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●あたし、ご主人様のなんですか!?①

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お父さんが部屋を出て、この広い応接間にあたしとご主人様のお父さんが残った。



「……すみません。
わがまま言っちゃって」



せっかく帰れるのをわざわざ日にちを延ばすなんて、変な奴って思われたかもしれない。

だって、急に黙って帰るなんて事、できないもん。



「親なのに、いつも放ったらかしにしている理央にいい影響があればと、まどかさんをうちに連れて来たんだが。
予想以上に、アイツは変わる事ができたようで驚いたよ。
ありがとう、まどかさん」



「いい影響……?」



ご主人様のお父さんに、急にそんな風に言われたあたしは面食らってしまった。




「母親を亡くしてね、自分をふさぎ込むようになってしまったんだよ。
世話人に付けている西原もまた、あまり相性が良くなくてね……」


「でもそれは、お父さんも同じなんじゃないですか?」



「……!」



ご主人様の事を語ろうとしたのを、あたしは逆に指摘してしまっていた。




「大切な家族をひとり亡くしてしまったのはツラい事かもしれませんが、それでみんなが自分の殻に閉じこもってしまったら……せっかくの家族が、家族じゃなくなっちゃいますっ」



「まどかさん……」



お父さんのせいで、あたしたち家族もバラバラになっちゃったけど。

だからお父さんなんて、あたしやお母さんの事なんてどうでもいいって思ってるんだと思ってた。


だけど、お父さんはそれでも必死になってあたしを連れて帰ろうとしてくれたんだもんね。


宝くじで当たったからなんて、ちょっと情けない理由だけどさ。



「大切な人に似ているからって、無理やり顔を隠させてるサイさんなんて、もっとかわいそうです。
みんな、大切な家族じゃないですか。
バラバラになんて、ならないでっ」



あんなに普段ツンツンしてて、冷たい表情しか見せなくなってしまったご主人様。


だけど、以前あたしに見せてくれた笑顔や涙。

あれが殻から顔を出した、ホントのご主人様……櫻井理央クンなんだから!




「………なるほど。アイツが変わるわけだ。
親の私より、よっぽどアイツを理解していたんだろうな」



ご主人様のお父さんはあたしに歩み寄ると、そっと手を握った。



「ありがとう。
君のおかげで、うちの家族がバラバラになったままにならなくて済みそうだ」



「サイさんのサングラス、外してあげて下さい。
素顔はとっても優しくて、ステキなイケメンさんなんですよ」



一度だけ見たサイさんの素顔。


きっとご主人様のお母さんも、あんな笑顔で幸せな家庭を築いていたんだと思う。



「ああ、もちろん知っている。
妻が残した最後の弟だ。
彼も、うちの大切な家族の一員だよ」



「よかったぁ!」



バラバラだった家族が、ゆっくりだけどひとつに戻っていく。


大丈夫。
だって家族って、見えない糸で繋がってるんだもん。









「…………っ」



ゾワゾワする身体を自分の腕で抱きしめながら、あたしはご主人様の部屋の前にと立った。



お父さんの借金は全部返済完了した。

だから、明日にはあたしはこの家を出る事になった。


その事を、ご主人様に話さなくちゃ!



「……………っ」



すぅっと大きく息を吸い込んで止めると、あたしは意を決してドアをノックした。



 コンコン


……返事を返してこないのはいつもの事。


ふぅっと息を吐くと、あたしはノブを回してドアを開けた。



「失礼します」



知っていようがいまいが、あいさつだけはしとかなきゃだもん。



「ご主人様……」



部屋に入り声をかけてみたものの。

まるで聞こえていないかのように、ご主人様はソファにふんぞり返りながらテレビを見ていた。


……ううん、テレビなんかついていない。

何も映っていないテレビの方を、ただ見ていたんだ。




「あ、あの……実はあたし、明日で家に帰れるようになっちゃいまして……それで、ごあいさつに……」



ピクリとも動かないご主人様。

目は開けてるんだもん、寝てるわけじゃない。


ただ一点を見てるように、ジッと何かを睨んでいた。



耳も聞こえているよね。

でも反応がないので、あたしはもう一度言おうとした。


その時、ずっと微動だにしなかったご主人様はようやくあたしの方をギロリと見上げた。




「美咲、こっち来い」



「ぁ、はい」



言われた通り、あたしはご主人様の座るソファの前まで歩み寄った。


するとご主人様は服の中の、首からかけているチェーンを外した。



「もっとオレの近くに寄れ」



「……………?」



「いいからっ!」



「は、はいっ」



あたしはご主人様の目の前でしゃがむと、ご主人様は首から外したチェーンの先をあたしの首に着けているチョーカーに向けた。




「首輪のカギだよ。
もう、ペットじゃなくなるもんな」



「!!」



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