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03 日本の夜明けは近いぜよ
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「じゃ坂本君、行ってらっしゃい」
「馳走になったぜよ。そいじゃ」
宇宙堂を出ると、赤松が呼んだ豊玉宗匠が待っており、「じゃ、行くぜ」と二条城への道へ誘った。
「悪いね、豊玉宗匠」
「いンや、他ならぬ宇宙堂さんの頼みだ。それに」
天下安寧の為だ、一肌脱ぐぜ、と笑った。
「じゃ、行ってくるきに」
竜馬はずしりとした包みを提げて、豊玉宗匠の後を追う。
その包みの中には。
「坂本君、落とすと事だ。缶詰はともかく、瓶詰は割れる」
「分かっちゅう」
竜馬の策は、缶詰や瓶詰を持って徳川慶喜に会いに行き、慶喜に時間が出来たら、それらを供する。
後世の「赤いきつね」のような保存食である缶詰や瓶詰は、軍用ということもあり、栄養満点。以て慶喜の時間節約と栄養確保ということで、供する。
その慶喜の食事の際、大政奉還を説くのだ。
「……む?」
赤松の目に、意気揚々と行く竜馬の後ろから、目つきの悪い男が忍び歩いてついていく姿が見えた。
「中村君」
赤松が静かに言うと、半次郎は物も言わずに、竜馬の後を付けようとした、目つきの悪い男を捕まえた。
「怪しい奴。君は何だ?」
男は吠えた。
「あっ、竜馬が行く! 行ってしまう! やっとここまで尾行してきて、捕まえるとこじゃったのに!」
「土佐弁? こん男、土佐者じゃ」
半次郎が締めを緩めると、男は呻いた。
「畜生! 竜馬に貸した借金、取り返してやろうと思うちょったのに」
岩崎弥太郎と名乗った男は、これまで散々、竜馬から「同郷の誼」だの何だの言われて、海援隊の運用資金として、金を貸していたことを愚痴った。
そして竜馬が後藤象二郎と京で落ち合うという情報を掴んだ弥太郎は、竜馬を締め上げて借金を返させようと手ぐすね引いていたらしい。
「まさか借金取りから逃げていたとは……」
赤松は天を仰いだ。
竜馬は幕吏に追われていたわけではなかった。
道理で豊玉宗匠が何も言わずに協力するわけだ。
そもそも、天下安寧のためと理解を示していたではないか。
「はっはっは」
赤松は笑った。
拍子抜けしたが、何となく、大政奉還が成功しそうな気がしたからだ。
「先生、この岩崎さんはどうします?」
「離してやれ、中村君」
「善かですか?」
「いいよ」
半次郎はあっさりと弥太郎を離した。
弥太郎は、竜馬を追って走り出した。
「坂本さんに伝えますか?」
「いや、いい」
豊玉宗匠がついている以上、今、この京において何人たりとも坂本竜馬に手を出せない。
「それに元々、坂本君自身の借金だ。放っておくさ、それより」
赤松は半次郎の肩を叩いた。
「これから忙しくなるぞ。日本の夜明けは近い。そのためにも励もう」
「チェスト!」
半次郎は得意の剣法の掛け声で答えた。
赤松はちょっとびっくりした表情をしたが、やがて破顔し、半次郎と二人で笑い合った。
そして二人は宇宙堂へと戻っていくのだった。
……慶応三年。
日本の夜明けを控えた、ある日の出来事であった、
【了】
「馳走になったぜよ。そいじゃ」
宇宙堂を出ると、赤松が呼んだ豊玉宗匠が待っており、「じゃ、行くぜ」と二条城への道へ誘った。
「悪いね、豊玉宗匠」
「いンや、他ならぬ宇宙堂さんの頼みだ。それに」
天下安寧の為だ、一肌脱ぐぜ、と笑った。
「じゃ、行ってくるきに」
竜馬はずしりとした包みを提げて、豊玉宗匠の後を追う。
その包みの中には。
「坂本君、落とすと事だ。缶詰はともかく、瓶詰は割れる」
「分かっちゅう」
竜馬の策は、缶詰や瓶詰を持って徳川慶喜に会いに行き、慶喜に時間が出来たら、それらを供する。
後世の「赤いきつね」のような保存食である缶詰や瓶詰は、軍用ということもあり、栄養満点。以て慶喜の時間節約と栄養確保ということで、供する。
その慶喜の食事の際、大政奉還を説くのだ。
「……む?」
赤松の目に、意気揚々と行く竜馬の後ろから、目つきの悪い男が忍び歩いてついていく姿が見えた。
「中村君」
赤松が静かに言うと、半次郎は物も言わずに、竜馬の後を付けようとした、目つきの悪い男を捕まえた。
「怪しい奴。君は何だ?」
男は吠えた。
「あっ、竜馬が行く! 行ってしまう! やっとここまで尾行してきて、捕まえるとこじゃったのに!」
「土佐弁? こん男、土佐者じゃ」
半次郎が締めを緩めると、男は呻いた。
「畜生! 竜馬に貸した借金、取り返してやろうと思うちょったのに」
岩崎弥太郎と名乗った男は、これまで散々、竜馬から「同郷の誼」だの何だの言われて、海援隊の運用資金として、金を貸していたことを愚痴った。
そして竜馬が後藤象二郎と京で落ち合うという情報を掴んだ弥太郎は、竜馬を締め上げて借金を返させようと手ぐすね引いていたらしい。
「まさか借金取りから逃げていたとは……」
赤松は天を仰いだ。
竜馬は幕吏に追われていたわけではなかった。
道理で豊玉宗匠が何も言わずに協力するわけだ。
そもそも、天下安寧のためと理解を示していたではないか。
「はっはっは」
赤松は笑った。
拍子抜けしたが、何となく、大政奉還が成功しそうな気がしたからだ。
「先生、この岩崎さんはどうします?」
「離してやれ、中村君」
「善かですか?」
「いいよ」
半次郎はあっさりと弥太郎を離した。
弥太郎は、竜馬を追って走り出した。
「坂本さんに伝えますか?」
「いや、いい」
豊玉宗匠がついている以上、今、この京において何人たりとも坂本竜馬に手を出せない。
「それに元々、坂本君自身の借金だ。放っておくさ、それより」
赤松は半次郎の肩を叩いた。
「これから忙しくなるぞ。日本の夜明けは近い。そのためにも励もう」
「チェスト!」
半次郎は得意の剣法の掛け声で答えた。
赤松はちょっとびっくりした表情をしたが、やがて破顔し、半次郎と二人で笑い合った。
そして二人は宇宙堂へと戻っていくのだった。
……慶応三年。
日本の夜明けを控えた、ある日の出来事であった、
【了】
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