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車を降りると、改めて自分のアパートを見た。



まだ馴染みがないけど、間違いなく今の私の家。


帰れなくなって何日経つっけ。

やっぱり自分の家、帰れて嬉しい!



「……………」



黙って運転席から降りた強盗さんは、車にカギをかけて私の側に来た。



「あ、こっち。
今ドア開けるね」



ショルダーバッグを開けると、アパートのカギを探してドアに差し込んで回した。


カチャッとカギの外れる音がする。


ドアノブを持って開けると、玄関先に置いたラベンダーの芳香剤がフワッと香った。



「………ただいまぁ」


私は1人暮らしなんだから、別に誰もおかえりなんて言ってくれる人がいるわけじゃないんだけどね。



私の後に、強盗さんはドアをくぐった。



とうとう強盗さんは私の部屋に来てくれた!

もしさっき私1人が車を降りていたら、きっと強盗さんとはそのままになっていたんだ。


だけど、今は違う。

今は…私と一緒に居てくれているんだ。





「………オイ」



靴を脱いで中に上がる私に、強盗さんは玄関に立ったまま後ろから呼んだ。



「え?」



「…俺が中に入ったら、折角綺麗にしている部屋が汚れちまうぞ」



そういえば私も強盗さんも、何日もお風呂に入っていなければ、ある日は雨に打たれて砂にまみれたりもした。


はっきり言って今の私たちって、かなり汚い…かも。




「お風呂、入ろうか。
それと、今着てる服も洗濯するよ」



「…………………」



何も応えられなくなっている強盗さん。

あれ、怒ったのかな。



「…ダメ?」


「ダメっつーか…。
何でそこまで俺の為にするんだ?」



「何でって…強盗さんだって私の為に色々してくれたじゃない。
私だってしてあげたいんだもん」



いつの間にか好きになっていたの。

あんな目にあったのに。
ううん、あんな目にあったからこそ…なのかな。


フッと鼻で息を吐いた強盗さんは、靴を脱いで部屋に上がってくれた。


「あ、じゃ、先にお風呂入れちゃうね。
適当に上がっててね」



私はバスルームへ行くと、お湯を沸かすスイッチを押して浴槽にお湯を入れた。



それから急いで戻ってみると、強盗さんはまだ玄関先で靴を脱いだまま突っ立ってる。




「…上がっていいのに」



「だから汚れるって言ったろ」



「じゃあ…お湯が溜まるまで脱衣所に居よっか。
そこなら汚れても掃除しやすいし」





洗濯機まで置いてあるから狭くなっている脱衣所に、私と強盗さんは立って浴槽のお湯が溜まるのを待った。



「………………」



「………………」



狭い所に一緒に居るなんて今まででも別に珍しい話じゃないのに、こう改まって側にいると緊張してきた。



そうだ。私、強盗さんの事好きって言っちゃったけど、まだその答えは聞いてない。



強盗さんは…どう思ったのかな…。

勢いよく浴槽にお湯が注がれていく音が脱衣所に響く。


ドキドキと鳴る私の心臓の音が、お湯の音で隠れて丁度良かったかもしれない…。




ドキドキドキ…

心臓が騒がしくて落ち着かない。


こうして強盗さんの近くに居るだけで、ドキドキする。


私ってば、強盗さんの事をこんなに好きになっていたなんて…。




とりあえずうちに来てくれた強盗さんだけど、このままずっと居てくれるのかな。


来てくれたって事は、私の告白を受け入れてくれたって事?


はっきりちゃんと言ってくれないからわかんないよぉっ。



「…なぁ」


「えっ、なになに?」


「俺…やっぱ帰るわ」



脱衣所の壁に身体をもたれるように立っていた強盗さんだけど、スッと姿勢を戻した。



「えっ、どうしてよ!
ここに居てくれないの!?」



「…やっぱりおかしいだろ、俺みたいなのがこんな所に居ちゃあよ。
せっかく人質解放されたのに、犯人かくまってちゃお前も犯罪者になる」



強盗さんは…それが気になって私から離れようとしているの?


私も犯罪者…。

ただ好きな人と一緒に居たいだけなのに、それすらも罪になっちゃうの?



「じゃ…な。
お前は適当に風呂入って飯でも食ったら、ケーサツにでも行きな」



強盗さんは玄関に向かって歩き出した。



強盗さんは私から離れようとしてる。

私はこんなにも一緒に居たいのに!



「やだ、待って!」



帰ろうとする強盗さんの背中にしがみつき、その動きを止めた。



「オイオイ。
何考えてんだよ、お前は」



「強盗さんは私が嫌いなの?
私と一緒に居たくないの?」



「はぁ?
別に嫌いとかそういうアレじゃねぇよ。
どうしたんだよお前。今日のお前、何かおかしいぞ」



「おかしくないよ!
私は強盗さんが好きだから一緒に居たいだけ。
強盗さんと一緒に居れるなら、私…犯罪者になったっていいもの!」



「お前な…」



行ってほしくない。

たとえ犯罪者呼ばわりされたって、私は強盗さんと一緒に居たいの。


強盗さんは、そんな私を受け入れてくれる…?

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