18 / 34
②
しおりを挟む「いつも無口だし冷たい顔してるけど、何かそこがイイって言うか。
でも笑ったりとかしないのかなぁって、気になっちゃうんだよ」
「あー……」
普段はあんなだけど、ホントはご主人様も笑ったらとっても優しい顔になるんだよ。
誰も知らないとは思うけど、あたしはあの家に帰ったらペットだから。
だから知ってるんだ。
「だからさ、ちょっとでも櫻井君の事知りたいからさ、まどか何か知ってたらと思って」
「んー、あたしだって理央クンの事はあんまり……」
だからって、あたしとご主人様の関係は教えてあげられない。
だからご主人様の事も、何も言えないんだ。
と言っても、あたしだってご主人様の事は詳しくは知らない。
ご主人様の事をもっと知りたいのは、あたしの方だもんね。
「理央様の過去、ですか?」
帰りのお迎えの時。
サイさんの車に乗って帰る途中、あたしはご主人様が今ここにいないのをいい事に、叔父であるサイさんに訊いてみようと思ったのだ。
「わたしが勝手に話すはどうかと……」
そりゃそうだ。
誰だって自分のいない所で、自分の昔話をしてほしくないよね。
だけど、どうしても知りたいんだもん!
「じゃあさ、あたしがまだいなかった時にご主人様が食べてたご飯とか教えて!
あ、ほら、参考にしたいから」
「あぁ、それくらいでしたら」
ものは言いようだもんね。
毎日の100点のお料理は誰の事だとか、気になるし。
「まどかさんがいなかった時は、理央様の身の回りの事は全てわたしの仕事でしたよ。
食事もわたしが作ってましたけど、前も言いましたが何を作ってもほとんどまともには召し上がってくれてませんでした」
キッチンにだって入れるなって言ってたもんね。
サイさんの作るお料理って、ご主人様の好みに合わないって事なのかなぁ。
「サイさんって、どんなご飯作ってたの?」
「主に、質素な和食料理です。
でもそれは姉の……理央様のお母様から、教わったものなんです」
ご主人様のお母さんから教わった?
って事は、サイさんの作るご飯って、お母さんの作るご飯と似たような感じだったんじゃないかな。
じゃあ100点のお料理ってのは、やっぱり……
「わたしと姉は早くから両親を亡くし、貧しい暮らしをしていました。
今でこそ姉が結婚してからは、わたしの事も旦那様に拾って頂き、不自由ない生活をさせてもらいましたがね」
……サイさんって、そんな過去があったんだ。
だから、ご主人様の家に仕えていたんだね。
だけど、サイさんとご主人様のお母さんが元々貧乏だったなんて、ちょっとビックリだな。
「まだ理央様が小さかった頃は、ご家族3人大変円満な家庭を築いておりました。
だけど、姉が亡くなってからは……」
昔を思い出すように語っていたサイさんの言葉が途切れた。
ご主人様のお母さんは、もう亡くなっていない。
「旦那様も家に帰らない生活が続き、理央様も塞ぎ込むようになってしまいました。
そうしてわたしが姉の代わりに家事一切をするようになったのですが……理央様は、わたしの作る食事はあまり召し上がってくれなかったのです」
「味が急に変わったから?」
「いえ、逆に似すぎていたので、却って辛い現実を思い出してしまうんですよ。
その頃から、このサングラスもかけるようになりました」
そうだったんだ……。
お母さんによく似たサイさんの存在は、寂しさを思い出してしまうから。
だから、あたしの作る20点のお料理を丁度いいんだって言ったんだね。
「あ、すみません。勝手に話すわけにはいかないと言いながら、ずいぶんペラペラとしゃべってしまって」
「ううん。
あたしも謎だった事がわかって良かったかも」
「ですが、この事は……」
「うん。
もちろんご主人様には、内緒にしとくよ」
「ありがとうございます」
借金の人質まではわかるんだけど、だからってあたしをペット扱いするなんてヒドいって思ってた。
だけどペットって言うのは、人をバカにして言ったんじゃなくて、自分の事を相手にしてほしかったって事なんだろうな。
だからあんなに、あたしの事をかわいがってくれるんだよね。ご主人様?
でもあたしは、そんなご主人様が好き。
飼い主だからじゃなく、ご主人様が理央クンだから。
いつかまた、ご主人様じゃなくて、理央クンって呼びたいなぁ。
でもその時になったら、あたしたちの関係は………
0
お気に入りに追加
9
あなたにおすすめの小説
死に役はごめんなので好きにさせてもらいます
橋本彩里(Ayari)
恋愛
フェリシアは幼馴染で婚約者のデュークのことが好きで健気に尽くしてきた。
前世の記憶が蘇り、物語冒頭で死ぬ役目の主人公たちのただの盛り上げ要員であると知ったフェリシアは、死んでたまるかと物語のヒーロー枠であるデュークへの恋心を捨てることを決意する。
愛を返されない、いつか違う人とくっつく予定の婚約者なんてごめんだ。しかも自分は死に役。
フェリシアはデューク中心の生活をやめ、なんなら婚約破棄を目指して自分のために好きなことをしようと決める。
どうせ何をしていても気にしないだろうとデュークと距離を置こうとするが……
お付き合いいただけたら幸いです。
たくさんのいいね、エール、感想、誤字報告をありがとうございます!
親に捨てられた長女ですが両親と王子は失脚したようです┐( ^_^;)┌
頭フェアリータイプ
恋愛
クリームランド公爵の長女ルカは神の愛し子である妹アンジェラを悲しませたという理由で戒律が厳しいことで有名な北の修道院に送られる。しかし、その3年後彼女は妹の望みで還俗することになって???
投稿後3日以内にお気に入り10で短編に変更連載続行します。
お気に入りありがとうございました。短編に変更し連載を続行します。完結までどうぞお付き合い下さいませ。
イイカンジノカオモジを発見したのでタイトルを微変更
どうにかこうにか完結。拙作お付き合い下さりありがとうございました。
永遠のトナラー 消えた彼女の行方と疑惑の隣人
二廻歩
現代文学
引っ越し先には危険な隣人が一杯。
部屋を紹介してくれた親切な裏の爺さんは人が変わったように不愛想に。
真向いの風呂好きはパーソナルスペースを侵害して近づくし。
右隣の紛らわしい左横田さんは自意識過剰で俺を変態ストーカー扱いするし。
左隣の外人さんは良い人だけど何人隠れ住んでるか分からないし。
唯一の救いの彼女は突然いなくなっちゃうし。
警察は取り合わないし。
やっぱり俺たちがあんなことしたから……
ごめんなさい、全部聞こえてます! ~ 私を嫌う婚約者が『魔法の鏡』に恋愛相談をしていました
秦朱音@アルファポリス文庫より書籍発売中
恋愛
「鏡よ鏡、真実を教えてくれ。好いてもない相手と結婚させられたら、人は一体どうなってしまうのだろうか……」
『魔法の鏡』に向かって話しかけているのは、辺境伯ユラン・ジークリッド。
ユランが最愛の婚約者に逃げられて致し方なく私と婚約したのは重々承知だけど、私のことを「好いてもない相手」呼ばわりだなんて酷すぎる。
しかも貴方が恋愛相談しているその『魔法の鏡』。
裏で喋ってるの、私ですからーっ!
*他サイトに投稿したものを改稿
*長編化するか迷ってますが、とりあえず短編でお楽しみください
お幸せに、婚約者様。私も私で、幸せになりますので。
ごろごろみかん。
恋愛
仕事と私、どっちが大切なの?
……なんて、本気で思う日が来るとは思わなかった。
彼は、王族に仕える近衛騎士だ。そして、婚約者の私より護衛対象である王女を優先する。彼は、「王女殿下とは何も無い」と言うけれど、彼女の方はそうでもないみたいですよ?
婚約を解消しろ、と王女殿下にあまりに迫られるので──全て、手放すことにしました。
お幸せに、婚約者様。
私も私で、幸せになりますので。
「異世界で始める乙女の魔法革命」
(笑)
恋愛
高校生の桜子(さくらこ)は、ある日、不思議な古書に触れたことで、魔法が存在する異世界エルフィア王国に召喚される。そこで彼女は美しい王子レオンと出会い、元の世界に戻る方法を探すために彼と行動を共にすることになる。
魔法学院に入学した桜子は、個性豊かな仲間たちと友情を育みながら、魔法の世界での生活に奮闘する。やがて彼女は、自分の中に秘められた特別な力の存在に気づき始める。しかし、その力を狙う闇の勢力が動き出し、桜子は自分の運命と向き合わざるを得なくなる。
仲間たちとの絆やレオンとの関係を深めながら、桜子は困難に立ち向かっていく。異世界での冒険と成長を通じて、彼女が選ぶ未来とは――。
【読み切り版】婚約破棄された先で助けたお爺さんが、実はエルフの国の王子様で死ぬほど溺愛される
卯月 三日
恋愛
公爵家に生まれたアンフェリカは、政略結婚で王太子との婚約者となる。しかし、アンフェリカの持っているスキルは、「種(たね)の保護」という訳の分からないものだった。
それに不満を持っていた王太子は、彼女に婚約破棄を告げる。
王太子に捨てられた主人公は、辺境に飛ばされ、傷心のまま一人街をさまよっていた。そこで出会ったのは、一人の老人。
老人を励ました主人公だったが、実はその老人は人間の世界にやってきたエルフの国の王子だった。彼は、彼女の心の美しさに感動し恋に落ちる。
そして、エルフの国に二人で向かったのだが、彼女の持つスキルの真の力に気付き、エルフの国が救われることになる物語。
読み切り作品です。
いくつかあげている中から、反応のよかったものを連載します!
どうか、感想、評価をよろしくお願いします!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる