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第3章 会っても会わなくても
中島(1)
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「おい」
居酒屋を出たところで呼び止められた。さっきの中島という奴だった。
「なんか用か?」
「帰るってもう終電ないぜ」
終電の時間なんか気にしてなかった。携帯を確認すると、一時を回っている。それでも、もうあの場に戻りたくない。
「適当に歩いて帰る」
タクシーなんてもったいない。
「良かったら俺んちでも泊まるか?」
「悪いからいいよ」
自分のくだらないエゴで人に迷惑かけられない。
「お前んちどこ?」
「京王線。つつじヶ丘」
「それ歩いて帰れねえだろ」
とため息をつかれた。知るかと思った。
「しょうがねえだろ」
「だから泊まってけって。狭いけど、他に誰もいねえし、気にすんなって」
「そう言われてもな」
俺は頭をかいた。
「なんかさっきも庇ってくれたみたいだけど、何でだ?」
「俺は何でわざわざ敵を作ること言うのか逆に聞きだいけどね」
そんなこと聞かれたくなかった。自分でもわかってた。藤越を目の前にすると、調子が狂う。そんなことこいつに言いたくはない。
「まあ透馬さんがうまく丸め込んでくれるだろうけど」
そうだろうかと思ったけど、口にしなかった。
「まあお前に聞きだいこともあるし、泊まってけよ」
「そこまで言うならお言葉に甘えて。でも、お前まで途中で抜けて良かったのか? ん、聞きたいこと?」
「まあぼちぼち歩きながら話そうぜ」
中島の家は井の頭線の池ノ上にあるようだ。
「お前んちの方向だろ」
各駅しか止まらない駅なら、渋谷とほとんど変わらない気がするが、口は挟まないでおく。ひとまず中島の家に向かって歩き出した。
「何でお前は集まってるんだ?」
別に興味はなかったけど、なんとなく聞いてみた。
「ちょっと透馬さんに恩があって」
「恩?」
「何も知らないんだな」
中島は藤越に助けられたことがあるという。危ない薬にはまってしまって抜けられなくなった時に助けてもらったとか。そんな話知らなかった。あいつも危ない橋渡ってるなと思った。
そしたら、急に強い調子で言われた。
「興味あるのは透馬さんのことだけか?」
「はあ?」
中島が何を言いたいかわからない。
「もう少し具体的に言ってやろうか。透馬さんにずいぶんご執心のようだけど」
「何が言いたい?」
「惚れてんだろ」
俺はすっと血の気がひくのを感じた。何で突然そんなこと言われるんだ。俺はなんとかごまかそうとする。
「何でそんな話になるかわかんないな」
「しらばっくれるなよ」
そもそも中島は何で決めつけてるんだ。
「何でそう思う?」
「透馬さんへの態度がおかしい。後、わざと敵を作るようなこと言ってんだろ」
敵を作ろうと思ってやったわけじゃない。別にわざとなんかじゃないのだが、そこは面倒なので否定しない。
ただ藤越から同級生とか言われたくなかっただけだ。別に学校ではほとんど絡んでもいないのに。
俺はこれ以上何を言ってもごまかしきれないと思い、言った。
「だったら何だって言うんだ」
「そんな邪険にすんなよ。別に喧嘩売ってるわけじゃないんだから」
「それがお前の聞きたかったこと?」
「まあな」
こんなことなら泊めてもらうんじゃなかった。今からでも漫画喫茶とかで時間をつぶそうかと本気で思った。
そこまで他人にわかるほど顔に出ていたのだろうか。今日いた奴ら全員に知られていると思うと、やってられない。
「そんなにわかりやすい態度してたか?」
もしそうなら一生の不覚だと思う。
「いや、それは。俺がたまたま気付いただけだから」
「は?」
「俺も色々あったからさ」
中島が言うには、ある女のせいで薬にはまったらしいが、その女が忘れられないという。
住んでいたアパートからはいなくなり、本名も知らないため二度と会うことはないだろうという話だった。
「それが何か関係あるのかよ」
「ないけどさ、何で透馬さんなんだ?」
ぎっとにらみつけるとため息をつかれた。
「お前ってなんか普通じゃん」
どういう意味だかよくわからない。
「もてそうな面してるのに」
「もてねえよ」
「じゃあ童貞?」
何でそんなこと聞くんだと思った。
「違う」
「それって女だよな」
「いちいちそんなこと聞くなよ」
馬鹿にしてんのかと思う。
「だから普通だって言ってんじゃん」
そういう意味かとやっと理解した。女とやったことあるのに藤越が出てくるのがおかしいということだろう。
「おかしいのはわかってんだよ。お前に言われなくたって」
俺だってやめたい。こんな感情をなくしたい。
会わなきゃ忘れると思った。なのに、今日会ってわかった。もうどうしようもないことを。手遅れだったのだ。今更忘れようと思ってもできやしないことを思い知らされただけだ。
「別にそういうことが言いたいわけじゃなくてさ。何で透馬さん」
「答えたくない」
俺がそう言うと、中島は諦めたのかその話はしなくなった。
渋谷から二十分強歩いてやっと中島の家にたどり着いた。それぐらい歩くのは苦じゃないけれど、沈黙が重く、いつもよりその時間が長く感じた。
居酒屋を出たところで呼び止められた。さっきの中島という奴だった。
「なんか用か?」
「帰るってもう終電ないぜ」
終電の時間なんか気にしてなかった。携帯を確認すると、一時を回っている。それでも、もうあの場に戻りたくない。
「適当に歩いて帰る」
タクシーなんてもったいない。
「良かったら俺んちでも泊まるか?」
「悪いからいいよ」
自分のくだらないエゴで人に迷惑かけられない。
「お前んちどこ?」
「京王線。つつじヶ丘」
「それ歩いて帰れねえだろ」
とため息をつかれた。知るかと思った。
「しょうがねえだろ」
「だから泊まってけって。狭いけど、他に誰もいねえし、気にすんなって」
「そう言われてもな」
俺は頭をかいた。
「なんかさっきも庇ってくれたみたいだけど、何でだ?」
「俺は何でわざわざ敵を作ること言うのか逆に聞きだいけどね」
そんなこと聞かれたくなかった。自分でもわかってた。藤越を目の前にすると、調子が狂う。そんなことこいつに言いたくはない。
「まあ透馬さんがうまく丸め込んでくれるだろうけど」
そうだろうかと思ったけど、口にしなかった。
「まあお前に聞きだいこともあるし、泊まってけよ」
「そこまで言うならお言葉に甘えて。でも、お前まで途中で抜けて良かったのか? ん、聞きたいこと?」
「まあぼちぼち歩きながら話そうぜ」
中島の家は井の頭線の池ノ上にあるようだ。
「お前んちの方向だろ」
各駅しか止まらない駅なら、渋谷とほとんど変わらない気がするが、口は挟まないでおく。ひとまず中島の家に向かって歩き出した。
「何でお前は集まってるんだ?」
別に興味はなかったけど、なんとなく聞いてみた。
「ちょっと透馬さんに恩があって」
「恩?」
「何も知らないんだな」
中島は藤越に助けられたことがあるという。危ない薬にはまってしまって抜けられなくなった時に助けてもらったとか。そんな話知らなかった。あいつも危ない橋渡ってるなと思った。
そしたら、急に強い調子で言われた。
「興味あるのは透馬さんのことだけか?」
「はあ?」
中島が何を言いたいかわからない。
「もう少し具体的に言ってやろうか。透馬さんにずいぶんご執心のようだけど」
「何が言いたい?」
「惚れてんだろ」
俺はすっと血の気がひくのを感じた。何で突然そんなこと言われるんだ。俺はなんとかごまかそうとする。
「何でそんな話になるかわかんないな」
「しらばっくれるなよ」
そもそも中島は何で決めつけてるんだ。
「何でそう思う?」
「透馬さんへの態度がおかしい。後、わざと敵を作るようなこと言ってんだろ」
敵を作ろうと思ってやったわけじゃない。別にわざとなんかじゃないのだが、そこは面倒なので否定しない。
ただ藤越から同級生とか言われたくなかっただけだ。別に学校ではほとんど絡んでもいないのに。
俺はこれ以上何を言ってもごまかしきれないと思い、言った。
「だったら何だって言うんだ」
「そんな邪険にすんなよ。別に喧嘩売ってるわけじゃないんだから」
「それがお前の聞きたかったこと?」
「まあな」
こんなことなら泊めてもらうんじゃなかった。今からでも漫画喫茶とかで時間をつぶそうかと本気で思った。
そこまで他人にわかるほど顔に出ていたのだろうか。今日いた奴ら全員に知られていると思うと、やってられない。
「そんなにわかりやすい態度してたか?」
もしそうなら一生の不覚だと思う。
「いや、それは。俺がたまたま気付いただけだから」
「は?」
「俺も色々あったからさ」
中島が言うには、ある女のせいで薬にはまったらしいが、その女が忘れられないという。
住んでいたアパートからはいなくなり、本名も知らないため二度と会うことはないだろうという話だった。
「それが何か関係あるのかよ」
「ないけどさ、何で透馬さんなんだ?」
ぎっとにらみつけるとため息をつかれた。
「お前ってなんか普通じゃん」
どういう意味だかよくわからない。
「もてそうな面してるのに」
「もてねえよ」
「じゃあ童貞?」
何でそんなこと聞くんだと思った。
「違う」
「それって女だよな」
「いちいちそんなこと聞くなよ」
馬鹿にしてんのかと思う。
「だから普通だって言ってんじゃん」
そういう意味かとやっと理解した。女とやったことあるのに藤越が出てくるのがおかしいということだろう。
「おかしいのはわかってんだよ。お前に言われなくたって」
俺だってやめたい。こんな感情をなくしたい。
会わなきゃ忘れると思った。なのに、今日会ってわかった。もうどうしようもないことを。手遅れだったのだ。今更忘れようと思ってもできやしないことを思い知らされただけだ。
「別にそういうことが言いたいわけじゃなくてさ。何で透馬さん」
「答えたくない」
俺がそう言うと、中島は諦めたのかその話はしなくなった。
渋谷から二十分強歩いてやっと中島の家にたどり着いた。それぐらい歩くのは苦じゃないけれど、沈黙が重く、いつもよりその時間が長く感じた。
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