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後日談…①
しおりを挟む卒業パーティーから一週間が経った。ヴィオラとアルフレッドの婚約は滞りなく纏まり、国王陛下からも許可を頂いた。これにてヴィオラはアルフレッドの正式な婚約者となり、アルフレッドが夜会やパーティー等に出席する際は同伴することになる。
ヴィオラはデビュタントを除き、そういった催しはほぼ避けて来た。どうしても出席しないといけない時は兄にエスコートを頼み、用が済んだらさっさと帰っていた。
そんなヴィオラが今後は「ハウザー公爵令息の婚約者」として扱われるのだ。想像するとちょっとお腹が痛くなるが、これはもう慣れるしかない。とりあえず避けまくっていたお茶会やパーティーにも出席するようにしなければいけない。ヴィオラの引き篭もりを心配していた幼馴染も少しは安心するだろう。
今日はそんな幼馴染、メアリー・ファルマ子爵令嬢の屋敷に遊びに来ている。彼女はストロベリーブロンドのフワフワとした髪に薄紅色の瞳の可愛らしく、明るい性格の女の子。ヴィオラの母とメアリーの母は学生時代からの友人で、その縁で子供の頃からヴィオラはメアリーと顔を合わせる機会が多かった。人見知りで話すのが苦手、気づくと自分の世界に入ってしまいがちなヴィオラを引っ張ってくれていた、頼もしい親友だ。
メアリーにはヴィオラの口から婚約の話をしたかったので、手紙を出した上で直接会いたいと書いておいた。色々予定が立て込んでいたメアリーと会う機会が整ったのが今日。
メアリーがヴィオラを客間に案内し、メイドがお茶とケーキを用意して退室すると紅茶を一口飲む。ティーカップをテーブルに置くとメアリーは途端に目を輝かせた。
「手紙をもらった時から直接聞きたくてしょうがなかったのよ!婚約した話も驚いたけど、相手があのハウザー様でしょ?ヴィオラ時々図書室で見かけるって言ってたけど…何があったの?」
ヴィオラはメアリーにも図書館での交流は黙っていた。何となくヴィオラの中の秘密にしておきたかったのだ。親友に隠し事をする罪悪感を常に抱えることになっても。そんなヴィオラの浅ましさを正直に告げるもメアリーは怒ることもなく、納得したようにうんうん頷く。
「それは誰にも言いたくないわね、私も隠すわ絶対。ヴィオラ、ハウザー様のこと大好きだったものね、納得だわ」
ヴィオラは飲んでた紅茶を吹き出しそうになった。咳払いをして喉を整える。
「ちょっと、大丈夫⁈」
「だ、大丈夫…ねぇ、メアリーは私のアル…フレッド様への気持ち気づいてたの」
ヴィオラの変な間に意味深な笑みを浮かべながら、メアリーは話し始める。
「当たり前でしょ何年一緒にいると思ってるの、ハウザー様を見かける度ヴィオラどんな顔してたか知らないの?物凄く熱っぽい目で見つめてたわよ。あーこの子本当に好きなんだなって。けど相手がねぇ…ライバルは星の数だし、女子には冷たいし。親友の恋は応援したかったけど、流石に高嶺の花過ぎると諦めてたのよ。けど接点があったとは言え、向こうもヴィオラのことが好きだったなんてロマンチックね」
メアリーに言われて、ヴィオラは改めて自分の幸運を自覚する。好きな相手は女子に絶大に人気を誇り、でも女子には冷ややかで。そんな相手と話す機会を得て、こっそりと交流を重ねて。向こうも自分を好きだと言ってくれて婚約者になれて。
一週間前のことを思い出して頬が朱に染まり出す。今でも思い出すと胸がドキドキする、そんな出来事だった。
…ドキドキするのはそれだけが理由ではないけれど。
「ヴィオラったら顔が赤いわよ?一体どんなプロポーズの言葉を頂いたのかしら」
メアリーが根掘り葉掘り聞いてくるので話せる範囲で話すと、またメアリーが色めき立って…の繰り返しでヴィオラは一線を超えたことを除いて洗いざらい話してしまった。話しすぎたので紅茶で喉を潤す。
流石にメアリーもヴィオラがそこまで進んでるとは思いもよらないだろう、と安心し切っていた時。
「ハウザー様の屋敷に泊まったんでしょ?……違ったら本当に申し訳ないんだけど…」
恐る恐る、案に一線を越えたのか聞かれたヴィオラは今度こそ本当に咽せた。メアリーにはその動揺っぷりで完全にバレてしまったらしく、「ヴィオラが大人になってしまって、寂しいわね」としみじみと呟いている。
顔から火が出そうなほど恥ずかしい。ヴィオラは両手で顔を覆い俯いた。メアリーは余計なことを言ってしまったと肩を落としている。ヴィオラはどうにか気持ちを立て直す。何故バレたのか、恥ずかしがるよりもそれを知りたかった。
メアリー曰く婚約者と経験済みだという知り合いとヴィオラが似た雰囲気を纏っていた、色っぽく艶やかで、女として一皮剥けたようだと。
(…なんでそこまで分かるの…)
親友の勘の鋭さにヴィオラは恐れ慄いた。最早彼女に隠し事は不可能。アルフレッドとの邂逅がバレなかったのは奇跡に等しい。
あの時のヴィオラと今のヴィオラは違う。あの時は秘密の関係を誰にも知られたくない、という必死さとある種の執念が加わった結果隠した通すことが出来た。
今回駄目だったのは…ただ単に浮かれていたからだ。好きな人と両思いになれてあんなことやそんなことまで経験してしまったのだから無理もない。ヴィオラは緩み切っていた、だからバレたのだ。
「卒業式の日にそのまま泊まったんでしょ?公爵夫妻やハウザー様のお兄様はいらっしゃらなかったの?」
「いらしたけど、皆様にはアルフレッド様と婚約してくれてありがとう、ととても感謝されて。若い2人でごゆっくり、とすぐ部屋に戻ってしまわれたわ。次の日に改めてちゃんとご挨拶したけれど」
ヴィオラはあの日のことを思い返す。
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