俺の人生を捧ぐ人

宮部ネコ

文字の大きさ
上 下
21 / 58
第3章 会っても会わなくても

中島(2)

しおりを挟む
 家まで結構歩くのは、普段は自転車だからだという。中島は渋谷で仕事をしているようだ。俺の会社は表参道で、今日は渋谷で飲んでいた。
「あんまきれいじゃないけど」
 と通された部屋は、片付けられていて、俺の部屋よりきれいだった。
 適当に座るように言われたので、くつろいでいたら、中島の携帯が鳴って、誰かと話し出した。藤越ではないようだ。
 電話が終わったら、「片岡。友達」と一言で説明された。
「藤越となんか話してた?」
「ああ。そう」
 さっきの飲み会で俺の知らない奴の話をしていた。その名前が片岡だった。
「あいついちいち心配性なんだよ」
 と言う。片岡という奴は元々高校の同級生で、中島がやばかった時に藤越を頼ったらしい。藤越とはそこからの縁だとか。片岡はそれから中島を心配して毎日連絡してきたり、顔を出したりするとか。
「忙しいのによくやるよな」と言うが、俺は何も言えることがなかった。

 俺が大学を出てない理由を聞かれた。中島自身もそうなので、人のこと言えないけどと言う。
 高校を中退して資格を取るために工業高校に編入した話をすると、どこの高校か聞かれた。
「閉失」
「同じかよ」
 中島の話では、閉失を高校三年の時に中退したらしい。
「でも、お前の方が頭いいよ。俺もさっさとやめておけばよかった」
 と、中島は言う。高校一年でやめていれば、変なことに関わることも、片岡や藤越に迷惑をかけることもなかったと言うが、俺にはよくわからない。
「中三の時の塾の講師に乗せられてまぐれで受かっただけだから、もともと実力不足だったんだって。俺だって最初から別のとこ行けば良かったんだよ」
 と言っといた。
 中島はそれでも、普通の高校出て大学行くこともできたんじゃないかと言ってきたため、俺はさっさと働きたかったことを告げる。その理由は明白だったけれど、こいつに言ったらまたからかわれるんじゃないかと思う。
「透馬さんだって中卒だけど」
「知ってる。中学も一緒だったし」
「へえ」
 中島は急ににやにやしだしたので嫌な予感がした。
「しかしな。あの人のどこにそんな要素が」
「その話しつこい」
 もうこれ以上聞いてくるなと思った。
「まあ顔はちょっと童顔っていうか、かわいい感じがするけど」
「そんなことはどうでもいい」
 外見なんかであいつのことがどうかなんて考えたことない。やめてほしい。
「何だよ。きれんなよ」
 別にきれてなんかいない。
「俺が言ってるのはさ、透馬さんって有無を言わさない時あるじゃん」
「それはお前がわざと怒らしてるんじゃないのか」
 さっきの飲み会でも藤越に変なこと言って突っ込んでた気がする。まあ、あいつは怒ってなんかいなかったけど。
「まあそれもあるけど、そうじゃなくてさ。なんか本気で相手を殺しそうな怖い時」
 そんなようなことを他の奴からも聞いたことがあった。でも、俺は藤越を怖いと思ったことはない。ぼたんさんに振られて俺がぼこぼこにされた時も、あいつはどこか本意じゃないように見えた。かなり手加減されてたと思う。それになんとなくあいつはふと寂しそうな表情をするのだ。
 もしかしたらあいつ自身は無自覚なのかもしれない。浅木が死んだ時のような、目が死んだように無表情になる時がある。
「あいつは絶対そんなことはしない。いや、できない」
「へ?」
「お前にはわかんねえよ」
「何だよそれ」
 だから答えたくなかったのだ。どうせ言っても誰にもわからない。どうしてあいつのことがこんなに気になるのか。なんとなく俺は気付き始めていた。
「なんかやっぱおかしいし」
「うるせえよ」
 わかってるんだよ。こいつに言われなくたってそんなことは。
「お前がホモだとかそんなことを言ってるんじゃなくて」
 ホモとかなんとか言われるのは嫌だが、もうそれも仕方ない気がしていた。
「思いつめすぎじゃねえか」
「そうかな」
 俺は頭をかく。
「重いっていうか」
 重いと言われて、俺は藤越がぼたんさんに言われていたのを思い出す。そんなはずはなない。あいつみたいに人を好きになれるなら、こんなに悩む必要はなかった。
 ふと、あいつのセリフを思い出す。
「ぼたんさんに言わせると男は成長が遅いんだって。だから高橋だってこれからあるんじゃない?」
 そんなものやっぱりわからねえよと思う。
「もういいだろ。この話はやめようぜ」
「わかったよ」
 それ以上中島は触れなかったし、後はくだらない話をしながら過ごした。

 朝帰りをしたら母ちゃんに「彼女でもできたんじゃないかい」と言われたけど。
「飲み会だよ。飲み会」
 と俺はごまかした。もちろん嘘は言ってないが、今度から終電を逃さずに帰ろうと思った。

 そのことがあって、中島が頻繁にメールを送ってくるようになる。
 たいがいはくだらない内容なので、たまにしか返さなかったが、飲み会に何度も誘ってくるので、困った。
 正直藤越にはあまり会いたくなかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

男色医師

虎 正規
BL
ゲイの医者、黒河の毒牙から逃れられるか?

侯爵令息セドリックの憂鬱な日

めちゅう
BL
 第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける——— ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。

とある隠密の受難

nionea
BL
 普通に仕事してたら突然訳の解らない魔法で王子の前に引きずり出された隠密が、必死に自分の貞操を守ろうとするお話。  銀髪碧眼の美丈夫な絶倫王子 と 彼を観察するのが仕事の中肉中背平凡顔の隠密  果たして隠密は無事貞操を守れるのか。  頑張れ隠密。  負けるな隠密。  読者さんは解らないが作者はお前を応援しているぞ。たぶん。    ※プロローグだけ隠密一人称ですが、本文は三人称です。

愛などもう求めない

白兪
BL
とある国の皇子、ヴェリテは長い長い夢を見た。夢ではヴェリテは偽物の皇子だと罪にかけられてしまう。情を交わした婚約者は真の皇子であるファクティスの側につき、兄は睨みつけてくる。そして、とうとう父親である皇帝は処刑を命じた。 「僕のことを1度でも愛してくれたことはありましたか?」 「お前のことを一度も息子だと思ったことはない。」 目が覚め、現実に戻ったヴェリテは安心するが、本当にただの夢だったのだろうか?もし予知夢だとしたら、今すぐここから逃げなくては。 本当に自分を愛してくれる人と生きたい。 ヴェリテの切実な願いが周りを変えていく。  ハッピーエンド大好きなので、絶対に主人公は幸せに終わらせたいです。 最後まで読んでいただけると嬉しいです。

王命で第二王子と婚姻だそうです(王子目線追加)

かのこkanoko
BL
第二王子と婚姻せよ。 はい? 自分、末端貴族の冴えない魔法使いですが? しかも、男なんですが? BL初挑戦! ヌルイです。 王子目線追加しました。 沢山の方に読んでいただき、感謝します!! 6月3日、BL部門日間1位になりました。 ありがとうございます!!!

【完結】はじめてできた友だちは、好きな人でした

月音真琴
BL
完結しました。ピュアな高校の同級生同士。友達以上恋人未満な関係。 人付き合いが苦手な仲谷皇祐(なかたにこうすけ)は、誰かといるよりも一人でいる方が楽だった。 高校に入学後もそれは同じだったが、購買部の限定パンを巡ってクラスメートの一人小此木敦貴(おこのぎあつき)に懐かれてしまう。 一人でいたいのに、強引に誘われて敦貴と共に過ごすようになっていく。 はじめての友だちと過ごす日々は楽しいもので、だけどつまらない自分が敦貴を独占していることに申し訳なくて。それでも敦貴は友だちとして一緒にいてくれることを選んでくれた。 次第に皇祐は嬉しい気持ちとは別に違う感情が生まれていき…。 ――僕は、敦貴が好きなんだ。 自分の気持ちに気づいた皇祐が選んだ道とは。 エブリスタ様にも掲載しています(完結済) エブリスタ様にてトレンドランキング BLジャンル・日間90位 ◆「第12回BL小説大賞」に参加しています。 応援していただけたら嬉しいです。よろしくお願いします。 ピュアな二人が大人になってからのお話も連載はじめました。よかったらこちらもどうぞ。 『迷いと絆~友情か恋愛か、親友との揺れる恋物語~』 https://www.alphapolis.co.jp/novel/416124410/923802748

愛することをやめたら、怒る必要もなくなりました。今さら私を愛する振りなんて、していただかなくても大丈夫です。

石河 翠
恋愛
貴族令嬢でありながら、家族に虐げられて育ったアイビー。彼女は社交界でも人気者の恋多き侯爵エリックに望まれて、彼の妻となった。 ひとなみに愛される生活を夢見たものの、彼が欲していたのは、夫に従順で、家の中を取り仕切る女主人のみ。先妻の子どもと仲良くできない彼女をエリックは疎み、なじる。 それでもエリックを愛し、結婚生活にしがみついていたアイビーだが、彼の子どもに言われたたった一言で心が折れてしまう。ところが、愛することを止めてしまえばその生活は以前よりも穏やかで心地いいものになっていて……。 愛することをやめた途端に愛を囁くようになったヒーローと、その愛をやんわりと拒むヒロインのお話。 この作品は他サイトにも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID 179331)をお借りしております。

処理中です...