紫に抱かれたくて

むらさ樹

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キラキラ輝くネオン街を、煌と並んで歩く。

この街を抜けて、寂しい道を通っていけばあたしのアパートにたどり着く。時間にして、20分はかからないかな。


賑やかな繁華街を抜けた後は、急に現実を目の当たりにさせられたような気分にさせる暗い小道。

その間、煌とは何の言葉も交わさないまま歩いていたのだけど。



「ねぇ、煌…」

アパートに着いてしまう前にどうしても聞きたかった事があり、煌を呼び止めた。


「煌は…いくらであたしを買いたい?」

「え?」

以前は5万円を握らせてくれたね。
たった一晩の愛で。
それで煌は満足できたの?

あたしの値段なんて、あたしにだってわからないのに。
だからこそ、訊きたかったの。
煌の思う、あたしの値段を。



「…愛さんには、値段なんてつけられないよ」

「どうして?
前は5万円出してくれたじゃない」

「あれはたまたまポケットに入れたままだったからで…。
それに、やっぱりお金で買ったんじゃあ、手に入れた気分にならないよ」

「手に入れた、気分じゃない?」

あたしの仕事は、1プレイにつきいくらって決まってる。

キスもそう。
お風呂やヘルス1つ1つだって。

そしてお代を頂く以上は、値段通りの行為をしないといけない仕組み。

ホストたちも出張と言う名目で、決まった額を払ってデートをしてもらう。
煌は一晩5千で、紫苑は特別価格の50万?

でもお金で買った時間は、決して手に入れたものとは違うの。

それで、あたしの値段は………?


「お金で買えば、身体だけは手に入れる事はできるかもしれないけどね。
でもおれが欲しいのは、愛さんの身体じゃないから」

「……………………っ」

一度は枯れた涙が、また瞳を濡らし始めた。

「愛さんの心が欲しいから。
だから、値段なんてつけられないんだよ」

「煌……………っ!」


何の才能もなく、学もなかったあたしが見つけたのが、今の仕事だった。
身にまとったドレスを脱いで、身体1つあればお金を稼ぐ事ができる穢くも魅力的な仕事。

だけどそこにあるのは、何の愛情の欠片もない機械的な行為。

気持ちがないだけならまだしも、時には嫌悪感でいっぱいになったり、自分に嫌気すら感じる事もある。

だからこそ、凛は遊びと割り切ってホストクラブを楽しんでたんだ。

心なんていらない。
ただその時だけ楽しければいいだけの、一時の癒やし。

でもそんな心のこもってない行為、本当はちっとも癒されないのよ。


「……愛さん」

ポロポロと涙をこぼすあたしに、煌はポンポンと頭を撫でてくれた。
それが優しくって、あったかくって。


「それでもいつか愛さんの心が手に入るように、おれ頑張るんだ」

なぜか涙が止まらなくて、あたしはずっと泣いていた。

本来ならもうアパートに着いてる時間になっても、ずっと、ずっと。


その間も煌は同じように、ずっと頭を撫でてくれたの……。





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