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序章
最初の出会い
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人を好きになることについて十代で真剣に考える奴はいるだろうか。俺は十六になるまでそのことと全く無縁だったし、誰かを好きになるなんて気持ち悪くて盲目的だとしか思えなかった。
高校一年の時にあいつに再会したのが全ての始まりだが、再会と言うからには初めの出会いがある。遡ること7年。小学三年生の時だ。
二年ごとのクラス替えで、新しいクラスになった。引っ込み思案だった俺は、新しいクラスに胸躍ることもなく、ただいつも一緒にいる二人と同じクラスになり安心していた。
一か月もそのクラスにいると、クラスのメンツがだいたいわかってくる。その中で、影が薄いのに目立っている奴がいた。
誰とも関わらず、いつも一人でいる男子だ。話しかけても簡単な返答をするだけで、悪く言えば無愛想。髪が少しだけ長く、ぱっと見女の子に見えなくもない。背が小さいから余計そう見えるのかもしれない。いつも背の順で並ぶときは一番前で、「女の子かと思った」とからかわれることも多い。本人はからかう声も無視して、常に堂々としている。
気付いたらそいつを目で追うことが多くなった。
そいつの名前は藤越という。藤越透馬。
俺はずっと藤越に話しかける機をうかがっていた。でも、勇気がなくて、それまでに数ヶ月もかかった。
それ以前の記憶はまばらなのに、その日のことは鮮明に覚えている。
生徒が少なくなった放課後の教室。藤越は一人で携帯ゲームをやっていた。
俺は緊張で声を震わせながら話しかけた。
「ふ、じこし」
しどろもどろで相手に聞こえたかわからない。藤越はゲームを中断し、こっちを見た。聞こえていたのだろう。
「何か言った?」
「あの……」
初対面の奴に話しかけるのにしどろもどろになるのは、当時の俺の悪い癖だ。すぐに「何?」と聞き返される。そのそっけなさに心が折れそうになりながらも、俺はなんとか告げた。
「どうしていつも一人なの? 一人でゲームなんかやってて面白い?」
俺のなけなしの勇気を、藤越は一掃した。
「それがあんたに何か関係ある?」と。
俺はただ、その後一緒に遊ぼうと誘いたかったのだ。だけど、それ以上口から言葉が出てこなくなる。
そしてもっと最悪な結果を招くことになった。一緒につるんでいた二人、井口と山本が口を挟んできたのだ。
「何でそんな奴に話しかけてるんだよ」
と言ったのはいつもガキ大将みたいに威張ってる井口だ。
「そうだよ。関係ある? だって生意気なこと言ってたぜ。このチビ」
そう井口にチクるように言ったのは山本だった。虎の威を借りる狐のように、自分一人だと強気なことは言えない奴だ。
「ずいぶん生意気な口利いてんじゃねえか」
と井口が言った。
「まだ何かあるの?」
藤越はうんざりしたように言った。
すると、
「いい加減にしろよなてめえ」
井口が藤越の胸ぐらを掴んだ。
「やめて」
と俺は小さく言ったが、その声は井口にかき消された。
「お前もこんな奴に話しかけるんじゃねえよ」
「だって」
理由はうまく説明できなかった。多分今でもよくわかっていない。でも、そのなんとなくが始まりだったのだと思う。
「二度と生意気な口利けないようにしようぜ」
と便乗したように言うのはいつも山本だ。
「おい、なんとか言えよな」
「放して」
藤越は淡々とそう言った。そこに感情のかけらも見当たらなかった。
そう、俺たちが藤越をいじめるようになっても、藤越はただ淡々とそこにいた。
高校一年の時にあいつに再会したのが全ての始まりだが、再会と言うからには初めの出会いがある。遡ること7年。小学三年生の時だ。
二年ごとのクラス替えで、新しいクラスになった。引っ込み思案だった俺は、新しいクラスに胸躍ることもなく、ただいつも一緒にいる二人と同じクラスになり安心していた。
一か月もそのクラスにいると、クラスのメンツがだいたいわかってくる。その中で、影が薄いのに目立っている奴がいた。
誰とも関わらず、いつも一人でいる男子だ。話しかけても簡単な返答をするだけで、悪く言えば無愛想。髪が少しだけ長く、ぱっと見女の子に見えなくもない。背が小さいから余計そう見えるのかもしれない。いつも背の順で並ぶときは一番前で、「女の子かと思った」とからかわれることも多い。本人はからかう声も無視して、常に堂々としている。
気付いたらそいつを目で追うことが多くなった。
そいつの名前は藤越という。藤越透馬。
俺はずっと藤越に話しかける機をうかがっていた。でも、勇気がなくて、それまでに数ヶ月もかかった。
それ以前の記憶はまばらなのに、その日のことは鮮明に覚えている。
生徒が少なくなった放課後の教室。藤越は一人で携帯ゲームをやっていた。
俺は緊張で声を震わせながら話しかけた。
「ふ、じこし」
しどろもどろで相手に聞こえたかわからない。藤越はゲームを中断し、こっちを見た。聞こえていたのだろう。
「何か言った?」
「あの……」
初対面の奴に話しかけるのにしどろもどろになるのは、当時の俺の悪い癖だ。すぐに「何?」と聞き返される。そのそっけなさに心が折れそうになりながらも、俺はなんとか告げた。
「どうしていつも一人なの? 一人でゲームなんかやってて面白い?」
俺のなけなしの勇気を、藤越は一掃した。
「それがあんたに何か関係ある?」と。
俺はただ、その後一緒に遊ぼうと誘いたかったのだ。だけど、それ以上口から言葉が出てこなくなる。
そしてもっと最悪な結果を招くことになった。一緒につるんでいた二人、井口と山本が口を挟んできたのだ。
「何でそんな奴に話しかけてるんだよ」
と言ったのはいつもガキ大将みたいに威張ってる井口だ。
「そうだよ。関係ある? だって生意気なこと言ってたぜ。このチビ」
そう井口にチクるように言ったのは山本だった。虎の威を借りる狐のように、自分一人だと強気なことは言えない奴だ。
「ずいぶん生意気な口利いてんじゃねえか」
と井口が言った。
「まだ何かあるの?」
藤越はうんざりしたように言った。
すると、
「いい加減にしろよなてめえ」
井口が藤越の胸ぐらを掴んだ。
「やめて」
と俺は小さく言ったが、その声は井口にかき消された。
「お前もこんな奴に話しかけるんじゃねえよ」
「だって」
理由はうまく説明できなかった。多分今でもよくわかっていない。でも、そのなんとなくが始まりだったのだと思う。
「二度と生意気な口利けないようにしようぜ」
と便乗したように言うのはいつも山本だ。
「おい、なんとか言えよな」
「放して」
藤越は淡々とそう言った。そこに感情のかけらも見当たらなかった。
そう、俺たちが藤越をいじめるようになっても、藤越はただ淡々とそこにいた。
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