デ キ ちゃ っ た !?

むらさ樹

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いつも見慣れたメニュー表を見ながらテーブルの水の入ったグラスを一口飲むと、オレはいよいよ本題を口にした。


「…で?
話って、何?」

わざわざこんな所に来てまで話す話なんだから、あんま大きな声じゃ言えない事とか?


まさか、由香がいない今のうちにオレに告ってくるとか…。
って、んなわけないよな。


なんて心の中で思いながら高倉麻衣の用件を待っていたんだけど、まわりをキョロキョロするばかりで何も言ってこない。

オイオイ。
お前が呼んだんだろ?


「相川君…。
やっぱりここ、出てもいい?」

「はぁ?
何でだよ。ここなら話しやすいからって来たんじゃないか!」


何を言い出すのかと思ったら。
女ってのは急に機嫌損ねたり真逆の事言ったりする生き物ってのは聞いた事あるけど、ホントなんだな。


「う、うん…」

オレが驚いてちょっと大声で言うと、高倉麻衣は俯きながら返事した。


「長くなるような話なのか?
食べたいものがなかったんなら、話だけしてすぐ出ればいいじゃんよ」


別にコイツとは、仲良くランチするつもりでここに来たわけじゃない。

何が気に入らなかったのか知らないけど、たかがクラスメイトの関係でそこまでワガママに付き合う気はないんだ。


「…わかった。
あのね…」

チラリチラリとまわりに気を配った高倉麻衣は、今度はオレの方をまっすぐに見てズバリ言ってきた。


「…由香、妊娠してるんだってね」

「っ!!!」


まさかそんな話をしてくるとは思わなかったので、ドキリと心臓が飛び上がった。

そして思わず、今度はオレの方がキョロキョロとまわりを見回してしまったという。


「ちょっ……なに…?」

動揺して、喉は十分潤っているのにグラスの水をまた一口飲んだ。

てゆーか、そういえば高倉麻衣が妊娠した時の事を由香が知ってたって事は、由香が妊娠した事だって高倉麻衣が知ってても不思議はないな。

女友だち同士、相談し合ったりしたんだろう。



「…それで?
それで何の話がオレにあるって?」

由香はどこまで話したんだろう。
何か勝手に産むとか結婚するとか言ってたけど、とりあえずおばさんには言ってないハズだ。

そういえば高倉麻衣も由香には話したようだけど、親には黙ったままって言ってたもんな。


「由香、産みたいって言ってた。
相川君はどうするつもりでいるのか、聞きたいの」

「……………………っ」

やっぱり、学校辞めてお腹の子を産む気なのは変わってないんだ。

由香は本気でいつ結婚できるかわからないオレを、シングルで育児しながら待つ気でいるってのか!?


「…て、ゆーかさぁ…。
オレたちまだ1年で、卒業するまでまだ後もう1年あるわけ…」

「おろさせるの?」

「…………………っ」


…いきなりズバリ言ってくれるな。

やっぱり、高倉麻衣も由香と同じように産む事には賛成派なんだ。


て事は、彼氏に捨てられておろすハメになったっていう高倉麻衣も、ホントは産みたかったってとこなんだろうな。


「…いいよね、男は。
したい事だけしてさ、面倒くなったらポイすりゃいいもんね。
由香の事も捨てちゃうんでしょ」

「………お前っ」

「エッチの時だけ凄く優しいのに、赤ちゃんできた途端に別人みたくなっちゃうの。
…ほんと、男って自分勝手でサイテー」

「…………………っ」


自分を捨てた元カレの事を思い出して言ってるんだと思う。

それをまとめて“男”で一括りにしてる事に腹が立ったが、なかなか言い返せないのもまた現実だった。


何も言い返せなくてジッと睨みつけているオレに対し、高倉麻衣はまっすぐにオレを見据えていた。


自分は彼氏に捨てられたからって、オレまで一緒にすんじゃねーぞ!!


「…オレは由香を捨てたりなんかしねぇよ!
だから、オレもオレで必死になってんじゃないか!」

「じゃあ、由香に産んでもらって一緒に育てるのね?」

「…それは…………っ」


別れる気はないけれど、何にしても今はまだ早すぎるだろ。
オレがどうこうっていうよりも、由香がそれに気付いてくれないとどうにもならない事だ。



「由香を泣かしたら、相川君の事を一生軽蔑するから」

「…………………っ」


その一言を放つと、高倉麻衣はイスを引いて立ち上がった。

そうしてキョロキョロっとまわりを見回すと、そのまま店を出て行った。



…結局コイツ、出されたお冷やの水は一口も飲まなかったな。


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