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する仕事もなくなったあたしにはメイド服も必要なく、ずっとクローゼットの中。


学校もない土曜日だという事で、あたしは私服に着替えて部屋にいた。



「昨日出た宿題でも、やるかなぁ」



すっかりする事がなくなったあたしは、とりあえずカバンからプリントを出して机に並べた。




__それから少しして。



 コンコン

と部屋をノックする音が聞こえたので、あたしは持っていたシャーペンをプリントの上に置いてドアの方へと駆けった。



「はぁい」



あたしの部屋に訪問なんて、誰だろ。


お昼ご飯はまだ早いけど、サイさんかなぁ。



そう思いながらガチャとドアを開けて、あたしは廊下にいる人を見てドキリとした。



「こんにちは、美咲まどかさん」



「ご主人様の、お父さん!?」



まさかな訪問に、あたしは目を丸くした。

1週間前にあの話をして以来会う、ご主人様のお父さん。


今度は何の用で……?



「とうとう解放が決まったよ。
別室にお父さんが来ているから、君も一緒においで」



「っ!!」



お父さんが、ここに来てる?

じゃあ500万を用意したのは、お父さんだったの?


でもパチンコなんかして街をフラフラしてたお父さんに、どうやってそんな大金を……っ




「こっちだよ」



お父さんが待っているというお部屋に案内してくれる、ご主人様のお父さん。


あたしも部屋を出てついて行くのだけど。



なんだかこのまま、もうこの部屋にも帰って来れないような気がして、あたしは不安でいっぱいになっていた。






「まどかっ!!」



この広いご主人様の家。


普段使わない部屋は掃除もしないのだけど、行く事もないから初めて入った。



そこは広い応接間になっていて、大きなガラスのテーブルに大きなソファ。

そのソファの端っこに、お父さんはひとり座っていた。



「お父さん……」



お父さんの目の前には、紙の帯がついた1万円札の束が5つ置かれている。


スゴくこぢんまりしたお札の束に見えるけど、でもあれが500万円なんだと思う。



「大事な娘さんを無理やり連れ出してしまって悪かった。
こうでもしないと、こちらとしても困ってしまうのでね。
でもこの通り、大切に預からせてもらってたよ」



「返すのが遅くなってすいません……」



ペコリ
お父さんはご主人様のお父さんに頭を下げていた。



ご主人様のお父さんは、ガラステーブルに置かれたお札の束をひとつひとつ手に取ると、指で弾きながらお札を確認した。



「……うむ。
確かに、500万のようだね」



ズキン

あたしの胸が、ゾクゾクとイヤな感じになってきた。


これで、お父さんのした借金は完全に返したって事なんだ。



「まどかっ、これで家に帰れるぞ!」



ホッと一安心したお父さんは、あたしに笑顔で手を差し伸べた。


もちろんこんな大金の借金なんて、なくなって安心なんだけど……。




「でもお父さん、こんな大金どうやって手に入れたの!?」



「宝くじだよ、宝くじ!
この前商店街でまどかと会っただろ?
あの時に買った宝くじが、丁度500万当たったのさ!」



この前商店街って……

琴乃と一緒に帰ってて、悪いとこ見せちゃったあの日だ!




「よし。
それじゃ、家に帰ろう」



「ぁっ」



ソファから立ち上がり、あたしに手を差し伸べたお父さん。


帰る!?

あたし、家に帰るの??



「長い間、理央の事も世話になったね。
何だか帰らせてしまうのが、惜しい気もするよ」



なんて言いながら、残念そうに笑うご主人様のお父さん。



「ちょ……ちょっと待って!
いきなり帰るって!」



「いきなり?
一週間前には、話したと思うよ」



「まどか、換金するのに日にちがかかったんだ。
だけど早めに言った方が、お前も安心すると思ってな」



……ふたりとも、今のあたしの気持ちなんて何も知らないのよ。


突然ここに連れて来られて戸惑ったってのに。

また突然あたしを連れ戻すなんてっ




「あのっ
帰るの、明日ではダメですかっ」



「まどか!?」



連れて行かれた娘をようやく取り戻す事ができたというのに、何を言い出すんだろうか。

そんな顔したお父さんがあたしを見た。



「あたし……今はすっかりこの家の人間になっちゃっててっ
急に帰るとか、ちょっと、準備が……っ」



「準備?
お前さえ帰れば何も準備なんてないだろう。
何があるってんだ?」



まるで無神経なお父さん。

お父さんには、あたしの気持ちなんて一生わかんないんだからぁっ!




「………なるほど。
お互い、いい影響があったんだろうね」



何かを悟ったように、ご主人様のお父さんはそう言ってくれた。




「美咲さん。大切な娘さんを早く家に連れて帰りたいだろうが、もう1日預からせてもらえないだろうか?」



何も思わないお父さんに、ご主人様のお父さんはそう提案してくれた。



「もう1日?
冗談じゃあない!
金はきっちり返したじゃないか!」



案の定、お父さんはその提案に意味がわからず、強く否定した。


確かにあたしは、お父さんの借金が返せない代わりにここに来ていたんだけど。

でもあたしはこの家に来て、いろんな事があったのよ!



「まどか! わけのわからない事なんて言ってないで、早く家に帰ろう。
でないと、母さんに合わせる顔がないじゃないか!」



「やっ!
ちょっと待ってよ、お父さん!!」



お父さんはあたしの腕を掴むと、無理やり引っ張って部屋から出ようとした。


ヤダ!

あたし、まだこの家でする事が残ってるのにっ




「美咲さん!
……こういうのはどうかな?
この100万円で、もう1日ほどまどかさんをうちに預からせてほしい」



ご主人様のお父さんは、お父さんが用意した札束の1つを持つと、こちらに向けた。

「……100万で、もう1日?」



お父さんは、あたしを引っ張る腕の力を抜いた。



「お金で娘さんを買うのが失礼なのは重々承知だ。
だが1日ほど、時間がほしいのだよ。
今までずっとうちにいたんだ、帰るのが後1日遅れるだけなんだ。
どうだろうか?」



「………………っ」



「お父さん、お願い。
たった1ヵ月だったけど、あたしもこの家の住人だったんだもん。
さよならしたい人とか……いるから」



さよなら
そんな普段でも使う言葉なのに、今だけはスゴく重い気がした。



「……よっぽど、ここで大事にされてたんだな」



「うん。
お父さんが思ってるより、ずっと良い生活してたよ」



「そうか……。
わかったよ、じゃあ明日また迎えに来る。
櫻井さん、お金はいいです。また明日来ます」



お父さんはあたしの腕を離すと、そのまま部屋から出て行った。



あんなのお父さんじゃない! なんて心の中で言っちゃったけど。

あたしを一生懸命連れて帰ろうとしてくれたのは、やっぱりお父さんなんだって思っちゃった。


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