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卒業後の就職先も、ついでに決めちまう勢いで①
しおりを挟む「はいはい、もしもし姉貴?
何の用だよ」
__夜
姉貴からかかってきた電話に、風呂上がりで濡れた頭をタオルで拭きながら出た。
『あ、陸?
用って言うか、あれからどうなったのかなぁって思って…』
昔からオレに何かあれば、いちいち首突っ込んでくる性格だった姉貴。
もちろん、今回はオレの方から相談に乗ってもらったわけだけどな。
「んー…。
どう…なのかなぁ」
『どうなのかなぁって!
彼女さんとは、話し合ってないの?』
「話したよ。
…もう、産む気満々みたい」
満々にさせたのは、何かオレみたいだけどさ。
『それで陸は大丈夫なの?
学校、どうするの…?』
「…それなんだよなぁ」
いくらオレが卒業して一人前になるまで待ってくれるって言っても、それがいつになるかなんてわからない。
しかも、その間もオレたちの子どもは年を取っていく。
まだ由香のおばさんにも何の了解も得てなければ、あいさつすらした事ない。
決して、大丈夫な要素は何一つないんだよ。
「だけど…もう仕方ないよ。
由香もその気だし、産まれたら産まれたで何とかなるさ」
『何とかって…!
…私もまだ産んでないから、どんなに大変かはわからないけど。
でもそんなの……っ』
「姉貴には迷惑かけたりしないよ!
オレらの事はオレらで何とかするから!」
それだけ言って、半ば強引に電話を切った。
何とか、なるもんなのか…?
子犬1匹産まれるそれとは全然違うんだぞ?
だけど、もう今更引けないんだ。
何とかするしかないじゃないか!!
テーブルに置いたケータイと一緒に、ブルーのハートのストラップが目に映った。
あ…由香にコレの事、訊くの忘れてたな。
でもそんな事もう、どうでもいいや…
「………………はぁ…」
そんなわけで。
何とも言えない気持ちのまま、実習期間にと突入した。
学校に行く代わりに実習に入るのだから、次に由香と会うのは2週間後。
或いは、土日のバイトの時に由香が来るかどうかだな。
「今からため息なんてもう疲れてんのか、陸?」
助手席に座るオレにチラと視線を移しながら言ったのは、この軽トラを運転する秀明だ。
この田舎にある実習先の施設は数が多くなく、オレたちが行く先は車で1時間以上走らないと着かない距離にある。
だから親に車で送ってもらって行ってる奴もいれば、バスや電車で向かってる奴もいるだろう。
幸いオレは車に乗せてもらえる秀明のおかげで、こうしてタダで行けてるわけなんだけどさ。
「そんなんじゃ、2週間もたないぞ」
「…大丈夫だって…」
ボーっと、目的地に着くまで窓の外を見ていた。
オレたちが行くのは山の方にあるので、窓の向こうは木ばっかりが映る。
「………………………」
オレだけ卒業して、その頃にはもうお腹の子は産まれてるハズだ。
それからオレは就職して…
「…秀明はいいよなぁ」
「は?
何言ってんだ、陸」
農家の息子は、もう就職先が決まってるも同然。
とりあえず卒業後はどっかに就職するって言ってた秀明だけど。
既に将来が安泰してんだから、いつでも結婚したって子どもが生まれたって問題ないんだよ。
「オレが秀明だったら、すぐに結婚してやるんだけどなぁ」
「……………陸?
俺は陸とは、結婚してやんねーぞ…?」
「……………ははは…」
…何かもう、空笑いしか出ないや。
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