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7話
しおりを挟むライアンは今、ベッドにいる。自室ではなくリリのベッドで彼女の隣で横になっていた。ライオンの姿でだ。普段の獣人の姿で同じことをしようものなら即刻叩き出されるだろう、リエラに。リリに同意を取ってあるから叶ったに過ぎないがライアンにとっては天国であり、また地獄でもある。
最初はベルで呼ぶのを躊躇っていたリリだが、毛皮の誘惑には勝てなかったらしい。既に何回目かの同衾で彼女はライアンの鬣に顔を埋めモフモフとした逞しい身体に抱きついて寝ている。遠慮は微塵も見られない。良い傾向なのだろうが、ライアンは大変だ。好きな女が抱きついている状況で不埒な真似をしないよう己を律さなければいけないのだから。
来る前に毎回数回は抜いているが、元々獣人は絶倫だ。抜いても抜いても結局勃ってしまう。寝る時は絶対に腹を下にして寝ているから一部分が硬いことに気づかれない。そして良い匂いのするリリにゼロ距離で甘えられながら自分の中の欲望と戦う日々。
(柔らかいものが…当たってる)
リリはリエラが選んだ夜着を着ている。所謂夜の営みで使う生地がほぼなくスケスケのものではなく、普通の白いもの。だがコルセットも何もつけてない状態でぎゅーぎゅー抱きつかれればフニュ、と彼女の胸が当たるのである。自称紳士なライアンは女性の胸をジロジロ見ることはしない。故にリリの胸の大きさも知らなかったのだが、感触からして結構なものを持っているようだ。そうなればもう、抜こうが関係なく分身が熱を持ち始め滾ってしまうのは仕方のないことである。
起きているから不埒なことを考えるのでさっさと寝ようとした時、しがみついているリリからむにゃむにゃと声が聞こえてくる。寝言か、うなされてないなら良い…。
「…ライアン様…大好き…」
「!??」
グリン、と凄い勢いでリリの方を向いた。その時動揺のあまり身体を動かしてしまった。リリがゆっくりと目を覚ましてしまう。
「……?…っっっっ!」
彼女の顔が林檎みたいにみるみる真っ赤になっていく。ライアンが困惑しているのを見て、夢だと思っていたのに口に出していたと察してしまったようだ。
「…あの…申し訳ありません」
誤魔化すと思っていたが、彼女は謝罪の言葉を口にする。隠していたことがバレて、追い詰められている者特有の雰囲気が出ていた。つまるところ、今の言葉は親愛だとか恩だとかそういった類のものではないことに他ならない。
「お世話になっている分際で、身の程知らずも良いところです忘れてくださいご不快ならすぐにでも出てい」
咄嗟にライアンは信じられない行動に出た。捲し立てる彼女の唇を塞いだのである。ただ塞ぐだけではない。人よりも大きな口で小さい唇を喰み、隙間から舌を捩じ込んだ。同時にライオンの姿から普段の獣人の姿に変化し、唇を舐め品のない音を立てて舌をジュルジュルと吸ってやる。
んっ!…ぁっ…ふぅ…」
驚愕を露わにするリリだが、その口から艶めかしい声が零れ落ちる。声を聞くだけで勃ち上がっていた分身が完全に天を向き始めていた。ライアンの舌は人間と違いザラザラとしている。彼女からしたら未知の感覚だろうが、その目は既に蕩けつつあり気をよくしたライアンは突起のある舌で頬の内側をなぞってやる。気持ちが良いのかリリはライアンのシャツにしがみつき、豊かな胸を押し付けた。
堪らず自称紳士的な仮面を脱ぎ捨てたライアンはリリを押し倒し、覆い被さった。やっと解放された唇はぷっくりと赤く腫れており色っぽい。ライアンが身を屈め顔を近づけると、リリはこれ以上ないくらいに顔を赤くして瞠目している。
「…俺のことが好きなのか」
「……」
もう遅いのにリリは唇を固く引き結び、黙秘を貫こうとしていた。だからライアンはまたもや口付け、下品な音を立てて舌を吸い唾液を啜る。甘いとすら感じる彼女の唾液を堪能していると彼女が音を上げ、正直に言うから許してくれと涙目で懇願した。正直泣き顔に唆られるものがあったが、これ以上は可哀想なので舐めしゃぶっていた唇を解く。
「…好き、です。初めて会った時から」
観念したのか、ライアン相手に頑なな態度は何をされるか分からず危険だと判断したのか素直に気持ちを告げた。初めて会った時から、とはライアンと同時ではないか。もっと早く告げていれば、と少し後悔するがこれからいくらでも言う機会はあると気を取り直す。
「そうか、俺もリリのことが好きだ…」
碧い瞳が驚愕に染まり、何度も瞬かれる。思いもよらないことに理解が追いついていないのだろう。何ならこのまま求婚しようとしていたが、次の彼女の言葉で全て吹き飛んだ。
「…嬉しいです…けど、私はあなたに相応しく有りません」
幸せの絶頂から叩き落とされライアンは狼狽えた。相応しいとは何だ。ライアンがリリを望んでいるのに、相応しいかどうかはライアンが決めることだ。何を恐れ、ライアンの愛を拒むのか。
「相応しくない?何故そんなことを…理由は?」
「…私は…清い身体ではありません。それどころか、汚れています。王族で、国を守る誇り高い騎士団長たるあなたには相応しくないのです」
振り絞るような、震えた声は悲痛に満ちている。瞳からはポロポロと涙が溢れ、白い頬を伝う。ライアンは彼女の叫びに冷静に耳を傾ける。
(…知っていたよ)
獣人は鼻が利く。出会ったばかりの彼女から別の匂いがしたことにも直ぐに気づいた。当然今すぐ匂いを消し去りたいという激情に突き動かされそうになるも、男に怯える彼女の様子から容易に踏み込むことも出来ない。いつか話してくれたら、と淡い希望を抱きつつ傷ついた彼女が元気を取り戻すのを待っていた。匂いは数週間も経てば消え、ライアンは当初感じた激しさが嘘のように穏やかにリリと接していた。
ライアンが既に純潔でないことを知っていた、とリリが知ったら…今度こそ邸を出ていってしまうかもしれない。嘘を吐くことになってもライアンは彼女を失わない僅かな可能性を取る。
「そのようなこと、なんの問題にもならない。俺だってとっくに童貞では無いのだから相手に清らかさを求める資格はないし、純潔か否かで俺のリリへの気持ちは変わらない。汚れてる?どこがだ?君は美しい」
目を合わせてきっぱりと言うとリリは感極まったように両手で顔を覆ってしまう。うーうーと何やら唸っている。
「…そういうこと言われるともっと好きになっちゃいます」
「それは良い、もっと好きになってくれ」
「…私、隠してることたくさんありますよ」
「知ってる、リリが話せるようになるまで何も聞かない。過去がどうであろうと気持ちは変わらない、好きだ」
再び嘘を吐いた。彼女の素性については既に把握してるが、ライアンの方から追及することはしない。リリは両手を顔から離すと徐にライアンに抱きついた。そしてわざとなのか、ライアンの硬くなったものに自らの腰を擦り付けてくる。ライアンは積極的なリリに歓喜すると同時に狼狽えた。
「…私昔のこと、全部忘れたいんです。ライアン様に上書きされたい」
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