上 下
53 / 76

しおりを挟む
仕事を終えて、いつものルートでアパートに帰った。



勇さんの機嫌が気になって、ちょっぴりビクビクしながら玄関のドアを開ける。


「た、ただいまぁ…」


玄関に靴はある。
返事はなかったけど、中にいるのは間違いない。

いつもならすぐに出迎えてくれるのに、それもないなんて。

やっぱりまだ朝の事、怒ってんのかなぁ。



おそるおそるリビングの方へと歩いていくと、そこにはテーブルに幾つかの書類を並べた勇さんが座っていた。



「あの、ただいま…」


一応もう一度だけ声をかけると、どうやら勇さんは今ようやく私に気付いたようだった。


「おぉ、お帰り」

「何してたの?」


朝の事はあんまり気にしてない様子だったのでホッとして私は勇さんの側に座った。

テーブルの上に置かれている幾つかの書類。
よく見てみると、それは求人だった。

職安とかから取り寄せたらしいものから、無料配布されている求人誌まである。


仕事増やすって言ってたけど、本気で考えていたんだ…。

収入の事を気にしていたけど、それはやっぱり私との結婚を意識してくれているからなんだよね。



「結構探したんだけど、なかなか条件の揃う仕事が少なくってな」


「ん…まぁ、ぼちぼちでいいよ」


仕事なんて増やさなくていいよ、とは言えなかった。

だんだんとお金のかかる事は増えていくんだもんね…。




__それはそうと

「…ね、勇さ…」

「優、今朝はごめんな」


「え…」


今から言おうとした事を、勇さんに先に言われてしまった。

「なんか…まるで優の身体にがっついてる自分が情けなくなってな…。
いくつになっても、男は男だからさ。ちょっとくらい羽目外したい時もあるんだよ」


「…うん、大丈夫だよ」


「だけどな、こんな事をしたいって思うのは優、お前だけだからな…」


そう言って、側に座る私の手を握ってくれた。
なのに照れ隠しなのか顔は私じゃあなく、よそを向いている。


でも…スゴく、嬉しい。
私、今が一番幸せかもしれないな。


もっと幸せな事ができたハズなのに、まわりの反応が怖くて安心して幸せを感じる事ができないけどね。



「勇さん。
ご飯食べてお風呂入ったら、今夜は抱いてほしいな」


「は?
…無理しなくていいんだぞ。
したくない時は別に…」


「無理なんかしてないよ。
勇さんに抱かれたくなったの。
優しく、優しく…ね」


「……………バカ」


朝すれ違った心がまた寄り添っていくように、私と勇さんは唇を重ねた。


私…やっぱり今が一番幸せだぁ。
だけどこっちの幸せは…どうしたらいいのかな…。


甘い甘い雰囲気に、せっかく告白できるチャンスでもあったハズなのに。


高梨さんに答えを言わないといけない前日の今日もまた、勇さんには赤ちゃんの事は言えずじまいになってしまった…。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】騎士団長の旦那様は小さくて年下な私がお好みではないようです

大森 樹
恋愛
貧乏令嬢のヴィヴィアンヌと公爵家の嫡男で騎士団長のランドルフは、お互いの親の思惑によって結婚が決まった。 「俺は子どもみたいな女は好きではない」 ヴィヴィアンヌは十八歳で、ランドルフは三十歳。 ヴィヴィアンヌは背が低く、ランドルフは背が高い。 ヴィヴィアンヌは貧乏で、ランドルフは金持ち。 何もかもが違う二人。彼の好みの女性とは真逆のヴィヴィアンヌだったが、お金の恩があるためなんとか彼の妻になろうと奮闘する。そんな中ランドルフはぶっきらぼうで冷たいが、とろこどころに優しさを見せてきて……!? 貧乏令嬢×不器用な騎士の年の差ラブストーリーです。必ずハッピーエンドにします。

挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました

結城芙由奈 
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】 今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。 「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」 そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。 そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。 けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。 その真意を知った時、私は―。 ※暫く鬱展開が続きます ※他サイトでも投稿中

愛されていないはずの婚約者に「貴方に愛されることなど望んでいませんわ」と申し上げたら溺愛されました

海咲雪
恋愛
「セレア、もう一度言う。私はセレアを愛している」 「どうやら、私の愛は伝わっていなかったらしい。これからは思う存分セレアを愛でることにしよう」 「他の男を愛することは婚約者の私が一切認めない。君が愛を注いでいいのも愛を注がれていいのも私だけだ」 貴方が愛しているのはあの男爵令嬢でしょう・・・? 何故、私を愛するふりをするのですか? [登場人物] セレア・シャルロット・・・伯爵令嬢。ノア・ヴィアーズの婚約者。ノアのことを建前ではなく本当に愛している。  × ノア・ヴィアーズ・・・王族。セレア・シャルロットの婚約者。 リア・セルナード・・・男爵令嬢。ノア・ヴィアーズと恋仲であると噂が立っている。 アレン・シールベルト・・・伯爵家の一人息子。セレアとは幼い頃から仲が良い友達。実はセレアのことを・・・?

運命の番?棄てたのは貴方です

ひよこ1号
恋愛
竜人族の侯爵令嬢エデュラには愛する番が居た。二人は幼い頃に出会い、婚約していたが、番である第一王子エリンギルは、新たに番と名乗り出たリリアーデと婚約する。邪魔になったエデュラとの婚約を解消し、番を引き裂いた大罪人として追放するが……。一方で幼い頃に出会った侯爵令嬢を忘れられない帝国の皇子は、男爵令息と身分を偽り竜人国へと留学していた。 番との運命の出会いと別離の物語。番でない人々の貫く愛。 ※自己設定満載ですので気を付けてください。 ※性描写はないですが、一線を越える個所もあります ※多少の残酷表現あります。 以上2点からセルフレイティング

【完結】亡き冷遇妃がのこしたもの〜王の後悔〜

なか
恋愛
「セレリナ妃が、自死されました」  静寂をかき消す、衛兵の報告。  瞬間、周囲の視線がたった一人に注がれる。  コリウス王国の国王––レオン・コリウス。  彼は正妃セレリナの死を告げる報告に、ただ一言呟く。 「構わん」……と。  周囲から突き刺さるような睨みを受けても、彼は気にしない。  これは……彼が望んだ結末であるからだ。  しかし彼は知らない。  この日を境にセレリナが残したものを知り、後悔に苛まれていくことを。  王妃セレリナ。  彼女に消えて欲しかったのは……  いったい誰か?    ◇◇◇  序盤はシリアスです。  楽しんでいただけるとうれしいです。    

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

皇太子殿下の秘密がバレた!隠し子発覚で離婚の危機〜夫人は妊娠中なのに不倫相手と二重生活していました

window
恋愛
皇太子マイロ・ルスワル・フェルサンヌ殿下と皇后ルナ・ホセファン・メンテイル夫人は仲が睦まじく日々幸福な結婚生活を送っていました。 お互いに深く愛し合っていて喧嘩もしたことがないくらいで国民からも評判のいい夫婦です。 先日、ルナ夫人は妊娠したことが分かりマイロ殿下と舞い上がるような気分で大変に喜びました。 しかしある日ルナ夫人はマイロ殿下のとんでもない秘密を知ってしまった。 それをマイロ殿下に問いただす覚悟を決める。

【完結】そんなに側妃を愛しているなら邪魔者のわたしは消えることにします。

たろ
恋愛
わたしの愛する人の隣には、わたしではない人がいる。………彼の横で彼を見て微笑んでいた。 わたしはそれを遠くからそっと見て、視線を逸らした。 ううん、もう見るのも嫌だった。 結婚して1年を過ぎた。 政略結婚でも、結婚してしまえばお互い寄り添い大事にして暮らしていけるだろうと思っていた。 なのに彼は婚約してからも結婚してからもわたしを見ない。 見ようとしない。 わたしたち夫婦には子どもが出来なかった。 義両親からの期待というプレッシャーにわたしは心が折れそうになった。 わたしは彼の姿を見るのも嫌で彼との時間を拒否するようになってしまった。 そして彼は側室を迎えた。 拗れた殿下が妻のオリエを愛する話です。 ただそれがオリエに伝わることは…… とても設定はゆるいお話です。 短編から長編へ変更しました。 すみません

処理中です...