう。俺にはわからない。
「それでも好きになれなかったら?」
「きっぱり諦めるわ。お願い恥をかかせないで」
俺は別につぐみさんを放って帰ることもできた。でも、少し魔が差した。それは、数年前の藤越とのことがあったから。
ただ、あの時あいつとやった記憶を塗り替えたかった。新しい記憶に。
「わかった」
俺は誘いに乗ってしまったのだった。
コース料理を注文した後、早速つぐみさんは、「好きな人ってどんな人?」と聞いてくる。めんどくさい。答えたくなかった。
「何でも一人で決めていってかっこいいんだけど、たまに見てられないぐらい寂しそうなときがあって」
って何を俺は正直に答えてるんだと思った。
「ふーん。要は片思いなんでしょ?」
「結婚してるんだ」
実際は二人は法律上結婚できないのだが、うまくごまかして養子制度などを使って家族として生活している。子供の出生届も片親にしかできないのが歯がゆいみたいだが、三親等以内の結婚は認められていないために仕方がないのだった。そんなことは絶対に口に出したりしないが。
「何それ。それでも諦められないの?」
諦められないとかじゃない。あいつが側にいてくれと言ったのだ。いや、違う。俺が側にいたいだけだ。
「最初から成就する気なんてなかったんだよ。でも、やめられない」
やめられるものならとっくにやめている。
「私が忘れさせてあげるんじゃ駄目?」
これは遠回しに告白されているんだろうか。俺は何かつぐみさんに好かれるようなことをしただろうか。
「何で俺?」
「最初はなんとなくかっこいいと思って。でも、そういう一途なとこいいなって」
別に一途なわけじゃない。他に誰もいなかっただけだ。つぐみさんは何もわかっていない。
「悪いけど、期待には応えられないよ」
「他の人思ってたっていいから」
どうしてそこまで食い下がるのだろう。正直めんどくさくなってきた。
「とりあえず、食べようぜ」
と言って運ばれてきた前菜に集中した。生ハムやカモ肉、野菜などが彩りよくきれいに並べられている。おしゃれな店はやっぱり違うと思った。
メイン料理を終え、デザートを待っている時につぐみさんから質問された。
「今まで付き合った人っている?」
俺は適当に数人と答えた。やっただけの女も含めたらそれぐらいだろう。続けてどんな人とも聞かれたが、ほとんど覚えていなかった。
「ほとんどすぐ別れたし、別に好きじゃなかったから覚えてない」
「何それ」
不信な目で見られたため、このまま嫌われてしまおうかと俺は余計なことまで口にした。
「やり目的だったし」
「最低」
藤越と同じことを言われてちょっとへこんだ。最低だと嫌われても良かったのだが、ついいいわけがましく言ってしまった。
「十代の男子なんてそんなもんだろ。わかってない女子だって悪いと思うけどな」
と言うと、「確かに」と同意された。
「付き合うってことがどういうことかわかってない子供だったのかもね」
「まあ、ラッキーと思って付き合った俺も俺だけどさ」
俺は頭をかいた。癖になってしまってる。
「私たちは大人の付き合いをしましょうよ」
とつぐみさんは言う。
「このあとホテル取ってあるの」
俺は嫌な予感がした。
「へ?」
「っていってもビジネスホテルだけど。ねえ、こう言えばわかるでしょ?」
わかりたくない。
「まじで無理だから」
「別にいいから。やるだけでも。その後好きになってもらう予定」
どうしてそんなに前向きでいられるんだろう。俺にはわからない。
「それでも好きになれなかったら?」
「きっぱり諦めるわ。お願い恥をかかせないで」
俺は別につぐみさんを放って帰ることもできた。でも、少し魔が差した。それは、数年前の藤越とのことがあったから。
ただ、あの時あいつとやった記憶を塗り替えたかった。新しい記憶に。
「わかった」
俺は誘いに乗ってしまったのだった。
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