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しおりを挟むしかし、王宮内で媚薬をしかも騎士団長に盛るなんて相手は自分の首が飛んでも構わないのか、それともバレるわけがないと高を括っているのか…考え始めて辞めた。どこの誰かも知らない人間の動機には全く興味がない。最優先すべきは目の前のテオドール。昔夜会で媚薬の類を盛られたことがあり、盛った令嬢も親も含めて2度と自分の前に顔を出さないよう徹底的に対処したと聞く。少しは耐性があるのかもしれないが、盛られた薬の材料や効能が分からないし調べる時間があるなら、さっさと発散させた方が良い。運の悪い事に媚薬の緩和剤は在庫切れ。女性が盛られると色々大変だが幸いな事にテオドールは男。薬を精として発散させれば治るはずだ、と自分のことは気にせずにどうぞ!と促しているのだが、何故か嫌がっている。自分は耳を塞いで扉のほうを向いているというのに。テオドールは険しい顔でリゼットを睨んでいる。
「多分2、3回発散させれば身体も楽になると思うんですよ。それにいつまでも体内に薬が残っているとエヴァンス団長の身体にどんな影響があるか分かりません。ここは覚悟を決めてください」
「なら君が外に出ていてくれ!」
「それは無理な相談ですね、この状態の団長を残して出ていくことはできません。それに一服盛った張本人が来る危険がありますよ、この状態では襲われて終わりです。さっきソファーに移動させた時身体にあまり力が入ってませんでした。他人の手を借りないと達せないように色々調合されているかもしれません。全く、作った人間の顔が見てみたい…まあ、とにかく自分でやって無理そうなら私が手伝いますのでやるだけ…」
「断る!」
とさっきからこの調子で話が進まないのである。会話をしているうちにテオドールの状態はどんどん悪くなるし下半身の盛り上がりも酷くなっている。トラウザーズを寛げたら凄い勢いで飛び出すのが予想できる。話す時うっかり視界に入らないよう目線を上にしていないと、流石のリゼットも恥ずかしいのだ。しかし、いつまでもこの状態が続くのはテオドールの身体に負担がかかる。いっそ無理矢理にでも発散させるか、と思い立つがリゼットにも年頃の乙女としての恥じらいが多少は残っている。流石に6歳年上の男性の股座に手を突っ込んで扱く真似は憚られるのだ。どうしたものか、と思案する。
「しかし、団長が執務室で媚薬を盛られるなんて。珍しい、というか信じられないですね」
リゼットは適当に雑談をする事に決めた。テオドールは思いの外頑固で、このまま押し問答を続けても埒が開かない。気分転換で会話でもすれば、頑固な騎士団長様も気が変わって折れてくれるかも、という一縷の望みに賭けた。それでも無理な場合、申し訳ないが少々強引にでも発散していただく他ない。テオドールの身体の為なので不問に処して欲しい。
しかしデリカシーに欠けているリゼットはテオドールが触れられたくない部分にザックリと斬り込んだ。険しい顔に眉間の皺まで追加された。美形が台無しになりつつある。
「人が触れられたくないことに容赦なく触れるな君は」
吐息混じりの不機嫌な声が返ってきてほんの少し焦った。
「え…あー、申し訳ありません」
思ったことをそのまま口にしてしまうリゼットの悪い癖が出た。が、気分を害したと思ったテオドールは表情を変えないまま口を開いた。
「…まあ気が緩んでいたんだろう」
「団長でも気が緩むことあるんですね」
「どこぞの薬師が食事の誘いを受けてくれたからな、柄にもなく浮かれてこのザマだ」
「薬師と食事、それは…ん?」
その薬師、自分では?とリゼットは目を丸くする。テオドールはそっぽを向いてしまった。薬のせいで元々顔は赤いので、照れているのかは分からない。というか表情筋の動きが活発ではないので顔が赤くなくても判断がつかなかっただろう。
そう、リゼットはテオドールに食事に誘われたのだ。何でも気になる店があるが女性客ばかりで男一人では行きづらいから、との理由だった。その店はシーフードを使った料理が美味しいと評判で、リゼットもシーフードが好物だったし奢ってくれる、というので受けたのである。テオドールからしたら誘っても面倒でない女の顔見知りがリゼットしか居なかったのだろう。そもそも同性の知り合いを誘って行けばいいのでは?と思ったが「友達居ないのかな」と少し不憫に感じたので口には出さなかった。リゼットも友達は少ない癖に上から目線である。
それ以前からテオドールは研究に没頭して食事を疎かにするリゼットに対し、母親のように小言を言い職員用の食堂に連行することが多かった。最初は鬱陶しいな、と感じていたが「研究するにも何もするにも身体が資本、だから食べろ」と言ってることは正論なので大人しく耳を傾けてはいた。テオドールの言った通りちゃんと食べるようになると身体の調子が良くなり、研究も捗るようになった。
いや、今そんなことはどうでも良いのだ。問題は。
「何故私が誘いを受けると浮かれるんですか」
テオドールは答えない。黙り続けている。リゼットはこういうことは苦手だ。他人が何を考えているか何て分からない。なので自力で辿り着こうとすると明後日の方向に向かってしまう。
「そんなに誰かとお店に行きたかったんですか」
「何でそうなるそんなわけないだ…っ」
突然叫んだため、身体に負担がかかったようだ。息を整えている。さっきから叫んでばかりだ、それもリゼットが要らんことばかり言うからなので申し訳ない気持ちになる。
「…何で分からない」
「申し訳ありません、私察しろと言われるのが何よりも苦手で」
責められたけどリゼットには分からないのだから仕方ない、と謝ることしか出来ない。
「…君はそうだろうな、元より気付いてもらおうなどと思って…何を言ってるんだ俺は…ノインツ嬢、耳を塞いで後ろを向いていてくれないか」
どういう心境の変化なのか、あれ程嫌がっていたのにしてくれる気になったようだ。恥ずかしがっているけど。よく分からないが、良かった、とリゼットは笑顔になる。
「了解しました、時間はどれくらいかかります?団長の状態からすると5分で軽く3か」
「頼むから黙って後ろを向いてくれ」
リゼットは耳を塞いで彼に背を向けた。
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