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第7章 リスタート
新しい暮らし
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藤越から、俺と連絡がつかないから中島や井口に連絡してみたという話を聞いた。
それで、しばらく井口と会っていないことを思い出した。
「そういえば最近井口見てないな」
と言ったら、「正確には良和の義理のお姉さんが結婚した時から来てないよ」と藤越が答える。その時から既に十年以上経っているようだった。
「忠敏ってほんと俺のこと以外に興味ないよね」
と言われたので、ほっとけと思った。本人にそういう言われ方はしたくない。
藤越にその義理のお姉さんの話を聞いた。良和の家庭の状況なんて元々知るはずもなかったのだが。たいして仲がいいわけでもないし。
「照美ちゃん。っていっても面識ないけど。良和の両親が離婚して、お父さんが再婚したみたいだよ。その相手の連れ子」
その照美さんとはいずれ会うことになるが、この時点ではふーんとしか思えなかった。どの家の家庭も複雑だとは考えたくない。そういう意味では俺自身は恵まれていると思うけれど。
「それと井口に何の関係が?」
「照美ちゃんと付き合っていたらしいよ。だから別の人と結婚して落ち込んだんじゃないの」
そんな話は知らなかった。といっても男友達と恋愛の話をすることがないので、そりゃそうかとも思う。
それで井口に連絡してみたら、携帯の電源が入っていないとかで通じなかった。その後家にも訪ねてみたが、引きこもっているという話を母親から聞いた。その詳しい話は数年後に本人から直接聞くことになるが、元彼女が結婚したぐらいで十年以上も引きこもってるなんて俺には信じがたい話だった。
とにかく俺たちは新しく住む場所を探すため、不動産屋を回った。結局、二世帯は数が少なくてアパートの隣同士を借りることになった。
壁を隔ててあいつがいるということは余計な感情を呼び起こされる。やってる音も丸聞こえじゃねえかと思う。俺はなるべく隣の音に耳をかさないように心がけた。
食事だけは愛良ちゃんが作ってくれるというので隣の家で食べることが習慣になった。隣の家に藤越のお母さんが訪ねてくることもあった。俺がいるとややこしくなるので、その時は顔を出さないようにしていた。だから俺はあいつの母親とは会わなかった。
仕事は別の会社でまた同じような仕事をすることになった。隣にあいつが住んでいること以外あまり変わらない日々だった。
それが変化したのは愛良ちゃんに子供ができたと聞いてからだった。
その前にあいつはこんなことを言っていた。
「愛良が子供欲しいんだって」
「お前は?」
「俺は愛良が望むのならその通りにするし、子供だって責任持って育てるつもりだよ」
藤越の反応は予想通りだった。
「でも血が繋がってるのに平気なのか?」
「それは二人で何度も相談したよ。愛良はお母さんにも相談してたみたいだけど。たとえ血が濃くなることで子供に不具合が出たとしても責任持ってみるって二人で決めた」
「なら俺が言うことは何もないよ」
「うん。ただ引っ越すことになるかもって伝えにきただけだよ」
「引っ越す?」
「まだ先の話だけどね。子供産まれたらさすがにここじゃ狭いから」
俺はふーんとか適当に返事をした。
愛良ちゃんのお腹が段々大きくなるのを目の当たりにした。妊婦を見るのは初めてだったので、不思議な感覚がした。子供を産むという行為が純粋にすごいと思った。俺にはできそうにない。男で良かったと思った。
それで、しばらく井口と会っていないことを思い出した。
「そういえば最近井口見てないな」
と言ったら、「正確には良和の義理のお姉さんが結婚した時から来てないよ」と藤越が答える。その時から既に十年以上経っているようだった。
「忠敏ってほんと俺のこと以外に興味ないよね」
と言われたので、ほっとけと思った。本人にそういう言われ方はしたくない。
藤越にその義理のお姉さんの話を聞いた。良和の家庭の状況なんて元々知るはずもなかったのだが。たいして仲がいいわけでもないし。
「照美ちゃん。っていっても面識ないけど。良和の両親が離婚して、お父さんが再婚したみたいだよ。その相手の連れ子」
その照美さんとはいずれ会うことになるが、この時点ではふーんとしか思えなかった。どの家の家庭も複雑だとは考えたくない。そういう意味では俺自身は恵まれていると思うけれど。
「それと井口に何の関係が?」
「照美ちゃんと付き合っていたらしいよ。だから別の人と結婚して落ち込んだんじゃないの」
そんな話は知らなかった。といっても男友達と恋愛の話をすることがないので、そりゃそうかとも思う。
それで井口に連絡してみたら、携帯の電源が入っていないとかで通じなかった。その後家にも訪ねてみたが、引きこもっているという話を母親から聞いた。その詳しい話は数年後に本人から直接聞くことになるが、元彼女が結婚したぐらいで十年以上も引きこもってるなんて俺には信じがたい話だった。
とにかく俺たちは新しく住む場所を探すため、不動産屋を回った。結局、二世帯は数が少なくてアパートの隣同士を借りることになった。
壁を隔ててあいつがいるということは余計な感情を呼び起こされる。やってる音も丸聞こえじゃねえかと思う。俺はなるべく隣の音に耳をかさないように心がけた。
食事だけは愛良ちゃんが作ってくれるというので隣の家で食べることが習慣になった。隣の家に藤越のお母さんが訪ねてくることもあった。俺がいるとややこしくなるので、その時は顔を出さないようにしていた。だから俺はあいつの母親とは会わなかった。
仕事は別の会社でまた同じような仕事をすることになった。隣にあいつが住んでいること以外あまり変わらない日々だった。
それが変化したのは愛良ちゃんに子供ができたと聞いてからだった。
その前にあいつはこんなことを言っていた。
「愛良が子供欲しいんだって」
「お前は?」
「俺は愛良が望むのならその通りにするし、子供だって責任持って育てるつもりだよ」
藤越の反応は予想通りだった。
「でも血が繋がってるのに平気なのか?」
「それは二人で何度も相談したよ。愛良はお母さんにも相談してたみたいだけど。たとえ血が濃くなることで子供に不具合が出たとしても責任持ってみるって二人で決めた」
「なら俺が言うことは何もないよ」
「うん。ただ引っ越すことになるかもって伝えにきただけだよ」
「引っ越す?」
「まだ先の話だけどね。子供産まれたらさすがにここじゃ狭いから」
俺はふーんとか適当に返事をした。
愛良ちゃんのお腹が段々大きくなるのを目の当たりにした。妊婦を見るのは初めてだったので、不思議な感覚がした。子供を産むという行為が純粋にすごいと思った。俺にはできそうにない。男で良かったと思った。
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