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それが運命だったんだもの…①

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「今8週目に入ったとこですね。
おめでとうございます」


「は……い…!」


__金曜日

仕事が休みな今日、勇さんと一緒に病院に行き、妊娠の検査を受けた。

ドラッグストアで検査薬を買って自分で確認したんだから、今更驚く事もないんだけど。

でもやっぱり病院の先生に言われると、改めてグッときちゃった。


私、ホントに妊娠してるんだ。
ホントに赤ちゃん出来たんだ。

私…お母さんになるんだ…!


ついついまた感動していると、先生は私に小さな写真を渡してくれた。


「ここに写ってる、コレが赤ちゃんね」


「わぁ…!」


先生が指さした部分には、まだ全然人間っぽくないんだけど確かに何か写ってるの。

これが、私と勇さんの赤ちゃんなんだね!



「これからひと月に1回、検診に来て下さいね。
次の時には、母子手帳交付の為の書類をお渡ししますから」


「は…はぃっ」

ぺこりと頭を下げて診察室を出ると、待合室の勇さんが座ってるソファに駆け寄った。


「どうだった?」


「今8週目だって!
これ見て。
これが赤ちゃんだよ」


先生からもらった写真を勇さんに見せた。

エコー写真だから白黒でちょっと見にくいんだけど、でも間違いなく赤ちゃんが白く写っている。


「これ…か…。
まだ何だかわかんねぇな」


「ふふっ
でも今から成長が楽しみだね。
男の子になるかな?女の子かな?」


まだ全然膨らんでもないお腹をさすりながら一緒に写真を見ていて、スゴく幸せな気分になった。


こんなかけがえのない命をなかった事にしようと考えていた時があったなんて、信じられない。

大丈夫だよ。
誰に何を言われたって、私と勇さんでちゃんと産んで育てるんだからね。



人生初の産婦人科を、まるで新婚夫婦みたいに手をつなぎながら一緒に出た。


「…ふーっ
産婦人科なんて初めて来たな」


「私だって初めてだよ。
待合室にいた人、みんなお腹大きかったね。
私もあんな風になるのかなぁ」


「そりゃなるんだろうよ。
…さてと」


ここの産婦人科は、うちのアパートから少し遠い。

なので、まだ自家用車も持っていない私たちは交通機関を利用してやってきたのだ。



「せっかくこの辺りまで来たんだ。
昼飯でも食って帰ろうぜ」


「うん、そだね」


少し歩いて、私たちは色んなお店の並ぶ街の方まで向かった。


勇さんと知り合ってからデートらしいデートなんて、ほとんどしてないもんね。

せいぜい一緒にお買い物する程度かな?


だから、こうやって手をつないで外を歩くのが何だか楽しいの。

最近は何かと出費が多かったなぁ。
特に一番は、実家に帰る為の交通費。

この1ヵ月の間に、一体何往復したかしら。




本当なら適当なお店で安くあげたいお昼ご飯なんだけど、勇さんが指差して入った飲食店はおしゃれなレストランだった。


「こんな所、いいの?
お値段高いかも…」


「たまにはいいだろ。
優の懐妊祝いだ。
俺の財布から出すから、お前は気にするな」


「ありがとう」


食欲はつわりのおかげで相変わらずなんだけど、こんな時くらい雰囲気だけでも味わいたいもんね。


それにこんなお店なら、あっさりしたお料理とかあってそうだし。




そんなわけで。
白いレンガで出来たような、このおしゃれなレストランに私と勇さんは入ってみた。
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