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「よし、じゃあ私これ買ってきます!」


せっかく高梨さんも選んでくれたんだし、ライターなら勇さんにも合ってると思う。


ライターなんて喫煙を勧めてるみたいかもしれないけど、でも持ってるだけでもかっこいい感じだし、勇さんがどう使ってくれるか楽しみになってきたな。


「それでいいかい?」


「はい、ありがとうございます!」


私は店員さんを呼んで、高梨さんが選んでくれたショーケースのライターの会計をした。




これまで手作り品しか贈ってないから、たまにはこんな高級感あふれるライターも、きっと悪くないよね。

うん、そうだよ。
今日は夜起きて待ってて、サプライズプレゼントにしよう!


その後いーっぱい愛し合って…一緒に腕枕してもらって寝るんだぁ。

えへへ。
想像したら胸がドキドキしてきちゃった。




勇さんへのプレゼントも無事に支払いが済み、これで今日の目的は全て終わった。


あれこれお店を見てまわったからそれなりに時間は経っていて、気が付けば夕方の17時を過ぎている。


じゃあ高梨さんとのお付き合いも、これで終わりかな。


と思っていたのだけど___



「相川さん、今日は何時まで大丈夫?」


「え?
んー…あまり遅くならなければ…」


勇さんは仕事に出てるだろうから、今すぐ急いで帰らなきゃならないってわけじゃあない。


もちろん帰ったら普通に買い物や家事もしなきゃいけないから、あまり遅くなるわけにもいかない。



「よかったら、一緒に食事なんてどうかな?
僕の経営する店が、もうすぐ開店する時間なんだよ」


経営する店…。
そうか、高梨さんは飲食店の社長さんなんだったっけ。


お買い物に付き合うだけならともかく、お食事まで一緒にするのはちょっと変かもしれない。

だけどせっかく自分の経営するお店を紹介してくれたんだから、これで断ったら高梨さんに失礼よね。

適当に頂いたら、キリの良い所で出よう。



「…わかりました。
あともうちょっとだけ、お付き合いさせて下さい」


いつも1人ぼっちのご飯ばかり食べているからかな。

誰かと一緒に食べる事が出来たら、寂しくなくていいのにって思ってた。


もちろん誰でもいいってわけじゃないし、男性とお食事だなんて浮気みたいな事はするつもりはない。


いっぱいお世話になった高梨さんとのお付き合いも今日までだし、これくらいならいいよね…。



高梨さんの経営する飲食店。
年商3億のお店がどんな感じなのか、その興味も実はあったんだよね。


地下の駐車場に戻ると、また高梨さんの車に乗って今度は賑やかな繁華街に来た。



18時になると街もいよいよ夜の顔になり、昼間にはないだろう独特の空気を感じる。



今度は大きな立体駐車場に車を停めると、街の中を高梨さんと歩く。



高梨さんのお店は飲食店って言ってた。

夜から開店するお店みたいだけど、どんなレストランなんだろう。

高級なフランス料理店とかそんな感じかな。

だったらもっとちゃんとした服とかじゃないと、入店拒否されたりして…




「ほら、見えてきた。
あそこが僕の店だよ」


私は高梨さんの指差す方を見てみたけど、飲食店らしきものはわからなかった。


チカチカするネオンの光が眩いお店が乱交してるだけで、レストランみたいな所は…

なかなか高梨さんのお店がわからなくてキョロキョロしていると、高梨さんは急に私の手を掴んだ。



「そうだ相川さん、1つお願いがあるんだ。
ここじゃあ僕の事は、紫苑しおんって呼んでくれるかい?」


「え、しおん…?」


「そう、本名は伏せてるんだ。
お願いだよ」


高梨さんに手を引かれ、私はチカチカ眩しい細い入り口みたいな所を通った。


その細い通路の壁には、何故か男性の顔写真がいくつも並んで貼ってある。



「た 高…」

「紫苑」


「あ、紫苑…さん。
あの、本当にここ飲食店…」


まだ入り口とは言え、とてもご飯を食べるような雰囲気に感じられない場所に、私は不安を感じて高梨さんの方を見た。



「ここが入り口だ。
さぁようこそ、“club-shion”へ」


細く長い通路の先にあるドアを開け、私はいよいよ高梨さんの経営するというお店へと入った。
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