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エピローグ
しおりを挟むズルリ、とヴィオラの中から自身を引き抜いたアルフレッドは持っていた何枚かのハンカチでヴィオラの秘所を拭いた。その後自らのものについた血の混じった白濁液を拭き取るとシャツを身につける。ぐったりと脱力するヴィオラに下着とブラウスだけ着せると、横抱きにして窓際のソファーに移動させた。
背もたれに寄りかかるヴィオラの身体は鉛のように重かった。腕の一本を動かすのも億劫だ。そんなヴィオラの頭をアルフレッドはずっと撫でながら解かれたダークブラウンの髪を弄ぶ。そしてちゅ、ちゅ、とつむじ、額、頬の順にキスをする。行為中も十二分に甘かったアルフレッド、事後もそれは変わらない、寧ろ加速していた。
「ヴィオラ、身体痛くないか?」
「…腰と足の間が痛いです」
「…ごめんな、やりすぎた」
「怒ってないですよ…寧ろ」
この痛みも怠さも全て愛しいアルフレッドから与えられたもの。厭うことなどあり得ない。ヴィオラの身体は幸福感で満たされていた。
「寧ろ、なんだよ」
「先輩なら分かると思い…んんっ」
「先輩じゃなくてアル、だろ。けど、先輩って呼ぶのヴィオラだけだし、これはこれでいいな特別感あって」
名前で呼ばなかったことを咎めるように口付けた癖に。ただキスしたかっただけなんじゃないかと思えてくる。
「…あ、家の馬車。そろそろ迎えに来る時間なんです」
「ああ、クライン家の馬車なら来ないぞ?プロポーズが失敗しても成功しても俺が家まで送ると夫妻に伝えておいたからな」
「…聞いてない」
「ついでに夫人から今日は家に帰さなくてもいいと言われている。このままうちに泊まるか?」
ヴィオラはおっとりしてる割に食えない性格の母親の顔を思い浮かべた。ほぼほぼ婚約が成立しているとはいえ娘を相手の家に送り出さないで欲しい。
「良いです、帰ります」
「…俺はもっとヴィオラと居たい。これからは今までみたいに気軽に会えなくなるし」
そんな甘えた声で言われると心が揺れ動いてしまう。だが駄目だ、爛れた夜を過ごすなんてとんでもない、と鋼の精神で誘惑を断ち切る。
「駄目です、もう腰がもたないので…」
「ん?いやもうしないぞ?泊まると言っても寝室は別で客室に通すつもりで…え?また抱かれると思ったのか?…ヴィオラって本当いやら…んぐっ」
両手で彼の口を塞いだ。モゴモゴと何か言っている。こんなに厭らしくなったのは誰のせいだと思っているんだ、とジトっとした目でアルフレッドを睨む。同時に抱かれている時の自分の乱れっぷりを思い出し赤面する。
凄いことばかり口走ってしまった気がする。下も触れ、好きに動いて、もっと突いて、極め付けは中に出して、だ。もう頭が沸騰してしまう。穴があったら入りたい、たった今穴に散々入れられたばかり…思考まではしたない方向に引っ張られ始めている。本当にどうしよう、と頭を抱えたくなった。
「どうした」
「あの、私のさっきの様子忘れて」
「無理」
即答。全く期待はしていなかったけど、アルフレッドの記憶から自分の痴態を消し去るにはどうしたら良いのだろうか。切実に悩む。
「無理に決まってるだろ、ヴィオラの可愛い声も赤く染まった頬も、もっと突いてって強請る厭らしい姿も、気持ちよくて蕩けた顔も、全部全部目に焼き付けた、忘れるなんて耐えられない」
「だから一々言わないでっ…」
学年一の秀才、その頭脳を間違った方向に生かしている。
「ヴィオラ、抱いてる時時々タメ口だったよな、今も」
「…?そうでしたっけ」
「そうだよ、正直タメ口で話されると…思い出して勃ちそうになるんだ、だから暫く敬語で話してくれ」
「…はあ、善処します」
とんでもないことを真顔で言い放つアルフレッドに困惑しつつも承諾した。話す度に興奮されて押し倒されたら身体が持たない。どこまで本気か分からないが、敬語で話すことを徹底しようと心に決めた、自分の腰の為にも。
「ヴィオラが忘れて欲しいと言うのも分かるけど、絶対無理だ。可愛い声と顔真っ赤にしながら強請る姿、ヴィオラに会えなくて寂しい時に思い出したいから」
思い出して、どうするつもりなのだろう。気になったけど、薮をつついて蛇を出すのが怖いので触れないことにした。
「…馬車が来る時間てことはパーティーもそろそろ終わります?」
「そうだな」
「アルが居なくなって皆寂しがってますねきっと」
「俺とヴィオラが図書室でぐちゃぐちゃになってるなんて誰も思わないよな」
「言い方が卑猥なんですよ…婚約の話知られたら騒がれるんでしょうねぇ」
遠い目をして呟いた。そんなヴィオラをギュッと抱き締める。
「あー、絶対騒がれる。暫くの間は俺も顔出してヴィオラの盾になろうか?」
この人自分が何を言っているのか理解してないのか。今日卒業したというのにまだ学園に通おうとしている。王宮のどこかの部署に配属される予定なのに早々の職場放棄宣言、絶対許されない。心配してくれるのは嬉しいのだが、アルフレッドに頼ってばかりもいられない。
「大丈夫です、これくらい自分で上手く対処できないとアルフレッド・ハウザーの婚約者は務まりません。それにこれからはもっと人と交流しようと思ってます」
「ヴィオラ…」
ヴィオラを抱き締める腕の力が強まった。苦しい、骨が軋む。手加減を、と背中をトントンと叩くと力が弱まった。
「ヴィオラが積極的に人と関わるのは良いことだけど、今より人気でそうで心配だ…いやもう俺の婚約者だし相思相愛だし、付け入る隙ないけど」
「今より人気?私人気なんて全くないですよ?」
「いやヴィオラ学園の男子の間だと才色兼備の高嶺の花だって言われてるぞ。お淑やかで物静かなところがいいって」
誰だそれは。高嶺の花?ヴィオラには高嶺も花の要素もない。
「そう言われてるの初耳ですよ…そもそも男子にどう思われてるか気にしたことないので」
「ああ、そうか。ヴィオラは最初から俺にしか興味なかったんだもんな」
うんうん、と1人納得するアルフレッド。事実だけど、本人の口から言われると何とも言えない気持ちになり、アルフレッドの腕の中で縮こまる。
「…そうですよ、私は最初からアルしか見えてなかったんですから」
顔を上げてクスリ、と微笑んだヴィオラの目に飛び込むのは、甘やかに細められた琥珀の瞳。凛々しくも整った顔には優しい笑みが浮かぶ。ヴィオラはこの人が好きだ、と再確認した。何度も諦めようとして、諦められなくて辛かった。けど自分を好きだと、愛していると言ってくれて身も心も彼のものにしてくれた。
釣り合わないだとか後ろ向きなことはもう言わない。彼と離れるなんて想像しただけで胸が張り裂けそうになるくらい、愛している。アルフレッドの隣に並んで堂々と胸を張れるように、これからもっと精進しなければ、と新たに決心した。
「ヴィオラ…」
「はい?」
「…微笑んだ上にそんな可愛いこと言わないでくれ…ヴィオラが可愛すぎてまた勃った」
…気のせいだろうか、お腹のあたりに何やら硬いものが。ヴィオラは身の危険を感じ慌て出す。
「え、いや、もう色々限界でっ!」
「何もしないから、ちょっと俺の中のヴィオラを満たすから、暫くこのままでいさせてくれ。そうしたら明日からまともな人間生活を送れる」
「…俺の中のヴィオラって何…まともな人間生活って、逆にこれまでどうやって生活してたんですか?」
「これまでは普通に出来てたけど、ヴィオラを抱いたらタガが外れた、足りない」
ヴィオラは栄養素の類ではない。アルフレッドの新たな一面を知ってしまった。この人凄く残念な人なのかもしれない。けど、すりすりと頬に鼻を擦り合わせるアルフレッドは格好いいというより可愛い。やっぱり好きで、昨日よりもっと彼を好きになった。
「ヴィオラやっぱ泊まっていかないか?もっと話したい」
「…良いですよ、アル」
結局折れてしまうヴィオラ。それから迎えの馬車が来るまで、ひたすらイチャイチャしていた。
後日、アルフレッド・ハウザーとヴィオラ・クラインの婚約したという話が学園中に広まった。当然ながらヴィオラの元には沢山の人が押し寄せたのだが、それを(表面上は)スマートにあしらい、アルフレッドとの出会いについて聞かれた際見せた真っ赤な顔を見た男子の何人かはうっかり惚れてしまったとか。2人の婚約に女子だけでなく、ヴィオラをひっそりと高嶺の花と讃えていた男子も阿鼻叫喚の嵐となったそうだが、アルフレッドにしか興味のないヴィオラは知る由もない。
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