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6話
しおりを挟む「結局のところ、リリ嬢に本気なんですか?」
ふい、と目を逸らすライアンだが尻尾がパタパタと揺れているし耳もピコピコと動いている。言葉はないが同意とみて間違いない、と察したルイスは「でしたら尚更」と真面目な顔で続けた。
「彼女の素性は調べた方が良いです。人間の男に対する怯え様、大量の金貨、それにあの見た目。確実に平民じゃない。もし彼女を探してる相手がここを見つけて誘拐だなんだと難癖を付けられたらどうするんです?先んじて対策を立てないと」
「分かってはいるが、過去を詮索されて良い気分になる人間はいない。嫌われたらどうしてくれる」
「結局大事なのはそこですか、急にポンコツにならないでくださいよ。明らかにした方が彼女のためです、諸悪の根源が分かればライアン様なら秘密裏に処理するのは簡単でしょう?」
至極当然という風にルイスは同調を求めてくる。今までは不要に詮索するべきではないと二の足を踏んでいた。偽名を使い、素性を明かさないリリ。男に対する怯え様。忘れたい過去があったのは言うまでもない。触れない方が彼女のためなのだと思っていたが、苦しめていた元凶が生きている限り彼女はそいつの魔の手に怯えることになるのだ。その苦しみから解放してあげることこそ、彼女のためになるのでは?
「そうだな、よし。早いところ見つけて拷問にかけた上で八つ裂きにする」
「そんなキリッとした顔で言うことじゃないですよ~。この人こういう奴だって忘れてたわ」
ライアンは冷淡に見られやすいが、懐に入れた者にたいしては優しく、そしてそれらに害を成そうとする輩に対してはどこまでも残酷になれる性質である。名君と謳われた初代王の再来などとんでもない。見知らぬ100人を救うより懐に入れた1人だけを救う方を躊躇いなく選ぶ男だ。ライアンが王になったら即暴君として名を轟かしていたに違いない。最も本性を知るのはほんの一握りだが。
ルイスは早速調査に取り掛かるため執務室を出ようとしたが、ふと立ち止まり思い出したように言った。
「そういえば、隣国のゴタゴタについてライアン様どれくらいご存知です?」
「新聞でおもしろおかしく取り上げられているくらいだな」
我が国にも隣国のスキャンダルは連日噂好きな貴族達によって広められている。
何しろ歴史が古く、そして大貴族にしては珍しく愛妻家と名高かったオーラン前公爵と息子の公爵が、実は妻を監禁し暴力で支配し、しかも妻で発散できない欲望を他国から買い入れた奴隷や身寄りのない女性達で発散していたという、悍ましい事実が前公爵夫人によって告発されたのだから。
これだけでは終わらない。オーラン公爵家には「愛が重い男」が生まれやすい。愛情深いという意味ではなく、相手に対して病的なまでに執着心や愛情を持ち、相手の全てを自分の支配下に置かなければ気が済まない、という意味だ。歴代公爵夫人は社交の場に出ることはなく、ほぼ邸に引き篭もっていたと言われており前公爵夫人、そして現公爵夫人も例外ではなかった。公爵達は夫人は外に出るのが好きじゃないと説明していたが、実際のところ監禁していたのだと明らかになり社交界を震撼させた。
前公爵夫人は告発後、とある新聞社の取材を受け自分が夫に、義理の娘が息子に受けた仕打ちを赤裸々に語ったのだ。結婚当初から外出することをよく思われておらず、夜会で義務的に貴族男性と会話をしてから夫が豹変、部屋の外にすら出してもらえなくなり少しでも口答えをすると暴力を振るわれるようになったと言う。酷い時は男の使用人と目が合った、と難癖をつけ使用人の目を潰したこともあるという前公爵達の苛烈さに国民は震え上がった。
「公爵邸に騎士団が踏み込む1週間前に強盗が押し行って、公爵夫人を連れ去った。その後強盗の乗っていた馬車が崖から転落してるのが発見されたけど強盗の遺体も夫人の遺体も見つからなくて、結局亡くなったってことにされたんです」
「それも知ってる」
その事件がなんだと言うのだ。確かに痛ましい事件ではあると思うが、所詮その程度の感情しか抱かない。ライアンはやはり根っこのところは他者に対して酷薄なのだ。
「俺ゴシップ誌好きじゃないですか?そこには実は公爵夫人は生きてて、死んだことにして公爵から逃げたんじゃないかって。強盗も全部自作自演で夫人を逃すために立てられた計画じゃないかって推察が。俺当たってると思うんですよ。奴隷を買うのも人身売買も禁止されていて犯したら財産没収爵位剥奪、一生塀の中か国外追放です。被害者の立場である夫人が連座で罪に問われることを哀れんで、死んだことにして逃したんですよ」
ルイスは自信があるのか意気揚々と自分の考えを語ってくる。
「一応筋の通った推理ではあるが、所詮憶測だろう?そもそも何で急にこんな話を」
「亡くなった公爵夫人、銀髪の若い女性らしいですよ。それに加えて男に対する恐怖心…有り得ますよ」
ルイスは真剣な表情で告げる。ライアンの耳がピクッと動く。
「…銀髪の若い女性はそこそこいるし、その中に男が駄目な女性が居ても不思議ではないだろう」
「まあ、そうですけど」
「こじつけ甚だしい。それに…公爵夫人が仮に生きていたとしてだ。折角その夫から解放されて新しい人生を歩めるんだ。根拠のない憶測で騒ぎ立てて、何処かで暮らしてる元公爵夫人の暮らしが脅かされては大変だ。外では言わないようにしろ」
強い口調で言い聞かせるライアンにルイスは綽々と従い、今度こそ執務室を出て行った。
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