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「優、心配しなくても大丈夫だよ。僕は女の子の扱いはプロだからね。きっと優も僕に夢中になれる。
彼氏の事なんか、僕が忘れさせてあげる」



高梨さんはそう言って、下になる私の首筋にキスをしてきた。


「やぁっ、ダメ!」


ソファーの上で高梨さんの身体が私にのし掛かってる状態なので、抵抗してるつもりなのに身体が全く微動だにしない。

手首は強く握られて、その身体を引き離す事さえも出来ないの。

重なる身体が密着して、何だか怖い…っ。



「…怖くなんてないよ。
僕に身を任せてごらん。
そうすれば、僕が優を気持ちよくしてあげる…」



一見すれば美形な男性からの甘い囁き。

だけど今の私にはそんな事、欠片も感じない。



このまま私、どうなっちゃうの?
高梨さんに身も心も奪われちゃう?


…いや!
私はそんな事、されたくない!



「だめぇ!!
勇さぁん!!」


今の時間帯ならどう考えても勇さんは仕事中。

ケータイを鳴らして助けを呼ぼうと思っても、電話には出られないのを私は知っている。

仮に電話に出れたとしても、こんな所にまですぐには駆けつけて来るなんて事は出来ない。


どのみち助けになんか来てはもらえない。

わかってる。
それはわかってるんだけど…っ


でも私は、勇さんの名前を出す事でしか抵抗出来なかった。


なのに____



「…嬉しいなぁ。
優も僕の事、名前で呼んでくれるんだね」


「え?
私、そんな事…っ」


「何言ってるんだ。
悠さんって、呼んでくれたじゃないか」



って…?


…そうだ。
勇さんも高梨さんも、同じ“ユウ”って名前だったんだ。


私は勇さんを呼んだつもりなのに、高梨さんはそれを自分が呼ばれたと勘違いして…!


「ねぇ、もっと呼んでよ。
その方が僕も燃えちゃうな」


妖しく微笑んだ高梨さんが、私の頬をくすぐりながら言う。


違う、違うの!
そうじゃなくて…っ



「勇さんは私の恋人の名前で…っ
高梨さんと同じ名前だけど、“ユウさん”は高梨さんの事じゃないんですっ!」


「え?なにそれ。
僕が優の彼氏と同じ名前だって言うの?」


「はい。だから…」


「面白い話だけど、つくんならもっとまともなウソをついたらどうだい?
君も僕と同じユウって名前なのに、いくら何でもそんな偶然あるわけないだろ?」


「本当なんです!
私、ウソなんか…っ」


「そんな事はどうでもいいよ。
それより、今は僕との時間を楽しもう」


高梨さんは私の頬に唇を当てた。

ふわっと柔らかい高梨さんの髪が、私の顔に触れる。



高梨さんは決して私に乱暴な事はしていない。

だけど逃げられないと確信してしまっている私は……………



………もう何の抵抗も出来なくなっていた。

大好きな人に触れられるのはとても心地いい。

嬉しくて恥ずかしくて、ドキドキ胸の中が騒がしくなるんだけど、でも同時に安心感も与えてくれるの。


…だけど、そうじゃない人には……っ



「優、僕を信じて。
僕となら、きっと君は幸せになれる」


高梨さんの手が私の服に伸びた。

襟のボタンを外されて、鎖骨部分が晒されていく。



「キレイだね。
もっとよく見たいな…」


勇さん以外の人に肌を晒すなんていや。
抵抗したいのに、怖いのと諦めてるのが混合して何もできないの。


ごめんね、勇さん。

私がバカだから。
こんな事になっちゃった。

もうこんな私なんか、相手にしてくれないよね。

ごめんね、ごめんね。
でもどうか、嫌わないで…!



私は目をギュッとつむり、高梨さんの行為に流されようとした。


すると_____



「……………ん?」


ふと、高梨さんの動きが止まった。
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