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高梨さんは私のスカートに手を入れると、そのまま足に触れた。


「ゃっ、待って!
ダメです!本当にダメなんです!!」


「大丈夫だよ、優しくしてあげるから。
ほら、もう黙って…」


高梨さんの唇が、私の唇に強く押し当てられた。


「…んっ……
ダ ダメ! 勇さ…んっ!」


「いいね。
もっと僕を呼んで、優。
そうしたら、とびきりステキな夢を見せてあげる」


「いやぁ!
夢なんていらないです!
私の事なんて早く捨てちゃって下さい!」


「捨てるだなんて、まさか。
こんなかわいい子猫ちゃん、誰にもあげないよ」


高梨さんのキスが唇から首筋、胸元の方にまで移動してきた。


高梨さんの匂いが鼻に感じた。
怖くてゾクゾクする!

嫌悪感で鳥肌さえ立ってきた。

好きでもない人に触られる事がこんなにも怖いなんて!


何だか気持ち悪くもなってきた。
早く、早く私から離れて…!!

不快感と嫌悪感が私を支配し、だんだんとそれがこみ上げてきた。

小鳥遊さんの付けてる香水、いつもより強いっけ。

胃の奥からあの空腹感独特の気持ち悪さが押し上げてくる感じ。



やだ…吐きそう。



「ぅ……………っ!」


私は手の平を口にあて塞いだ。


晩ご飯はまだ食べていない。

お腹が空いてると言えば空いてる。


吐くものなんてお腹の中にはないハズなんだけど、でもこみ上げてくる胃液が私に襲いかかってきたの。



そんな私の異変に気付いた高梨さんも、さすがに手を止めて私の様子を見た。



「優…?」


「………っ………っ」


両手を口元に当て涙目になった私に、高梨さんはゆっくり身体から下りた…。


「優……まさか君…?」


高梨さんの言うまさかの意味はまだわからなかったけど、こらえきれない不快感に私は起き上がって側のテーブル付近にあるゴミ箱に胃液を戻してしまった。



「…はぁ…はぁ…はぁ…っ」


ごく少量だけど胃液を吐き出した私は、にじむ涙を手の甲で拭いながら乱れる呼吸を整えた。


こんな情けない姿を高梨さんに晒すハメになるなんて思わなかった。
だけど、どうしてこんな事に?


高梨さんに触れられる事が、自分でも思ってた以上に不快だったって事なのかな…。



「優…。
は、君のお母さんは知ってるのかい?」


「え…?」


「…なんだ、君もまだ知らなかったって事か…。
そうだよね、そんな身体だって知ってたら僕と会うわけないもんね」


そんな、身体?

え、さっきの嘔吐といい、私の身体は……



「こんな事まで先を越されるなんて、僕も思わなかったよ。
彼氏の方は、さぞしてやったりなんだろうけどねっ」



まさか…

まさか私…


ちゃってたの!?



最近、身体の調子がちょっと悪いなとは思ってた。

だけどそれは寝不足だとか心配事だとか、そういう事が重なっただけ。

だから別に、そんな理由だなんて思わなかった。


__妊娠。


もちろん、性行為をしていれば可能性としてはあるんだけど…。


でも、まさか本当にできちゃってたなんてっ



「…どうしよう…」


まだ結婚もしていないのに、赤ちゃんの方が先にできちゃった。


何だか目の前の視界がぼやけてきた。

私は…とんでもない事をしちゃったんだ…!




「優…自分でも動揺しているようだね。
こんな事、うちの母さんたちが知ったらなんて言うかな」


「…………!」


…想像しただけで胸の奥からゾワゾワしてきた。

私は恋人がいるだけじゃない、妊娠までしてるのにお見合いをしたんだ!

どんだけ大バカ者なの!!



「……………………」


ドラマじゃあるまいし、こんな事が現実に起こってしまったなんて。



「かわいそうに、自分でもショックなんだね」


ゴミ箱の側でへたり込む私に高梨さんは寄り添ってきた。

子犬や子猫を扱うように私の頭を撫でてくれたのだけど、今の私には何も感じる事ができなかった。



「優、この事は母さんたちには内緒にしてあげるよ。
僕に任せてくれたら、何もなかった事にしてあげる」


「!」


何もなかったように?

つまりそれは、お腹の赤ちゃんを………っ



「お金の心配だってしなくていい。
優は目をつむっていれば済むんだ。
その後は、改めて僕と結婚しよう」


「…結 婚……っ」



この時、私は人生初めてプロポーズというものをされた。

勇さんよりも、先に……。



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