上 下
41 / 95
ハロウィーン編

41 鬼の出る幕

しおりを挟む
 
 パーティでの騒動を一部始終見ていた、マリサとカイル視点の話になります。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 マリサはカイルを連れ、パーティ会場にいるであろうジョンとリジーを探し回っていた。
 彼らがこのレストランのハロウィーンパーティに来るという情報を、スーザンに確認していた。
 マリサの計画では、カイルにリジーを理由をつけて誘わせジョンから離し、自分は残されたジョンの様子を観察するという、いとも簡単な場当たり的なものだった。カイルは、自分の後ろからかなり嫌そうについてくる。

 ようやくふたりの姿を見つけた。
 ところが……。
 ふたりを引き離す計画のはずが、ジョンはすでに別の女に捕まっていた。
 一方のリジーは……少し離れた所でおかしな男に何か言い寄られている。

「なんだあれは? あいつ、どこに行っても何かしらトラブルに逢いやがって。保護者は保護者で何やってる!」

 リジーのもとへ行こうと動き出したカイルの腕を、マリサは掴んだ。

「待って、あなたが今出て行ったら……」
「同じだろう。あいつ困って……あ……」

 リジーは男を振り切り、レストラン内の人々の中に潜り込んで、見えなくなった。

 リジーに絡んでいた男は肩をすくめ、リジーを追わずに今度は別の女性に声をかけていた。
 カイルがホッと息を吐く。その後もカイルはリジーの消えた方向をずっと見たままだ。
 
 ジョンの方はというと、緑のドレスの女から離れ、周りを見渡し始めた。
 明らかにリジーを探している。それも必死に……。

(今はチャンス? いや、違う、タイミング悪い? でもそういう流れなら、流れに乗ってみるのが私……)

 マリサは動いた。

「ジョン!」

「マリサ……? やあ……」

 気もそぞろで、返事はくれても口先だけの挨拶なのがわかる。

(瞳はただひとりしか映していない……)

「今日はパレードに参加してくれてありがとう。リジーがひとりじゃ大変だったと思うから、助かったわ」
「いや、意外と楽しかったよ」

 そう言いながらもジョンの視線は、始終辺りを彷徨っている。

(こちらには目もくれないのね。今日は少しはドレスアップしてきたのに)

「どうしたの? 誰かを探してるの?」
「……リジーとはぐれてしまって。彼女を見なかったか?」

(この人は、本当に彼女しか眼中にないのね)

「この人混みじゃ、小さいあの子は見つけにくいかもね。探すのを手伝……」

(わかっていたのに……)

「ごめん、また今度!!」

 ジョンはリジーを見つけたらしく、マリサが言いかけたことにも気が付かず、別れの挨拶も程々に風のように去っていった。
 それをただ何の感情も無く見送る。

「おい、マリサ! リジーが向こうで今度は別の男に捕まった。……あの保護者、人でも怪物でも倒しそうな凄まじい顔してたぜ」

「そう」

(ジョンは初めて会った時から、いつも遠くの誰かを見ているようだった。ただひとりしか見ていなかったってこと? もしかしてあの子が来る前からあの子しか)

「マリサ!! ほら、行くぞ! なにボサッとしてるんだ。決定的瞬間を見るんだろ? 最後まで、見届けろ!」
「そうね……」

 マリサとカイルはジョンを追った。


 そして、姉弟は事の顛末を最後まで傍観者として見届けた。

 ジョンがどんなにリジーを大切にしているかは一目瞭然だった。
 ジョンは彼女を捕えていた大男を一撃でひざまずかせ、彼女を自分の胸に取り返す。
 そして、その額に愛おしそうにキスを……。
 それからリジーの肩を抱き、人だかりから身を盾にして守りながら去った。

 その姿をただ目に映しているマリサは、涙が出そうだった。

 女子ならいくつになっても憧れる映画の山場のワンシーンのようで。
 彼はさながら姫を守る騎士そのもの。
 なぜ、自分ではなかったのだろう。
 自分の目で見て納得したかったが、ショックの方が大きかった。
 ジョンに会うのを断られてからもひそかに姿だけ見に行ったこともあった。店の外から一目見て、こっそり帰った。
 あれから2年も経つというのに、ジョンより心惹かれる男は未だにいなかった。
 まだ彼に心を引きずられていた。でも、もう終わりにしなくてはならない。
 今度こそ。


♢♢♢


「見たか?」
 
 カイルは、自分と同じようにただ茫然としていたマリサに声をかけた。

「見たわ」

 マリサの目に意思が戻った。

「俺たちの出る幕はないだろう」
「ないわね」
「これで、諦めがついたか?」
「ついたかも……」
「かも? かもじゃなくついた、にしろ」
「あ~あ、そのセリフ、なんで弟に言われなきゃなんないの?」
「無理やり連れてきておいて、なんだよ」
「今日はとことんここで飲み食いしてやる!」

「またかよ……」

(俺はまだ日が浅いから良いが、マリサは……思ったよりご執心だったんだな。同情するぜ。諦めろ)

 カイルはマリサへかけた言葉を、自分の心にも言い聞かせる。

(俺の出る幕はない)

 こうして、姉弟の辛く長い夜の宴は始まった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

根暗令嬢の華麗なる転身

しろねこ。
恋愛
「来なきゃよかったな」 ミューズは茶会が嫌いだった。 茶会デビューを果たしたものの、人から不細工と言われたショックから笑顔になれず、しまいには根暗令嬢と陰で呼ばれるようになった。 公爵家の次女に産まれ、キレイな母と実直な父、優しい姉に囲まれ幸せに暮らしていた。 何不自由なく、暮らしていた。 家族からも愛されて育った。 それを壊したのは悪意ある言葉。 「あんな不細工な令嬢見たことない」 それなのに今回の茶会だけは断れなかった。 父から絶対に参加してほしいという言われた茶会は特別で、第一王子と第二王子が来るものだ。 婚約者選びのものとして。 国王直々の声掛けに娘思いの父も断れず… 応援して頂けると嬉しいです(*´ω`*) ハピエン大好き、完全自己満、ご都合主義の作者による作品です。 同名主人公にてアナザーワールド的に別な作品も書いています。 立場や環境が違えども、幸せになって欲しいという思いで作品を書いています。 一部リンクしてるところもあり、他作品を見て頂ければよりキャラへの理解が深まって楽しいかと思います。 描写的なものに不安があるため、お気をつけ下さい。 ゆるりとお楽しみください。 こちら小説家になろうさん、カクヨムさんにも投稿させてもらっています。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

わたしは婚約者の不倫の隠れ蓑

岡暁舟
恋愛
第一王子スミスと婚約した公爵令嬢のマリア。ところが、スミスが魅力された女は他にいた。同じく公爵令嬢のエリーゼ。マリアはスミスとエリーゼの密会に気が付いて……。 もう終わりにするしかない。そう確信したマリアだった。 本編終了しました。

美しい公爵様の、凄まじい独占欲と溺れるほどの愛

らがまふぃん
恋愛
 こちらは以前投稿いたしました、 美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛 の続編となっております。前作よりマイルドな作品に仕上がっておりますが、内面のダークさが前作よりはあるのではなかろうかと。こちらのみでも楽しめるとは思いますが、わかりづらいかもしれません。よろしかったら前作をお読みいただいた方が、より楽しんでいただけるかと思いますので、お時間の都合のつく方は、是非。時々予告なく残酷な表現が入りますので、苦手な方はお控えください。 *早速のお気に入り登録、しおり、エールをありがとうございます。とても励みになります。前作もお読みくださっている方々にも、多大なる感謝を! ※R5.7/23本編完結いたしました。たくさんの方々に支えられ、ここまで続けることが出来ました。本当にありがとうございます。ばんがいへんを数話投稿いたしますので、引き続きお付き合いくださるとありがたいです。この作品の前作が、お気に入り登録をしてくださった方が、ありがたいことに200を超えておりました。感謝を込めて、前作の方に一話、近日中にお届けいたします。よろしかったらお付き合いください。 ※R5.8/6ばんがいへん終了いたしました。長い間お付き合いくださり、また、たくさんのお気に入り登録、しおり、エールを、本当にありがとうございました。 ※R5.9/3お気に入り登録200になっていました。本当にありがとうございます(泣)。嬉しかったので、一話書いてみました。 ※R5.10/30らがまふぃん活動一周年記念として、一話お届けいたします。 ※R6.1/27美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛(前作) と、こちらの作品の間のお話し 美しく冷酷な公爵令息様の、狂おしい熱情に彩られた愛 始めました。お時間の都合のつく方は、是非ご一読くださると嬉しいです。 *らがまふぃん活動二周年記念として、R6.11/4に一話お届けいたします。少しでも楽しんでいただけますように。

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

思い出さなければ良かったのに

田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。 大事なことを忘れたまま。 *本編完結済。不定期で番外編を更新中です。

処理中です...