上 下
7 / 76

しおりを挟む
そんな彼の言葉から、このお見合いは始まった。


そして先方さんのご両親から相手の男性の紹介。

この高梨 悠さんって方は、ある飲食店の社長を勤めていて、年商も3億円以上を稼いでいるらしい。


若く見える風貌だったけど実際は見た目よりも年を取っていて、今年31になるという。


ていうか、飲食店で年商3億だなんて、どんな所なのよ…。



「まぁ、まだお若いのに素晴らしいのねぇ~。
それに比べてうちの優は…本当、恥ずかしい限りで…」



どうせ予めチェックを入れてたクセに、さも初めて聞いた風に驚いて見せるお母さん。

しかも私の事は恥ずかしい限りだってさ。

だったらお見合いになんか出させないでってのよぉ!




殆どを親同士がお互いの話をしていく中、コースなのか次々お料理が運ばれてくる。


私はこれといって喋る事がないので、黙って出てくるお料理を少しずつつまんでは口に入れてるだけだった。


あんまり早く食べたらする事なくなっちゃうもんね。


それよりかは、このお料理は何のおダシ使ってるのかなぁとか、今日の夕飯は何にしようかしらと。
只今お見合いの真っ最中である事も忘れて考え事ばかりしていた。





はぁ…退屈。

それよりも、勇さんにバレたりしないよね…。
もしバレちゃって、明日の朝には怒っていなくなっちゃったらどうしよう。

私がしてる事って、もしかして浮気と一緒なのかなぁ…。

違うよね。





あれやこれやと1人で考え事ばかりして、時間だけは1時間を軽く過ぎていた。





「さて…お料理もたらふくいただいた事だし…」

「本当、美味しかったわ」


「後は…若い2人だけで話す事もあるでしょうから」


お互いの親が腰をゆっくりと上げながら言った。


出た。
お見合い特有の「後は若い2人だけで」って言葉。


お料理も食べ終わったのに、若い2人が一緒にいたって何も話す事なんてないんだからっ



「悠、後で相川さんを送ってあげなさいね」


「わかってるよ、母さん」


そう言って相手のご両親は私に一礼してこの個室から出た。


私も慌てて会釈をしたら、ギュッと足を踏まれて、危うく変な声が出そうになった。


…お母さんだ。


「優、ちゃんとしなさいよ。高梨さんに失礼のないようにね」



そう言ったお母さんも、相手の男性に軽く礼をして出た。


…何をちゃんとするのか全く意味がわからなかったんだけど。


最後に出て行ったお母さんが襖を閉めると、部屋には私と相手の男性の2人だけになった。



「…………………」

「…………………」


…困ったなぁ。
2人きりにされたら、余計に何話したらいいかわかんないよぉ。


考えてみれば、私はこれまでの人生で男性と2人で話をするような機会は殆どなかった。


もちろん勇さんは別。

というか、男性と付き合ったのも勇さんが初めてだ。

中学校くらいまでは人並みに男子生徒に淡い恋をした事もあったけど、高校からは女子校だったし基本的に男性と縁もなかったのだ。


今更男性と縁なんて必要ないから別にいいんだけど、とにかくこの時間をどう費やしたらいいのかがわからなかった。




「…心ここにあらず、て感じですね」


「えっ あ…っ」


突然そう言われて、私はドキンとした。


「ずっと、下を向いておられた。
母さんたちの話が長すぎて、きっと退屈されたのでしょう?」


ドキドキドキーン!

ず 図星だ…!

私は相手の事など殆ど見ていなかったけど、彼は私の事を見ていたんだ!



「す…すみません…っ」


これが本当のお見合いだったら、この時点できっとお見合いの話は終わってる。


どちみちお断りを入れるつもりではあったんだけど、だからってお見合いの席で上の空なんて相手に失礼すぎたかもしれない。


私は頭を下げて謝ると、相手の男性…高梨さんはふふっと笑って返してくれた。



「謝らなくてもいいよ。
僕も母さんに無理やりお見合いさせられたクチなんだから」


「え…?
高梨さんも…なんですか?」

どんな事情があるのかはわからないけど、親の為にお見合いに応じたって人間は私だけじゃなく他にもいたんだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

副社長氏の一途な恋~執心が結んだ授かり婚~

真木
恋愛
相原麻衣子は、冷たく見えて情に厚い。彼女がいつも衝突ばかりしている、同期の「副社長氏」反田晃を想っているのは秘密だ。麻衣子はある日、晃と一夜を過ごした後、姿をくらます。数年後、晃はミス・アイハラという女性が小さな男の子の手を引いて暮らしているのを知って……。

モブの私が理想語ったら主役級な彼が翌日その通りにイメチェンしてきた話……する?

待鳥園子
児童書・童話
ある日。教室の中で、自分の理想の男の子について語った澪。 けど、その篤実に同じクラスの主役級男子鷹羽日向くんが、自分が希望した理想通りにイメチェンをして来た! ……え? どうして。私の話を聞いていた訳ではなくて、偶然だよね? 何もかも、私の勘違いだよね? 信じられないことに鷹羽くんが私に告白してきたんだけど、私たちはすんなり付き合う……なんてこともなく、なんだか良くわからないことになってきて?! 【第2回きずな児童書大賞】で奨励賞受賞出来ました♡ありがとうございます!

死を回避したい悪役令嬢は、ヒロインを破滅へと導く

miniko
恋愛
お茶会の参加中に魔獣に襲われたオフィーリアは前世を思い出し、自分が乙女ゲームの2番手悪役令嬢に転生してしまった事を悟った。 ゲームの結末によっては、断罪されて火あぶりの刑に処されてしまうかもしれない立場のキャラクターだ。 断罪を回避したい彼女は、攻略対象者である公爵令息との縁談を丁重に断ったのだが、何故か婚約する代わりに彼と友人になるはめに。 ゲームのキャラとは距離を取りたいのに、メインの悪役令嬢にも妙に懐かれてしまう。 更に、ヒロインや王子はなにかと因縁をつけてきて……。 平和的に悪役の座を降りたかっただけなのに、どうやらそれは無理みたいだ。 しかし、オフィーリアが人助けと自分の断罪回避の為に行っていた地道な根回しは、徐々に実を結び始める。 それがヒロインにとってのハッピーエンドを阻む結果になったとしても、仕方の無い事だよね? だって本来、悪役って主役を邪魔するものでしょう? ※主人公以外の視点が入る事があります。主人公視点は一人称、他者視点は三人称で書いています。 ※連載開始早々、タイトル変更しました。(なかなかピンと来ないので、また変わるかも……) ※感想欄は、ネタバレ有り/無しの分類を一切おこなっておりません。ご了承下さい。

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

【完】夫に売られて、売られた先の旦那様に溺愛されています。

112
恋愛
夫に売られた。他所に女を作り、売人から受け取った銀貨の入った小袋を懐に入れて、出ていった。呆気ない別れだった。  ローズ・クローは、元々公爵令嬢だった。夫、だった人物は男爵の三男。到底釣合うはずがなく、手に手を取って家を出た。いわゆる駆け落ち婚だった。  ローズは夫を信じ切っていた。金が尽き、宝石を差し出しても、夫は自分を愛していると信じて疑わなかった。 ※完結しました。ありがとうございました。

心の鍵は開かない〜さようなら、殿下。〈第一章完・第二章開始〉

詩海猫
恋愛
侯爵令嬢フィオナ・ナスタチアムは五歳の時に初めて出会った皇弟フェアルドに見初められ、婚約を結ぶ。 侯爵家でもフェアルドからも溺愛され、幸せな子供時代を経たフィオナはやがて誰もが見惚れる美少女に成長した。 フェアルドとの婚姻も、そのまま恙無く行われるだろうと誰もが信じていた。 だが違った。 ーーー自分は、愛されてなどいなかった。 ☆エールくださった方ありがとうございます! *後宮生活 5 より閲覧注意報発令中 *前世話「心の鍵は壊せない」完結済み、R18にあたる為こちらとは別の作品ページとなっています。 *感想大歓迎ですが、先の予測書き込みは出来るだけ避けてくださると有り難いです。 *ハッピーエンドを目指していますが人によって受け止めかたは違うかもしれません。 *作者の適当な世界観で書いています、史実は関係ありません*

私も一応、後宮妃なのですが。

秦朱音@アルファポリス文庫より書籍発売中
恋愛
女心の分からないポンコツ皇帝 × 幼馴染の後宮妃による中華後宮ラブコメ? 十二歳で後宮入りした翠蘭(すいらん)は、初恋の相手である皇帝・令賢(れいけん)の妃 兼 幼馴染。毎晩のように色んな妃の元を訪れる皇帝だったが、なぜだか翠蘭のことは愛してくれない。それどころか皇帝は、翠蘭に他の妃との恋愛相談をしてくる始末。 惨めになった翠蘭は、後宮を出て皇帝から離れようと考える。しかしそれを知らない皇帝は……! ※初々しい二人のすれ違い初恋のお話です ※10,000字程度の短編 ※他サイトにも掲載予定です ※HOTランキング入りありがとうございます!(37位 2022.11.3)

いつだって二番目。こんな自分とさよならします!

椿蛍
恋愛
小説『二番目の姫』の中に転生した私。 ヒロインは第二王女として生まれ、いつも脇役の二番目にされてしまう運命にある。 ヒロインは婚約者から嫌われ、両親からは差別され、周囲も冷たい。 嫉妬したヒロインは暴走し、ラストは『お姉様……。私を救ってくれてありがとう』ガクッ……で終わるお話だ。  そんなヒロインはちょっとね……って、私が転生したのは二番目の姫!? 小説どおり、私はいつも『二番目』扱い。 いつも第一王女の姉が優先される日々。 そして、待ち受ける死。 ――この運命、私は変えられるの? ※表紙イラストは作成者様からお借りしてます。

処理中です...