俺の人生を捧ぐ人

宮部ネコ

文字の大きさ
上 下
35 / 58
第7章 リスタート

新しい暮らし

しおりを挟む
 藤越から、俺と連絡がつかないから中島や井口に連絡してみたという話を聞いた。
 それで、しばらく井口と会っていないことを思い出した。
「そういえば最近井口見てないな」
 と言ったら、「正確には良和の義理のお姉さんが結婚した時から来てないよ」と藤越が答える。その時から既に十年以上経っているようだった。
「忠敏ってほんと俺のこと以外に興味ないよね」
 と言われたので、ほっとけと思った。本人にそういう言われ方はしたくない。
 藤越にその義理のお姉さんの話を聞いた。良和の家庭の状況なんて元々知るはずもなかったのだが。たいして仲がいいわけでもないし。
「照美ちゃん。っていっても面識ないけど。良和の両親が離婚して、お父さんが再婚したみたいだよ。その相手の連れ子」
 その照美さんとはいずれ会うことになるが、この時点ではふーんとしか思えなかった。どの家の家庭も複雑だとは考えたくない。そういう意味では俺自身は恵まれていると思うけれど。
「それと井口に何の関係が?」
「照美ちゃんと付き合っていたらしいよ。だから別の人と結婚して落ち込んだんじゃないの」
 そんな話は知らなかった。といっても男友達と恋愛の話をすることがないので、そりゃそうかとも思う。
 それで井口に連絡してみたら、携帯の電源が入っていないとかで通じなかった。その後家にも訪ねてみたが、引きこもっているという話を母親から聞いた。その詳しい話は数年後に本人から直接聞くことになるが、元彼女が結婚したぐらいで十年以上も引きこもってるなんて俺には信じがたい話だった。

 とにかく俺たちは新しく住む場所を探すため、不動産屋を回った。結局、二世帯は数が少なくてアパートの隣同士を借りることになった。
 壁を隔ててあいつがいるということは余計な感情を呼び起こされる。やってる音も丸聞こえじゃねえかと思う。俺はなるべく隣の音に耳をかさないように心がけた。
 食事だけは愛良ちゃんが作ってくれるというので隣の家で食べることが習慣になった。隣の家に藤越のお母さんが訪ねてくることもあった。俺がいるとややこしくなるので、その時は顔を出さないようにしていた。だから俺はあいつの母親とは会わなかった。
 仕事は別の会社でまた同じような仕事をすることになった。隣にあいつが住んでいること以外あまり変わらない日々だった。
 それが変化したのは愛良ちゃんに子供ができたと聞いてからだった。
 その前にあいつはこんなことを言っていた。
「愛良が子供欲しいんだって」
「お前は?」
「俺は愛良が望むのならその通りにするし、子供だって責任持って育てるつもりだよ」
 藤越の反応は予想通りだった。
「でも血が繋がってるのに平気なのか?」
「それは二人で何度も相談したよ。愛良はお母さんにも相談してたみたいだけど。たとえ血が濃くなることで子供に不具合が出たとしても責任持ってみるって二人で決めた」
「なら俺が言うことは何もないよ」
「うん。ただ引っ越すことになるかもって伝えにきただけだよ」
「引っ越す?」
「まだ先の話だけどね。子供産まれたらさすがにここじゃ狭いから」
 俺はふーんとか適当に返事をした。
 愛良ちゃんのお腹が段々大きくなるのを目の当たりにした。妊婦を見るのは初めてだったので、不思議な感覚がした。子供を産むという行為が純粋にすごいと思った。俺にはできそうにない。男で良かったと思った。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!

灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。 何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。 仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。 思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。 みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。 ※完結しました!ありがとうございました!

片想いの始まり

ritkun
BL
高校入学後、部活選びで出会った先輩との片想いライフの始まり。

【R18+BL】sweet poison ~愛という毒に身を侵されて……~

hosimure
BL
「オレは…死にたくなかったんだよ。羽月」 主人公の茜(あかね)陽一(よういち)は、かつて恋人の智弥(ともや)羽月(はづき)に無理心中を強制させられた過去を持っていた。 恋人を失った五年間を過ごしていたが、ある日、働いている会社に一つの取り引きが持ちかけられる。 仕事をする為に、陽一は単身で相手の会社へ向かった。 するとそこにいたのは、五年前に亡くなったと聞かされた、最愛で最悪の恋人・羽月だった。

漢方薬局「泡影堂」調剤録

珈琲屋
BL
母子家庭苦労人真面目長男(17)× 生活力0放浪癖漢方医(32)の体格差&年の差恋愛(予定)。じりじり片恋。 キヨフミには最近悩みがあった。3歳児と5歳児を抱えての家事と諸々、加えて勉強。父はとうになく、母はいっさい頼りにならず、妹は受験真っ最中だ。この先俺が生き残るには…そうだ、「泡影堂」にいこう。 高校生×漢方医の先生の話をメインに、二人に関わる人々の話を閑話で書いていく予定です。 メイン2章、閑話1章の順で進めていきます。恋愛は非常にゆっくりです。

その日君は笑った

mahiro
BL
大学で知り合った友人たちが恋人のことで泣く姿を嫌でも見ていた。 それを見ながらそんな風に感情を露に出来る程人を好きなるなんて良いなと思っていたが、まさか平凡な俺が彼らと同じようになるなんて。 最初に書いた作品「泣くなといい聞かせて」の登場人物が出てきます。 ※完結いたしました。 閲覧、ブックマークを本当にありがとうございました。 拙い文章でもお付き合いいただけたこと、誠に感謝申し上げます。 今後ともよろしくお願い致します。

恋した貴方はαなロミオ

須藤慎弥
BL
Ω性の凛太が恋したのは、ロミオに扮したα性の結城先輩でした。 Ω性に引け目を感じている凛太。 凛太を運命の番だと信じているα性の結城。 すれ違う二人を引き寄せたヒート。 ほんわか現代BLオメガバース♡ ※二人それぞれの視点が交互に展開します ※R 18要素はほとんどありませんが、表現と受け取り方に個人差があるものと判断しレーティングマークを付けさせていただきますm(*_ _)m ※fujossy様にて行われました「コスプレ」をテーマにした短編コンテスト出品作です

【完結】極貧イケメン学生は体を売らない。【番外編あります】

紫紺
BL
貧乏学生をスパダリが救済!?代償は『恋人のフリ』だった。 相模原涼(さがみはらりょう)は法学部の大学2年生。 超がつく貧乏学生なのに、突然居酒屋のバイトをクビになってしまった。 失意に沈む涼の前に現れたのは、ブランドスーツに身を包んだイケメン、大手法律事務所の副所長 城南晄矢(じょうなんみつや)。 彼は涼にバイトしないかと誘うのだが……。 ※番外編を公開しました(10/21) 生活に追われて恋とは無縁の極貧イケメンの涼と、何もかもに恵まれた晄矢のラブコメBL。二人の気持ちはどっちに向いていくのか。 ※本作品中の公判、判例、事件等は全て架空のものです。完全なフィクションであり、参考にした事件等もございません。拙い表現や現実との乖離はどうぞご容赦ください。 ※4月18日、完結しました。ありがとうございました。

同僚に密室に連れ込まれてイケナイ状況です

暗黒神ゼブラ
BL
今日僕は同僚にごはんに誘われました

処理中です...