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ハロウィーン編
31 仮装打ち合わせ
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リジーはある朝出勤すると、すぐシルビアに呼ばれた。
シルビアは、今日は目にも鮮やかな濃いピンク色のワンピースを着こなしていた。
「どう? もう傷の具合はすっかりいいの?」
「はい! 傷は残ってますけど、痛みは全然ないです」
「まあ、良かったわ。あなたはよくやってくれているけど、怪我が多いみたいだから気をつけてね。身体が一番大事よ」
「はい!」
シルビアの明るい笑顔に、リジーはいつも元気をもらっていた。
「ところで、スーザンから聞いていたみたいだけど、今年のハロウィーンフェスティバルのパレードの担当はあなたにお願いしたいの。いいかしら」
「はい!!」
「誰かお手伝いしてくれそうなお友達はいる?」
「いませんが、スーザンが手伝ってくれるそうですし、大丈夫です」
「ごめんなさい。よろしくね。組合のお付き合いで参加必須なのよ。仕事の一環としてお願いするわ」
「はい! 任せて下さい。頑張ります」
リジーはその時は気楽に考えていた。
買い物帰り、仮装について考えながら歩いていた。良いアイディアが浮かばない。
(まずはいつものパンを買おう)
リジーもすっかりクリスティのハワイアンブレッドの虜だった。
「こんにちは~!」
「あら、リジー! 毎度ありがとうね」クリスティが声をかける。
「いつも美味しくて食べ過ぎちゃいます。底の焦げた部分がまた風味が良くて好きなんですよ~」
「あら、私もよ。焦げたパンが好きだから、失敗した時も廃棄しないでうちで食べちゃうのよ」
「私も焦げてるの好きなんです。余ったらいつでも買いますよ!」
「そう? じゃあ、今度リジーの分、残しておくわね」
「わあ、ありがとうございます!」
パンの甘い香りと店に流れている低めのBGM。
リジーは何かひらめいた気がした。
(この曲<虹の彼方に>だ。誘える友達はいないけど、ぬいぐるみとか段ボールで作ればひとりでもいけるかなあ)
なんだか楽しくなってきた。
「リジー、なにニタニタしながら歩いてるの?」
気が付くと、サムが隣を歩いている。
「あれ、サム!? 今日はお休み?」
「今日は、早上がりなの」
サムはラフなTシャツにジーンズ姿だ。
「もしかして、<スカラムーシュ>へ行くの?」
「ああ、暇だから」
「本当に仲良しなんだね」
リジーはクスッと笑う。
「俺はクロウをからかうのが趣味だから」
「……」
(わ~ジョンが聞いたら怒りそうなセリフ)
サムがさりげなくリジーの腰に手を回してきた。
「へ? ちょっと……何? 止めてよ」
リジーが身体を固くしてキッとサムを見上げると、黄金スマイルを返された。
「は?」
引いたリジーの耳元に、サムは顔を寄せて来た。
「後ろの女の子たちが消えてくれる間だけ頼むよ。<スカラムーシュ>に近付いたら止めるから。面倒だから後ろは振り向かないでね。もてる男は色々大変でさあ」
そう言うやいなや、さらに強く腰を引かれた。
「!?」
(巻き込まれたくない~!! 腰、止めて!!!)
リジーはすっかり落ち着きがなくなった。
「肩ならいい?」
「う……ん?」
(こ、心の声聞こえたの!?)
サムの手がリジーの腰から滑るように肩に移動する。
がっちり肩を抱かれた。
(こ、これもどうかと……)
「それにしてもリジーは、余計な肉ないね」
「な、サム!! 失礼な!」
サラリと言われ、リジーは目を剥いた。
「ジョンが喜ぶようにもう少し肉をつけたら?」
「!!!」
リジーは瞬時に真っ赤になった。
「きみたちって本当にからかい甲斐があるなあ」
「たちって……」
「もちろんクロウときみ」
「な、なによ~。サムの趣味に付き合う気無いから! ジョンに言いつける!!」
「俺にもう少し肉をつけたらって、言われたって?」
「そっちじゃなくて~! ジョンをからかうのが趣味って方」
「そっち!? まあ、どっちにしろ腕1本かなあ~」
「えっ!?」
サムの物騒な発言に、リジーは青くなって口をつぐんだ。
「冗談だよ~。ジョンは限界を知ってるから。じゃあ、頭貸して……」
サムはリジーの頭に肘をのせた。
「う……」
リジーが抗う目を向けると、くくっとサムが笑う。
「なんだい? 子リスちゃん」
いつの間にかサムをつけていた女の子たちはいなくなっていた。
「で、さっきはなんだか楽しそうだったよね?」
「うん、ハロウィーンフェスティバルの仮装パレードに参加することになったの。それで、良いアイディアが浮かんだから」
「パレード? あれにリジーが出るの?」
「うん!!」
「埋もれるな」
「え?」
「転んで踏まれて……」
「うそ……」
「全治3週間」
「やめてよ~怪我する前提の話!」
♢♢♢
場所は<スカラムーシュ>の中に変わった。
「リジーがハロウィーンフェスティバルの仮装パレードに出るんだって」
サムがリジーがパレードに参加する話を、早速ジョンの前で始めた。
「え、あれに出るの?」
ジョンも眉を寄せた。
「転んだら大変なことになるからやめた方が良い」
「だから、なんでふたりとも、私が転ぶとか怪我する前提で話をするの? 断れないから。仕事のうちなの。絶対出るの!」
「じゃあ、俺たちがガードする?」
サムが何気に言うと、ジョンは考える素振りをみせた。
「そうだな」
「え? いいの?」
意外な展開になりそうだ。ここでふたり増えればもう完璧に近い。
「何の仮装するか、考えてたんでしょ?」
サムに聞かれ、リジーは胸を張った。
「実は、ひとりで<オズの魔法使い>の仮装をしようと思ってたんだ」
「<オズの魔法使い>? なんか俺たちにおあつらえ向きじゃないか~。リジーはうっかり者のドロシー。俺がへなちょこライオンで、クロウがドロシーを見張るかかし。あ、でもかかしは知恵が欲しいんだっけ? クロウは大学にいたからちょっと違うか……。心が欲しいブリキの木こりの方がお似合い?」
「ブリキの木こりだって僕だって、心が無いわけじゃない。でも、まだかかしのほうが良い」
ジョンがぷいと横を向いた。
「ジョン、気がすすまないなら無理しないでね。店の人も手伝っても良いって言ってくれてるから」
「やるよ」
「ほう~。じゃあ、決まりね。クロウがお祭り騒ぎに参加するなんて初めてじゃない? どういう風の吹き回しかな?」
「なにも。意味はない」
「ありがとうふたりとも。でもいいの? 仕事は?」
「ハロウィーンはうるさいからいつも店を閉めてる」とジョン。
「俺はいつも祭りのときは休みをとってるから」とサム。
「……」
(店長さんも副店長さんも本当にいいのかなあ)
♢♢♢♢♢♢
リジーは別の日に、<フォレスト>の休憩室でスーザンに相談していた。
「<オズの魔法使い>、良いんじゃない? SF映画やコミックの仮装が多い中、レトロな感じでナイスな選択だと思うわ。黒髪さんがかかしで、銀髪さんがライオンね。リジーはブリキの木こり?」
「ド、ドロシーです。ブリキの木こりはダンボールとかで間に合わせようかと……」
「なるほどね」
スーザンはスタスタと休憩室の入り口に行くと、ドアの鍵をガチャリとしめた。
リジーはなにやら嫌な予感がした。
「じゃあ、脱いで」
「へ?」
スーザンはリジーの方を向くと、ニヤリとしてバッグからメジャーを取り出した。
「採寸するから服を脱いで」
「なんでメジャー持ってるの? そ、そんなに本格的なの?」
「そうよ、ちゃんと衣装を作ってあげるから」
じわりじわりとリジーはスーザンに追いつめられる。
「ぎゃあ~待って!!」
「なんだ、まったく盛る必要ないじゃない? リジーは着やせするタイプだったのね。ジュディ・ガーランドより、ずっと可愛くしてあげるわ。任せて、腕が鳴るわ!!」
力の勝るスーザンに服を脱がされ、リジーは力なくその場の椅子にへたり込んだ。
「これだけあれば黒髪さんも満足するんじゃない?」
「な、な、何を言ってるの?」
「背中も綺麗ね」
「……や……もう、くすぐったい! 触らないで~」
「触らないと採寸できないから!」
「……」
♢♢♢
「……あいつら、なにやってんだ……」
休憩室の外で、思わず立ち聞きしてしまったカイルが、目を回してふらついたことは、中のふたりは知る由もない。
シルビアは、今日は目にも鮮やかな濃いピンク色のワンピースを着こなしていた。
「どう? もう傷の具合はすっかりいいの?」
「はい! 傷は残ってますけど、痛みは全然ないです」
「まあ、良かったわ。あなたはよくやってくれているけど、怪我が多いみたいだから気をつけてね。身体が一番大事よ」
「はい!」
シルビアの明るい笑顔に、リジーはいつも元気をもらっていた。
「ところで、スーザンから聞いていたみたいだけど、今年のハロウィーンフェスティバルのパレードの担当はあなたにお願いしたいの。いいかしら」
「はい!!」
「誰かお手伝いしてくれそうなお友達はいる?」
「いませんが、スーザンが手伝ってくれるそうですし、大丈夫です」
「ごめんなさい。よろしくね。組合のお付き合いで参加必須なのよ。仕事の一環としてお願いするわ」
「はい! 任せて下さい。頑張ります」
リジーはその時は気楽に考えていた。
買い物帰り、仮装について考えながら歩いていた。良いアイディアが浮かばない。
(まずはいつものパンを買おう)
リジーもすっかりクリスティのハワイアンブレッドの虜だった。
「こんにちは~!」
「あら、リジー! 毎度ありがとうね」クリスティが声をかける。
「いつも美味しくて食べ過ぎちゃいます。底の焦げた部分がまた風味が良くて好きなんですよ~」
「あら、私もよ。焦げたパンが好きだから、失敗した時も廃棄しないでうちで食べちゃうのよ」
「私も焦げてるの好きなんです。余ったらいつでも買いますよ!」
「そう? じゃあ、今度リジーの分、残しておくわね」
「わあ、ありがとうございます!」
パンの甘い香りと店に流れている低めのBGM。
リジーは何かひらめいた気がした。
(この曲<虹の彼方に>だ。誘える友達はいないけど、ぬいぐるみとか段ボールで作ればひとりでもいけるかなあ)
なんだか楽しくなってきた。
「リジー、なにニタニタしながら歩いてるの?」
気が付くと、サムが隣を歩いている。
「あれ、サム!? 今日はお休み?」
「今日は、早上がりなの」
サムはラフなTシャツにジーンズ姿だ。
「もしかして、<スカラムーシュ>へ行くの?」
「ああ、暇だから」
「本当に仲良しなんだね」
リジーはクスッと笑う。
「俺はクロウをからかうのが趣味だから」
「……」
(わ~ジョンが聞いたら怒りそうなセリフ)
サムがさりげなくリジーの腰に手を回してきた。
「へ? ちょっと……何? 止めてよ」
リジーが身体を固くしてキッとサムを見上げると、黄金スマイルを返された。
「は?」
引いたリジーの耳元に、サムは顔を寄せて来た。
「後ろの女の子たちが消えてくれる間だけ頼むよ。<スカラムーシュ>に近付いたら止めるから。面倒だから後ろは振り向かないでね。もてる男は色々大変でさあ」
そう言うやいなや、さらに強く腰を引かれた。
「!?」
(巻き込まれたくない~!! 腰、止めて!!!)
リジーはすっかり落ち着きがなくなった。
「肩ならいい?」
「う……ん?」
(こ、心の声聞こえたの!?)
サムの手がリジーの腰から滑るように肩に移動する。
がっちり肩を抱かれた。
(こ、これもどうかと……)
「それにしてもリジーは、余計な肉ないね」
「な、サム!! 失礼な!」
サラリと言われ、リジーは目を剥いた。
「ジョンが喜ぶようにもう少し肉をつけたら?」
「!!!」
リジーは瞬時に真っ赤になった。
「きみたちって本当にからかい甲斐があるなあ」
「たちって……」
「もちろんクロウときみ」
「な、なによ~。サムの趣味に付き合う気無いから! ジョンに言いつける!!」
「俺にもう少し肉をつけたらって、言われたって?」
「そっちじゃなくて~! ジョンをからかうのが趣味って方」
「そっち!? まあ、どっちにしろ腕1本かなあ~」
「えっ!?」
サムの物騒な発言に、リジーは青くなって口をつぐんだ。
「冗談だよ~。ジョンは限界を知ってるから。じゃあ、頭貸して……」
サムはリジーの頭に肘をのせた。
「う……」
リジーが抗う目を向けると、くくっとサムが笑う。
「なんだい? 子リスちゃん」
いつの間にかサムをつけていた女の子たちはいなくなっていた。
「で、さっきはなんだか楽しそうだったよね?」
「うん、ハロウィーンフェスティバルの仮装パレードに参加することになったの。それで、良いアイディアが浮かんだから」
「パレード? あれにリジーが出るの?」
「うん!!」
「埋もれるな」
「え?」
「転んで踏まれて……」
「うそ……」
「全治3週間」
「やめてよ~怪我する前提の話!」
♢♢♢
場所は<スカラムーシュ>の中に変わった。
「リジーがハロウィーンフェスティバルの仮装パレードに出るんだって」
サムがリジーがパレードに参加する話を、早速ジョンの前で始めた。
「え、あれに出るの?」
ジョンも眉を寄せた。
「転んだら大変なことになるからやめた方が良い」
「だから、なんでふたりとも、私が転ぶとか怪我する前提で話をするの? 断れないから。仕事のうちなの。絶対出るの!」
「じゃあ、俺たちがガードする?」
サムが何気に言うと、ジョンは考える素振りをみせた。
「そうだな」
「え? いいの?」
意外な展開になりそうだ。ここでふたり増えればもう完璧に近い。
「何の仮装するか、考えてたんでしょ?」
サムに聞かれ、リジーは胸を張った。
「実は、ひとりで<オズの魔法使い>の仮装をしようと思ってたんだ」
「<オズの魔法使い>? なんか俺たちにおあつらえ向きじゃないか~。リジーはうっかり者のドロシー。俺がへなちょこライオンで、クロウがドロシーを見張るかかし。あ、でもかかしは知恵が欲しいんだっけ? クロウは大学にいたからちょっと違うか……。心が欲しいブリキの木こりの方がお似合い?」
「ブリキの木こりだって僕だって、心が無いわけじゃない。でも、まだかかしのほうが良い」
ジョンがぷいと横を向いた。
「ジョン、気がすすまないなら無理しないでね。店の人も手伝っても良いって言ってくれてるから」
「やるよ」
「ほう~。じゃあ、決まりね。クロウがお祭り騒ぎに参加するなんて初めてじゃない? どういう風の吹き回しかな?」
「なにも。意味はない」
「ありがとうふたりとも。でもいいの? 仕事は?」
「ハロウィーンはうるさいからいつも店を閉めてる」とジョン。
「俺はいつも祭りのときは休みをとってるから」とサム。
「……」
(店長さんも副店長さんも本当にいいのかなあ)
♢♢♢♢♢♢
リジーは別の日に、<フォレスト>の休憩室でスーザンに相談していた。
「<オズの魔法使い>、良いんじゃない? SF映画やコミックの仮装が多い中、レトロな感じでナイスな選択だと思うわ。黒髪さんがかかしで、銀髪さんがライオンね。リジーはブリキの木こり?」
「ド、ドロシーです。ブリキの木こりはダンボールとかで間に合わせようかと……」
「なるほどね」
スーザンはスタスタと休憩室の入り口に行くと、ドアの鍵をガチャリとしめた。
リジーはなにやら嫌な予感がした。
「じゃあ、脱いで」
「へ?」
スーザンはリジーの方を向くと、ニヤリとしてバッグからメジャーを取り出した。
「採寸するから服を脱いで」
「なんでメジャー持ってるの? そ、そんなに本格的なの?」
「そうよ、ちゃんと衣装を作ってあげるから」
じわりじわりとリジーはスーザンに追いつめられる。
「ぎゃあ~待って!!」
「なんだ、まったく盛る必要ないじゃない? リジーは着やせするタイプだったのね。ジュディ・ガーランドより、ずっと可愛くしてあげるわ。任せて、腕が鳴るわ!!」
力の勝るスーザンに服を脱がされ、リジーは力なくその場の椅子にへたり込んだ。
「これだけあれば黒髪さんも満足するんじゃない?」
「な、な、何を言ってるの?」
「背中も綺麗ね」
「……や……もう、くすぐったい! 触らないで~」
「触らないと採寸できないから!」
「……」
♢♢♢
「……あいつら、なにやってんだ……」
休憩室の外で、思わず立ち聞きしてしまったカイルが、目を回してふらついたことは、中のふたりは知る由もない。
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