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②
しおりを挟む「いつも無口だし冷たい顔してるけど、何かそこがイイって言うか。
でも笑ったりとかしないのかなぁって、気になっちゃうんだよ」
「あー……」
普段はあんなだけど、ホントはご主人様も笑ったらとっても優しい顔になるんだよ。
誰も知らないとは思うけど、あたしはあの家に帰ったらペットだから。
だから知ってるんだ。
「だからさ、ちょっとでも櫻井君の事知りたいからさ、まどか何か知ってたらと思って」
「んー、あたしだって理央クンの事はあんまり……」
だからって、あたしとご主人様の関係は教えてあげられない。
だからご主人様の事も、何も言えないんだ。
と言っても、あたしだってご主人様の事は詳しくは知らない。
ご主人様の事をもっと知りたいのは、あたしの方だもんね。
「理央様の過去、ですか?」
帰りのお迎えの時。
サイさんの車に乗って帰る途中、あたしはご主人様が今ここにいないのをいい事に、叔父であるサイさんに訊いてみようと思ったのだ。
「わたしが勝手に話すはどうかと……」
そりゃそうだ。
誰だって自分のいない所で、自分の昔話をしてほしくないよね。
だけど、どうしても知りたいんだもん!
「じゃあさ、あたしがまだいなかった時にご主人様が食べてたご飯とか教えて!
あ、ほら、参考にしたいから」
「あぁ、それくらいでしたら」
ものは言いようだもんね。
毎日の100点のお料理は誰の事だとか、気になるし。
「まどかさんがいなかった時は、理央様の身の回りの事は全てわたしの仕事でしたよ。
食事もわたしが作ってましたけど、前も言いましたが何を作ってもほとんどまともには召し上がってくれてませんでした」
キッチンにだって入れるなって言ってたもんね。
サイさんの作るお料理って、ご主人様の好みに合わないって事なのかなぁ。
「サイさんって、どんなご飯作ってたの?」
「主に、質素な和食料理です。
でもそれは姉の……理央様のお母様から、教わったものなんです」
ご主人様のお母さんから教わった?
って事は、サイさんの作るご飯って、お母さんの作るご飯と似たような感じだったんじゃないかな。
じゃあ100点のお料理ってのは、やっぱり……
「わたしと姉は早くから両親を亡くし、貧しい暮らしをしていました。
今でこそ姉が結婚してからは、わたしの事も旦那様に拾って頂き、不自由ない生活をさせてもらいましたがね」
……サイさんって、そんな過去があったんだ。
だから、ご主人様の家に仕えていたんだね。
だけど、サイさんとご主人様のお母さんが元々貧乏だったなんて、ちょっとビックリだな。
「まだ理央様が小さかった頃は、ご家族3人大変円満な家庭を築いておりました。
だけど、姉が亡くなってからは……」
昔を思い出すように語っていたサイさんの言葉が途切れた。
ご主人様のお母さんは、もう亡くなっていない。
「旦那様も家に帰らない生活が続き、理央様も塞ぎ込むようになってしまいました。
そうしてわたしが姉の代わりに家事一切をするようになったのですが……理央様は、わたしの作る食事はあまり召し上がってくれなかったのです」
「味が急に変わったから?」
「いえ、逆に似すぎていたので、却って辛い現実を思い出してしまうんですよ。
その頃から、このサングラスもかけるようになりました」
そうだったんだ……。
お母さんによく似たサイさんの存在は、寂しさを思い出してしまうから。
だから、あたしの作る20点のお料理を丁度いいんだって言ったんだね。
「あ、すみません。勝手に話すわけにはいかないと言いながら、ずいぶんペラペラとしゃべってしまって」
「ううん。
あたしも謎だった事がわかって良かったかも」
「ですが、この事は……」
「うん。
もちろんご主人様には、内緒にしとくよ」
「ありがとうございます」
借金の人質まではわかるんだけど、だからってあたしをペット扱いするなんてヒドいって思ってた。
だけどペットって言うのは、人をバカにして言ったんじゃなくて、自分の事を相手にしてほしかったって事なんだろうな。
だからあんなに、あたしの事をかわいがってくれるんだよね。ご主人様?
でもあたしは、そんなご主人様が好き。
飼い主だからじゃなく、ご主人様が理央クンだから。
いつかまた、ご主人様じゃなくて、理央クンって呼びたいなぁ。
でもその時になったら、あたしたちの関係は………
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