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「あーん。
急に降っちゃうなんて、お日様の意気地なしっ」



18時も過ぎた夕刻。

仕事が休みの今日、特に予定もなかった私は一日中ダラダラと家の中で過ごした後、外の空気でも吸うつもりで本屋さんに来ていた。


そしていざ帰ろうと自動ドアを出た瞬間、私の足を止めてしまったのがこの夕立なのだ。



夏の午後に見られる独特な天気なのでお日様に罪はないんだけど、でも走って帰るにはちょっぴり躊躇してしまうくらいの激しい雨だった。




「帰ってすぐお風呂に入ればいいかなぁ。
バッグ安物だけど、濡らしたくないし…」



しばらくすれば、すぐに止むかもしれないけれど。

ゴロゴロと雷まで鳴ってきた所で、いよいよ濡れながら帰る選択肢さえもなくなってきたかなと思えてきた。



あー、クワバラ クワバラ。

どうか、早く止んでくれますように…




「オイ!出入り口に突っ立ってるな!」


「ひゃっ」



その時、お店から出ようとした中年男が私の身体を押してきた。



「邪魔だろうが!
このガキがっ」


「…っ」



背中を押された弾みでお店の軒下から出されてしまった私に、雨が容赦なく叩きつける。



その中年男は傘立てのビニール傘を抜くと私を睨みつけながら開き、「チッ」と舌打ちしながら去って行った。



…確かに、狭い自動ドアの前に立ってた私も悪いから文句も言えないんだけど。



でもだからって、雨の当たる所まで人の背中を押すなんてヒドいじゃない!


それに…



──『邪魔だろうが!
このガキがっ』



一番傷ついたのが、その言葉。




妹尾 ひな子(セノオ ヒナコ)

今月末でいよいよ29才。



名前の通り、いつまでも大人になれずヒナのまま。


そう。
私はこの低い身長と童顔が災いして、未だに未成年扱いを受けるいわゆるアラサー独身女なのだ!



「もぉ、冷たぁい…」



すぐにまた軒下に避難したものの、さっきの間に濡れた服がじんわりと肌に伝って気持ち悪い。



社会人になってからは特にオシャレをしなくなった私は、今日も安く買ったTシャツなんかを着てきた。


冷たく濡れたTシャツが、私の身体のラインに合わせてピッタリとくっついている。



…あ。
何で私がオシャレをしなくなったかって?


お化粧はホントに基礎的なものだけにしとかないと、かえって不自然に見えちゃうのは童顔のせい。


大人っぽい服もあまり似合わないから、仕方なく無難なTシャツやジーンズに身を包んでいるのも童顔のせい!



そう。
この童顔のおかげで私はいつまでも大人になれず、延々と10代の若者をやってる気分なのだ。


はぁ…ホント、ヘコむ。

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